飼い犬の災難、前編
皇都を出る約二週間前に、『些細ながらクッッッソ面倒な問題が起きましたわ!』と慌てたバシリイがやって来た。
これから出て、国境地帯の駐屯地に入り、現地で日程を合わせる予定だったが、聞いてみると、大隊長クラスにまで「俺が駐屯地入りする」という情報が漏れていて、かなりお怒りらしい。
これから敵国に情報が伝わったとしても、今さら手を打つことはできない。だが、問題はそこではない。情報が漏れたことで、駐屯地側が俺の来訪を知ってしまったことだ。
各団長級は既に現場入りでいないため、バシリイはいるので第五の副官二人のラクトーシャとナイリアシナを急遽呼び出し、これからを相談する。
国境地帯の騎士団は、誇りある大強盗集団なので扱いが面倒なのだ。彼女達は国境を守り、銃後の民達を守り、逆襲では他国へ強盗に行く。
なので、本来なら守られる側の皇族である俺が前に出て、作戦まで行うなど、彼女達からすると『下がっとけボケ!』と言いたくなる気持ちも分かる。
が、今回、彼女達の上官の上官は俺なのだ。
舐められたままなのは、許されない。
そして主人を舐めた駄犬など許さない。
「で、今回の件の処罰は、後回しでいい。このまま駐屯地入りしたら、囲まれてしまうぞ?」
「舐められてますから、反抗され、主導権を取られかねません」
「皇太子として命令をしてもいいですが、今後に響きます。特に、秋の戦役が面倒になります」
「後ろにいる、護るべき皇族が体を張ってるのを、黙って見てられるほど良い子ではないっす」
「その第五のお二人の言う通りですわ……。国境を守り、民と帝国を守ってるという誇りが、今回仇になってしまいまして……」
ヴィーも、ラクトーシャもナイリアシナも、似た意見を出してくれる。
「それで、怒りの根源としては、俺が『守られるだけの弱っちい皇族』と思われてるからか?」
「その通りですわ。私は兎も角、情報が遅い国境地帯では『守るべき可愛らしい皇族』と思われておりますわ」
「可愛らしいってのは、賛成っすが、過保護に守る必要はないっすよ」
「この前、『処女斬った』と報告書を読んだし、サポートで手を貸したが、手を汚したからな」
「私も知っておりますわ。言い訳ではありませんが、最近は国境地帯が騒がしく、長期間そこを離れて帝都に来られる部隊もいなかったので、まだ殿下に幼少の頃のイメージを持ったままの者が多くいますわ。皇太子となられましてから、閲兵式もしておりませんし……」
あぁ、確かにこの件にかかりっきりで、騎士や兵士の閲兵式や夜会に出てないから、俺の落ち度でもあるな。これが終わったら、出なきゃ不味いな。
「つまりは、殿下を強く見せればいいと言うことでしょう?」
「極論、そうだ」
「ぶっちゃければ、そうっす。中身は、いたずらっ子で可愛らしい男性っすけど」
「その通りですが、やり方が問題ですわよ?騎士学校では、弱っちかったですし……」
「うるさいよ。組討に持ち込めれば何回か勝ったじゃないか!」
組討に持ち込めたのは最初のうちだけだ。あとは、腕力でやられた。
日々、戦闘訓練に明け暮れ、国境地帯で傭兵がうろちょろ小競り合いをしてる、現役騎士を相手に、武力で上回れと言うのは不可能に近い。
「そうなのですが、時期も悪く、結構ピリ付いていまして。武力で認めさせるなら、まず私に勝ってからでないと、無理ですわ……」
「さて、じゃあ、殿下がただ守られるだけの存在ではないと、分かって貰う方法を考えなければいけません」
「無茶だ」
「無理っす」
「卓上演習や、兵士たちとの演習では、納得してくれるような良い子ではないです」
「みんなして、酷い言いようじゃないか……。君たちに挑んだって、返り討ち間違いなしだが」
しんっ、と静まり返ってしまう。正攻法では、無理だ。
じゃあ、どうするか。
権力には靡く。けど、上に行きたいから騎士やら兵士をやって、国境にいる。だからこそ、プライドもある。
「こういう時は、正攻法に見せた横合いからの殴り倒しを、やるべきか」
「殿下……」
「またですの……?」
「「?」」
ヴィーとバシリイは、嫌そうな顔をしている。あれは評判が悪いんだよな。
ラクトーシャとナイリアシナは、よく分からないって顔をしている。
「分からない二人に、超簡単に説明するとな。俺は弱い。弱いが、名誉を傷つけられたから試合をするとする。そこでルールにないことをやったり、ルールを曲解したりして相手をボコった」
「いたずらっ子ってレベルではねぇっす、ワルガキっす」
「まぁ、引けないなら仕方がない」
「ラクトーシャは、もっといたずらをして欲しいと。分かった」
「?!け、結構っす!」
「お楽しみだな。私も混ぜて欲しいところだ」
「是非、参加を」
ラクトーシャを弄るかとナイリアシナとそんな話をしてから、『こういうのはどうだ?守るべき皇族から挑発されて、逃げられるか?』と作戦を話していき、バシリイからは、『そんな挑発をされておいて、逃げましたら隊長の威厳が吹き飛び、部下が付いてこなくなってしまいますわ』と、お墨付きを得た。
作戦会議をして、そのまま伝令で第七騎士団長に、『このまま行くが、大隊長達に暴走だけはさせないように』と厳命した。
主人を舐めた駄犬を躾に行く、なんてことになるとは……。
皇族の男性あるあるじゃな。男は守ってなんぼのものじゃが、教育がしっかりしておる故大丈夫じゃろうて。




