国境線から覗き見
昨日はヴィー、バシリイ、ローレル閣下からこってりと叱られた。
腕力がないんだから、脳みそを使わないと軍人本職には勝てないんだよ。
バシリイからは、『あなたのことだから、勝ち筋はいくらでも用意してたんですわよね?』と聞かれたので、当然用意していた。全部で十二個ほど。
かなりエグい手まで用意していたとは言えないので、ニッコリ笑って誤魔化した。
その後、しばらく基地の奥に籠り、暇で死にそうになっていた頃、外務大臣一行がやってくる。第五の人員もいるが、外務大臣一行の中に知らない顔が一人いる。
やはり気になるのは、外務大臣の側にいる見覚えのない狐獣人だ。
「では、対エテリアル王国外交、作戦名『鳥かご作戦』のフェーズ2を開始する前に、全員の共通認識のためミーティングを開始させていただきます。司会は私、皇太子殿下付アヴィエラが進行させていただきます。
本目的は誘拐された者を救出し、責任者の領主にお仕置きすること。副次目標として、作戦を通じて周りの領主貴族と王家の関係を悪化させること。
戦略目的としては、エテリアル王国そのものを鳥かごとし、中の鳥達で荒れ果てた状態になることを望んでいます」
駐屯地の奥、地下に設けられた作戦会議室には、第五騎士団、第七騎士団、第六騎士団からは観戦武官、第九騎士団からの連絡員、外務大臣、といった主要な面子が集まっている。
喫煙者の方には申し訳ないが、人の多さと閉鎖空間を考慮し禁煙をしてもらい、換気も行っている。
「フェーズ1では既に第九部隊及び非正規部隊が全員潜伏済みで、開始の合図を待つ予定です。フェーズ2では、この駐屯地を出て、相手の街に到着し会談まで王国側には殿下の存在を隠し通す予定です。まずは外交面と情報面で殴り飛ばし、主導権を奪う計画です。」
ヴィーが作戦を事細かに説明していく。特に後半のフェーズで少しでも失敗すると、戦端が開かれ、地獄のような撤退戦が始まってしまうため、皆、真剣な表情だ。
「ではまず、外交面から。今回、表に立っていただく外務大臣卿からご挨拶をお願いいたします」
挨拶するのは、普人族の女性で外務大臣を務めるイゾルデ・ヴェルネア卿だ。今回の会談を設定してくれて、俺の存在を隠すことに成功している。
そして、側近として若い狐獣人が一人いる。見たこともない顔だ。年齢は同じくらいか、若い。
このような場所にいることに興味を持っている。
やがて、挨拶が始まる。
「今回、代表となっているイゾルデ・ヴェルネアだ。どこぞの殿下が私をこき使い、酷い要求を飲ませてこいと命令されたから仕方なく来た。
道中も帰還時も、向こうからちょっかいを出されることはないと思うが、王国は帝国と違い中央集権ではなく、領主も軍権を持っているから注意してくれ。
ちなみに、私たちに髪の毛一本でも失わせたら、街だろうと村だろうと燃やして灰にし、塩を撒いて不毛の大地になるまでやると脅し付けた。
だから、ここの領主はビビって手を出してこないが、国王派や他の領主は分からない。会談相手は中央が派遣してくるのは宮廷の侯爵位か伯爵だが、領主も同席させて利用する。
それと今回、新人を連れてきている。内務と外務、財務の橋渡しを任せたら、中々に使えた。本人の希望もあり、会談に同席させるが、発言権はない。挨拶を」
「はい。イゾルデ閣下より紹介に預かりました、リラ・エイルと申します。今回の件を一部担当し、参加させて頂いております。今後、殿下と外務の連絡役を担う予定ですので、今後のために無理を言って同席させて頂きました。フェーズ4では銀行へ赴く役割の一人でもございます」
挨拶をするのは、笑顔が眩しい活発な狐獣人だ。文官服を着ているが、尻尾がフサフサしている。ヴィーよりもフサフサだ。
だが、イゾルデ閣下が連れてきたと言うことは、あの笑顔の下にはエグい舌があると忘れてはいけない。
外務大臣は、剣を振る代わりに、舌が振られる。言葉だけで目的を達成するのだ。
その後、第五、第七、第六、第九の順に挨拶が進み、俺も挨拶をする。なんと今回の護衛戦力は全員騎兵で、従騎士も合わせて五百名と超豪華だった。
これに輜重隊も加わる。野戦を仕掛けられたとしても、包囲される前に食い破って逃げ切れる。
街の周囲の地図や簡易見取り図など、情報を再確認するが、ここまで情報収集する第九が怖くもある。
地図なんて、最重要機密なのに……。
「フェーズ3は簡単です。会談をします。ただし、時間をかけます。フェーズ4以降で失敗すると致命的です。認識を固めていきます。
フェーズ4ではリラ様と外交員護衛二名が銀行に視察に赴き、そこで運悪く銀行強盗に遭遇します。
イゾルデ閣下が脅し付けた通り、我らに傷一本付けさせないためにも、領主に武力圧力と内政干渉を行います。そのため、解決には時間がかかります。
フェーズ5では時間稼ぎをし、銀行強盗発生から二日目の夜、領主と会談相手が館にいる時に襲撃を行い、囚われた民を脱出させます。この脱出は輜重隊の一部が担当し、そのまま国境まで止まらず直行します。
フェーズ6では、我々の撤収と同時に銀行強盗役も撤収します。ただし、銀行強盗の撤収方法を知るのは第九の一部と殿下のみです。
我々が撤収する際、街の門が閉まっていたら、強行突破してでも出ます。後日、我々は銀行強盗に運悪く遭ってしまった、という形にします。その際、リラ様を回収します」
そこから質問と確認が飛び交い、不安要素を潰していく。未確定部分もあるが、現場経験が多い者がいるので、何とかなるはずだ。
最悪のシナリオとして、計画が失敗した場合を想定した作戦もある。
街から逃げ出し、街の門を突破した後、潜伏していた第九の人員が放火して回る予定だ。撤退戦の順序、経路、街道、地形を確認し、生存を優先するための撤退順位を確認していく。
街で上がる火や煙が合図となり、第七が国境を越えて出入り口を固め、迎えの即応騎兵部隊が俺たちをエスコートしに来る手筈だ。
「今回は会談という名の殴り込、そして短剣を振り下ろしに行く。我々の将兵が一人たりとも死ぬことを許さない、『鳥かご』作戦を始める!」
あぁ我のミロが手の届かない場所へ・・・。




