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逆転世界における現人神様の箱庭生活  作者: けちゃらー第一号被験者
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飼い犬の災難、後編

予定より早く出発せざるを得なかった。仕方なく、道中ロザリリスに作戦の全容を伝え、『いいか、貴族の戦い方をお前は後ろで、しっかりと学べ』と付け加える羽目になった。

そのせいで、外務大臣との待ち合わせ場所は国境地帯の第七駐屯地になってしまった。俺たちは物資と人員の輸送班に偽装して向かう。会談相手はまだ、外務大臣が来ると思っているだろうが、裏切らせてもらう。

第五の人員も少し入っているが、ラクトーシャとナイリアシナ達は外務大臣と一緒に向かっているため、俺が直接関わるのはヴィーとバシリイ、ロザリリスだけ。となると、やれることは少なく、時間が過ぎるだけだ。


馬車に揺られながら、ロザリリスやバシリイと作戦について話す。ロザリリスは学がないだけで、地頭が良いことは分かっているが、バシリイには変わらず訓練で殴られているのは秘密だ。

馬車に引きこもり、ようやく午前中に駐屯地に到着する。奥の会議室に入ると、待ち構えていたのは、大隊長と思しき六名だった。


流石にバシリイが制止するが、収まるわけがない。体格差を活かして、こちらを威嚇してくる。威嚇されたからには、殴り返さなければならない。

チラリとロザリリスを見て、『お前は黙って見てろ』と釘を刺す。


「おっと、失礼した。獣の檻に迷い込んでしまったようだ。バシリイ、作戦会議室はどこだ?」


「あ゙ぁ!?」


「殿下!お下がりを!こんな野蛮な獣の住まいにいる必要はありません」


「殿下にアヴィエラまでぇぇ……やだぁ……。」


お、早速バシリイが泣き出しそうだ。新任の副団長と歴戦の大隊長なら、兵達の人気があるのは大隊長の方だろう。反抗されたら、バシリイとしても面倒で仕方ないだろう。


「ここはお子様がピクニックする場所ではございませんよ?バシリイ副団長?お子様をさっさと皇都のお屋敷にお送りしてきてくださいまし」


「おやおや。ここでは、階級すら必要ないのか。随分と荒れ果てた騎士団だったか……。これはお里が知れるというものだ、ええ?」


「上は、どういった教育をなさっているのでしょうか、バシリイ様?それとも、騎士団長閣下でしょうか……?」


「言うに事欠いて、我々の銃後にいる人間が何を言うか!?それともなにか!お前たちだけでできるとでも、つけあがっているのか!?」


「はっ。この程度の連中だとしたら、お前たちを使うまでもないな。ええ?普人族の私を六名で囲んで威嚇するだけ。きゃんきゃん吠えているだけだろう?それなら、お前たちは俺の後ろの兵舎でガタガタ震えていればいいだろう」


