作成会議と顔見せ
第5騎士団団長の執務室はある程度の広さと品の良い調度品や舶来品が綺麗にまとめられている。外交官との打ち合わせをすることがあるのだろう。執務のやりやすさと執務環境に気を配る所が性格をよく表している。
普段はタバコを吸うのだろうが、今はこちらを気を使ってかタバコは吸わず二人きりだ。ヴィーと彼女の副官のナイリアシナは隣の部屋お茶をしながら待ってもらっている。何か思惑があるようだし興味がある。折角なので乗ってみた。
「ようこそいらっしゃいました皇太子殿下、第五騎士団団長のヴァリラ・ギルステインと申します、と言っても夜会でお会いしてますね。」
「あぁ急な事で申し訳ないな、皇太子に就任したミロシェフ・ズィンガーネフ・バルトだ。夜会で良くして頂いて感謝するぞ。」
眼の前にいるヴァリラ閣下、熊獣人だからか老齢にも関わらず衰えを知らず大柄で頭からがっぷり食べられそうだ。
「本来貴族であれば優雅にお茶と世間話や雑談で入り、本題はもう少し後と言うのが一般的と分かっているが、今回は単刀直入に行こう。先立って陛下より辞令書は届いていると思うが状況確認をしていこう。
違法奴隷の件の作戦書は読んでいるな。私が陣頭指揮を取ることになっている、嫌だが。騎士団の一部は変装させて街へぼんぼんの護衛として同伴。
残った人員は領都防衛隊との合同演習を。あ、わざと書かせなかったが領主貴族は合同演習しか知らないから。何かあった際の救援部隊の配分は任せるぞ。」
「かしこまりました。違法奴隷の件ですので時間をあまりかけて良いものではありません。あまり国内活動しない我々は顔も知られていないでしょう。
何より殿下との交流を持てる事我々一同嬉しく思います。爵位を持つ者であれば新年会やパーティでご挨拶をさせていただきますが普通の隊員では閲兵式で顔を知っている程度でしょう。
これから護衛のお付きとして行動させていただく事もありちょうど良いです。こんな美少年の密な護衛など美味し……貴重な経験を逃す手もありません。」
「ああ。それにしても父上もこんな形で騎士団と会わせるとは甘いというかなんというか……。」
「陛下としては表立って便宜を図るというより、これから外交、政治、祝福、嫁の見初め等々楽しそうな事満載な殿下にささやかな親心と言った所ではないでしょうか。」
この老騎士団長とはパーティや夜会で会った事はあるがそれほど親しくした事はなく、仕事ぶりしか知らない。
陛下が指定した第5騎士団、別名外交騎士団。国外の外交官を警護・護衛するのが表の役目、裏では国外情報収集を主として活動。団長は武官として長く経験を積みながらも政治にも長けたからこの騎士団で頭をやっている。
そんな団長と話していると感じるのは孫を見るような、成長を見守る親鳥ようだ。だがどこか好色が混ざった視線を覚え正直やりづらい。
鳥ではなく貴女熊獣人だよな、俺は子グマか。やりづらいが、責任者としてこの者の上に立たなければいけないのだから、ほとほと嫌になってしまう。
好色の目は……。既婚者だよな、あ美少年は別と。
「それで合同演習ですが、領都の官憲達との演習内容はこんなのはいかがでしょうか?暗殺者グループ5人組が領都に入り込みその捕捉・捕縛と対象の保護。
特攻をしてでも確実に殺す事が目的ではなく、生還を主とし暗殺が出来ない場合撹乱に変更した者達です。我々がやるからには国内演習と言う体も立てられます。
騎士団は応援部隊、主体捜査は領都部隊でどうでしょう。犯行役は隊から募集と指名しようと思います。潜入班と演習班それぞれにご褒美があるとなれば士気もあがりましょう。
私には殿下との甘いデートでよろしくお願いしますね。」
「清く正しいデートでヨロシク。」
ちゃっかりしたばば……そう考えた瞬間背中にぞわりとしたものを感じる。お姉さんだったわ。そう妙齢のお姉さんだ。
ゆっくりと眼の前のお姉さんを見るとニコニコとした顔でいるだけだ。
「話は逸れたが、本題の人売だ。報告書は回し共有しているが、正直そこいらの犯罪者やマフィアがやっているとは思えない。代官の関与も不明なのが痛い。」