「その通りです。仮にも騎士がか弱い男性に威嚇など、恥を知りなさい」


薪を積み、火を点けていく。バシリイはすでに諦め、ヴィーも援護する。ロザリリスは不安げに見つめているが、貴族社会ならもっと酷いことになるぞ。

さあ、もっと燃やせ。更なる燃料をと焚べようとした矢先に、横槍が入る。


「そこまでだ、お前たち!殿下もお抑えください!」


「ちっ、予想より早かったな。ローレル閣下。貴殿の部下によるおもてなしに感謝しよう。随分と独特なおもてなしをしてくれるのだ」


「閣下、私もこの場に臨席させて頂き、感謝いたします」


俺とアヴィエラで感謝をしながら彼女達の顔を見るが、お怒り中。


「閣下!我々は何度も奏上している通り、我々が後ろで待つなど許せません!このような方は特に!」


おぉ、すごい剣幕で詰め寄っているな。キャンプファイヤーを、もっと大きくできるかな。

作戦を伝えたところ、非常に嫌がってると聞いていたが、知らん。舐められたからには叩き潰す。


「おやおや?今更、淑女の皮をかぶるのか?ふふっ」


「ぐっ、と言わせておけば!バシリイ副団長、貴女も何も言わないとは、臆病者に堕ちたか!」


「えっ?!私は命令に従うだけですわ!」


「上方が間違えているなら、上奏するか、陳言するのが部下の役目であろうが!閣下も!」


「あぁ、もう分かった!貴様ら、謹慎させるぞ!」


「構いませんとも!陳言もせず、このような剣も握れないような可愛い方の後ろで、ただ黙って指を加えて見ているだけで、何もできないなど!」


やはり俺が皇族だから、ということではなく、『男』である俺が前に立ち、彼女たちが後ろで何もさせてもらえないことが、彼女たちにとって最も許せないポイントなのだ。

それが、今回の核心である。


「ハハハ!それでもお前たち、帝国の剣か?ええ?私は皇族でも皇太子だぞ?お前らにいつまでも守られているだけの雛鳥だと言いたいのか?それこそ侮辱にも値する。私は戦が始まればお前たちと轡を並べて戦うんだぞ?守るべき対象か?」


「そうです!この場で見て思いました、いくらなんでも早いのではと!」


「先程から聞いていれば、殿下への侮辱です。撤回を!」


「おいっ、それは!撤回しろ!?」


ヴィーとローレル閣下がすかさず撤回要求をいれるが、そんな事は許さんよ?


「はっ。この程度ですぐ発言を撤回するのか?それとも、私が、お前たちに守られるだけの存在だと試すか?それとも、尻尾を巻いて逃げ出すか?」


「殿下!?」


「良いではないか、閣下!そこまで仰るなら、試させて頂こうか!」


よし、釣れた。あとは、こっちの土俵に持ち込むだけだ。


「お前たちが期待する通り、『守られるだけ』ではないと、見せてやるさ。やり方はこちらが指定するでいいよな?武芸一般だ。着いたばかりだ、流石に準備があるから、少し待ってくれ。それとも早漏な女だったか?」


「えぇ!えぇ!!いいですとも、お待ちしておりますとも!!」



ルールは以下の通りだ。


1. 試合形式で俺対五名の大隊長

2. 木剣は訓練用のものに、さらに布を巻いて使用する

3. 練兵場を使う

4. 参ったと自分の意思で言ったら負(・)け(・)

5. 降参と言った者への攻撃は禁(・)止(・)

6. 意識不明は負け

7. 重症を負わせない

8. 原則中断はしない

9. 非公式なので、一般の観客はなし


とだけ書面にして渡し、了承を貰う……勝った。皇族が戦えない等と舐めた事を後悔させてやる。

なんで五名かと言うと、一人は観戦役として手を空けておかないと不味いからだ。平時だったら六人全員なんだけどね。


ロザリリスがおずおずと聞いてくる。


「殿下……その、よろしいのでしょうか?隊長は皆様経験豊富で強いですよ……?」


「だから、見て学べと言ったんだ。ルールがある?だからなんだ?勝たなければ意味がないって、お前は学んだろ?」


「えっ?えぇ……。」


ヴィーとバシリイは、ため息をつき、幸せが脱走してそうな顔をしている。ローレル閣下は胃痛を堪える顔だ。

この違いは、過去を知っているか知らないかの違いだ。非公式戦で良かったな。彼女たちのプライドが八つ裂きにされても、俺の評判が悪逆無道になるわけではない。


さあ、ヴィー。例のものを出せ。あとはバシリイ、貴女にはやってもらう仕事が山積みだ。


時間までは時間があるが、やることが山積みだ。時間になり、暑いものの、無地のマントを着用して練兵場へ向かう。

大隊長たちが待ち構えていたが、周囲には観客はいない。


「臆病にも逃げられませんでしたか!良いのですか?手加減はしませんよ?」


「はっ。今から勝った気か?これだから早漏な女は……。お前たちこそ後悔するなよ?」



全員の殺意が膨らむ。しかし、そこにあるのは殺意や情欲ではなく、『教育する』という目だ。

何が教育だあまちゃんが、けっ。


「では、第一試合を開始します!審判は私、第七騎士団団長ローレルが務めます。悔いが……ないよう……もう知らん!戦え!開始っ!」


開始の合図と共に斬り込んでくるが、何とか受け止める。


始まりだ。


「降参っ」


「は?」


誰もがぽかんとしている。お前たち、ルールをちゃんと書面で渡したぞ?