「私も同意見です。この帝国に住んでいて裏の世界に身を置くにしても人売はないです。リターンはデカくとも必ず発覚し国の報復を受けると考えれば奇特な自殺願望があるとしか考えられんです。
それこそどこかの国が背後におりバカを唆したか国が主導していると考えられます。」
「じゃあ、その裏にいる国と言えば東側諸国、教国か商合連合国家……。容疑者が多い。それだけこの帝国美味しそうかね。その点魔国外せるな。力が全て。謀殺より数による暴力があの国だと教えられて来た。」
「帝国というより殿下では?主にヤリモク。国の責任者が出るという事ならそれなりの御方、今ならちょうどヤリモク相手が出てくるいいタイミングです。
では、教国は神様に憎悪を燃やしていますから有力候補から外せるのでは?唯一神こそだー女神様しか認めぬーだとか邪神教は認めぬーと年がら年中ぬかしておりますから、異端者を捕まえたら犯っちまってそのまま公開磔ってのが彼らですよ。
魔国はそうですね、上はそこまでではありませんが中から下が脳筋な繁殖旺盛でバカが多いので複雑にしても扱い切れないか、指示が途中で分からなくなり大暴走が始まります。」
やっぱり体目当てのヤリモクかー。まぁこの身の祝福を奪えるだけでなく、子を孕ませば帝国の皇太子候補となり大規模な侵攻の手間なく手に入るとなれば策謀を張るのはありか。
「そう言えば、私の特技に手相を見る事がありまして。お手を拝借してもよろしいでしょうか?」
なにやらニンマリした顔で逃さないような空気をまといこちらを見てくる。
隣の部屋で待っているヴィーがいるから、襲われる事はないだろう。ないよな?くま獣人だから体格もよく抵抗をしなければ簡単にいただきますされるイメージしか沸かない。黙って犯られる前に一発でも叩き込めると思うがデカいからなぁ……。
「優しくして?」
「うへへへ、大きな声を出したらダメですよ隣に聞こえてしまいます。」
手をにぎにぎされる。何やら二の腕まで触られているがなんだろう、セクハラかな。顔がニヤけている、肉食獣の前に置かれた餌の気分だ。
たっぷりにぎにぎされ、食べる前に肉をもみほぐされている気がする。
「ごちそ……お手をありがとうございます。普人の男性なのに剣の鍛錬と魔法をよく学ばれた良い手です。平騎士の1人ぐらいであれば時間稼ぎぐらいはこなせるでしょう。兵士2人に囲まれタコ殴りにされてもなんとか武具で逃れられそうですね。
護衛がいて殿下にまで刃が届く時点であれですが、鍛えておいて問題ないでしょう。」
そう言って褒められたのか、セクハラなのかよくわからないが近衛以外の護衛として顔を会わせるのだから知られておいて損はない。
だけどこの流れ的に今回の護衛騎士達にセクハラを受けそうな予感。王侯貴族の中でもフランクなのが皇族であり、神とのデートを色々したりするので一応は民には慕われている。フランクな皇族……ふらふら現るあほ神。一応帝国の法典には不敬罪があるんだけど滅多な事では使われない。
「身の回りは主にアヴィエラに任せてるからね、信頼している。そもそも護衛の近衛騎士もいる。
外国には行ったことはないがその時は最強たる君たちがいる。それでもある程度は武芸はできるように鍛錬してやらないといけないからね。」
「そんなに褒めてもなにもでませんよ。さすが皇族の皇太子さま、可愛らしい笑顔だことで。」
頬をわずかに朱色に染てそんな事を言う。
「それじゃあそろそろ、こちらも準備とヴィーがそわそわし始める頃だと思うので、ここいらで失礼させてもらうよ。出立式はできないが、潜入班には手土産をもって会いにくるよ。」
「かしこまりました。準備を急がせます。武骨者どもの巣で申し訳ありませんが、精一杯歓待させていただきます。」
「それじゃあ、神と帝国に仇なす者に鉄槌を。」
「ええ、ナイリアシナに送らせます。神と帝国の加護のもと繁栄を。」
流石に既婚者にミロをやる気はないぞっ。