「じゃ、これからボコるから、覚悟しろよ?」


「えっ?だって、今降参って!?審判!」


「ああ、言ったな。聞いた。お前から攻撃は禁止だぞ。分かっているな……?」


「はぁあああ!?」


「お前たちルールを見たか?降参した者に攻撃をしてはいけない、とルールに書いてあるぞ?騎士様が言うまで、武器でボコるからかーくごーっ」


遠くで、ロザリリスが「あれってありなんですか……?」と聞いているのが聞こえる。

ありなんです。だってルールだもの。


その証拠に審判は誰も何も言わないじゃないか。

隊服を着ているとは言え、木剣で殴られれば痛いものだ。


おい、バシリイ、引くな。


「え、えっと……」


「防御しきれるか?」


斬り込んでいくが、防御されても意外と当たる。反撃しようとしても、身動きがとれない。

長丁場かなと思っていると、バシリイから助言が飛んでくる。


「その方は近衛の方々に鍛えられているから、剣は中々に使うぞ!組討は私より強い!早く『参った』と言うんだ!降参と言っても脅迫されるぞ!!」


「く、くそっ、参った……」


すごい悩んでいたが、突破する方法が思いつかなかったらしい。バシリイの言う通り「降参」と言っても、徹底的に脅迫して行く予定だった。


「勝者、殿下。それで……その……ルールの改定を……」


「ああ、いいぞ。ヴィー、新しい書面を」


新しいルールでは、降参も負け扱いになっている。


「ありがとうございます!じゃあ、第二戦目を進めます。降参と言ったら負けですからね!双方試合……はじめ!」


「あぁ、そこら辺から動かない方がいいぞ?」


「何を……行かせていただっぶっ」


「ああ、ほら、言わんこっちゃな」


何が起きたか。それは落とし穴に落ちたのだ。

待ち時間の間に、練兵場の至る所にバシリイに掘らせたのだ。


そこら辺は決して深いとは言えないが、足が引っかかり顔面から転ぶのだ。


「審判ー!!!!!」


「問題はない。ルール違反ではない。続けろ」


「……」


「人の忠告は聞くもんだぞ?」


「くそがっ、ならジャンプしてっぐぶ……」


「ほらー……」


「ごろずっ」


「危ないので下がりまーす」


「にがざねえ!がふっ……こなく……両足が抜けない!?」


「あぁ、ごめん。そこら辺、トリモチを仕込んでた」


「うわぁあ」「すまんすまん、本当にすまない……。」


落とし穴を器用に避け、もがく大隊長の後ろに回ると、後ろから蹴倒し剣を突きつける。どうとでも料理ができるぞ、と。



「ぐぞおぉぉ……。参った」


悔しそうな大隊長を尻目に、ローレル閣下が近づいてくる。


「勝者、殿下。そのルールの改定を」


「ああ、いいぞ?ヴィー、新しい書面を」


新しいルールには、降参は負け、罠を仕掛けない、という追加がなされる。

ここからまだ、三試合が残っている。


場はまるでお通夜のようだが、少し休憩がてら罠の埋め戻し作業をする。


「じゃあ、第三戦目を行います!罠はないですね。双方、位置に付けて、始めっ!」


「じゃあ、今度はこっちから行くか」


右手で剣をぶらぶらとさせながら警戒するところに、軽く斬りつけるがいなされる。警戒しているが、そこまでだ。

警戒が足りないぞ?


何合か打ち合い、つばぜり合いに持ち込むタイミングで、大きめのマントの左袖に仕込んだ、睡眠効果の高い薬を相手の顔に噴霧すると同時に、剣を押し切られるようにして離脱する。


「!?げほげほっ」


「「審判……」」


「ルールにないもん。問題ない……」


「少しすれば効いてくる。それまでに俺を倒せるかな?」


「ぐぞぉぉ……」


相手から逃げるように剣を交えながら、時間を稼ぐ。ふらふらになった相手が遂に倒れる。

倒れた振りかもしれないので、審判に確認させる。


「おいっ、ダメか。意識不明で勝者殿下。そのルール……」


「ヴィー」


「殿下、いったいいくつ……いえ」


もちろん、勝つためにはいくらでも用意がある。負傷者?が救護所に連れて行かれるのを見て、周囲の士気はガタ落ちだ。

だが、舐めたお前たちが悪い。戦いなんて、こんなものだ。


「殿下、罠も仕込みの毒もありませんね?」


「ああ、ないさ。ルールに書いてあるだろ?」


「では、第四戦目を始める。双方、位置に付け。開始っ!」


さっきからの戦いを警戒して、近づいてこない。なら仕方ない。

こちらから仕掛けてやろう。


「確かダリアラ・ウィローだったな。第七騎士団所属で既婚者。勤続二十年以上、旦那はオリアン・ウィロー。結婚してから長い。旦那との仲も良好で子供も……。良いことだ。奉仕に感謝する」


「何が言いたいんですかっ?!」


「旦那さんの働いているところは、確かここの第七騎士団の駐屯地で厨房係。たしかに料理は美味いと聞いているぞ?なぁ?」


相手の顔がどんどん青くなっていく。俺が何と言いたいのか、想像しているに違いない。


「ちなみに、料理が美味しいということは、引き抜くことだって……ねえ?審判には聞けないから。次席のバシリイ、いいよな」


「も、問題はありませんわ。私が止めることは出来ませんわ」


「皇族が引き抜くなんて、すごいじゃないか!扱いがどうなるかはダリアラさん次第だがな。俺はここでは何もしないけどな?」


「審判!脅迫ですっ!止めて!!」


「ルールにない。それに、原則中断なしと決めたのはお前たちだ……」


「物わかりが良いと、ありがたいんだが。どうする?五秒以内に決めないと、さっきまでの試合の通り、俺を悪逆無道だと思わせるぞ?」


「分かりました……降参します」


肩をがっくり落としてトボトボと控えに行くが、旦那に癒やして貰え。


「勝者、殿下……」


「ありがとう。これまでも、これからも、我が民に余計な手出しはしないと約束する」


「殿下……次が最後の試合ですが……ルールを……」



もう、お通夜も終わって、誰もが寝てしまったかのように静かだ。歓声も、勝者を称える声もなく、疲れて来た。


「ああ、次は『正々堂々』と戦おうじゃないか」


「えぇっ!?」


「皇族様を疑うのか?剣を使って戦ってやるとも」


この言葉を聞いて、皆の顔が輝く。やっと、正々堂々と戦い、その結果が示されるのかと。

その中で、ヴィーとバシリイの顔が暗くなっていく。じゃあヴィー。こっちへ。


「じゃ、じゃあ、正々堂々と最終試合を開始しま……その、殿下?アヴィエラを外に出して下さい」


「?これは奇異なことを仰る。この帝国では奴隷は『物』だ。それに防具の持ち込み制限はないぞ?これは私の『防具』だ」


「そうでした……。防具は……、問題ないです……アヴィエラはもので、防具です。一対一です。はい……」


「さっき、『正々堂々』って……」


あぁ、遂にみんなの目からハイライトが消え、声が死んでいく。さあ、やろう。


「ほら、審判、開始の合図を。ヴィー、ボコボコにしてきて。ヴィーは私の最高の剣で、防具だ。強いぞ?」


「では、最終試合を開始します。もーどーにでもなれー!開始!!」


開始の合図と共に、ヴィーが剣を片手に切り込む。今回は攻撃主体で戦うように伝えていたので、相手に攻撃させないよう圧倒する。

まともに打ち合ったかと思いきや、相手の木剣が下から上へ絡め取られたかのように宙を飛んでいく。一応、ヴィーも騎士団に所属しているから、素手での戦いもできる。だが、武器があればそちらの方が強い。

最後の大隊長はヴィーの木剣で打ちのめされ、最後は負けを認めていた。


「勝者……殿下。その、正々堂々でした……」


静まり返り、誰も歓声をあげてくれない。やはり、騎士学校時代からこうするとブーイングされても、称えられることはなかった。

士気がガタ落ちなのもよろしくないし、発破をかけようか。


「お前ら、勝者に対して拍手は?喝采はどうした?祝福の言葉がないのか?こんな男に負けて、舌が抜かれたか?お前らはこう思っているだろう。こんなの戦いではない、騎士の名誉も何もないと」


まばらに拍手をしてくれるが、場は静かだ。


「私はルールを守って正々堂々と戦い、お前らを下したぞ。降参と言う前に速攻で下せば良かった。罠を警戒し、もっと慎重に来れば良かった。薬に耐性かマスクをしてれば良かった。脅迫など跳ね飛ばし、私を殴り飛ばせば、アヴィエラに勝てばよかった」


不敵に笑いかける。


「卑怯だと?村で、街で、皇都で、戦う力を持たない女が殺され、男が犯され、子供や老人の死体が転がる中で、『卑怯だ!』と叫んで何になる。お前たちだって他国で金品を奪ったことがないわけではあるまい。

それを帝国は、第七騎士団には禁止していない。お前たちがした事を相手がしないわけがないだろう。何でもしていい男がいたら犯したくなるだろう」



徐々に暗い表情の中、瞳に火が灯り始める。自分が何のために騎士という地位になったのかを、再認識しているのだろう。

平民出身で実力で上り詰めた者もいるのは知っている。


「剣だけで戦えば、この場にいる者には勝てないだろう。現実問題どうだ?事前にお前たちと作ったルールに従った。

従ってさえ、これだぞ?負けたら意味がないんだ、お前たち。

お前たちが守りたいのは、ここを守り通すというちっぽけな誇りか?それとも、どんな手を使ってでも、後ろにいる力を持たない民たちを守り抜くための『栄誉』か。どっちだ!」


息を飲む音が聞こえてくる。俺は、この者たちの頭領となる人間だ。

死ねと命令するが、その前に謀略であろうと罠であろうと脅迫であろうと、兵士であろうと騎士であろうと、損失を避けるためなら俺自身が身を使って戦う。


「お前たちの頭領ローレル・エンツィア閣下は、立派な騎士で帝国が誇れる人間だ。また、若輩者ではあるが、バシリイ・イグナティも帝国が誇れる人間だ。

帝都ではお前たちを庇い、止めようとしていた。どうだ?部下が陳言といい、自分たちの面子だけを考えて発言してしまっていなかったか?それを彼女たちは悩み、騎士団を守ろうと手を尽くしていた」


彼女は、今回の件に最後まで反対していた。『もっとやり方があるのではないか、穏便に』と。

部下が、このような負け方をして俺への不満が生まれないか。

だが、時間も余裕もなく、悪い考えは広まるのが早い。


「お前たちの頭領や副団長のように、帝国が誇れる騎士になるのか。それとも、自分だけのプライドを考えるのかは、お前たち次第だ」


静まり返った練兵場を見渡す。全員の顔を見ると、ようやく良い顔になった様だ。

覚悟を決め直した、良い顔だ。


今までは張り上げるような声から、優しい声に切り替える。


「俺はお前たちに守られるだけの人間ではないんだ。お前たちと共に戦い、轡を並べる人間だ。お前たちと同じで戦う人間だ。

だから今回は俺が先に相手を殴りに行く。相手はきっと殴り返してくるだろう。その時はお前たちと一緒に戦わせてくれ」


拍手が満ちる。


戦った者も、見ていた者もみな、拍手をしてくれる。


自分達が主君の馬前で死ぬなら分かるが、主君がノコノコ前に出てくなど耐えられなかったのう。それでいて痛い教育をなされたの。

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