お客様とボコボコ
外務大臣からの報告を待っていると、第六騎士団からの観戦武官が単身で門衛に紹介状を持ってきたと報告された。しかし、違和感がある。
一旦、応接室に通し、ヴィーが対応する様子を隠し通路から観察する。
見て取れるのは、顔立ちが整っていることと、角が一対あり、竜人種の尻尾もあるため、上位種の魔族だということだ。身長もヴィーと同じくらいだが、体つきはスリムである。着痩せしている可能性もある。
違和感はいくつかある。まず、騎士が単身で来ることだ。普通なら従者や従騎士を伴い、馬車で来る。騎士が着る服は一人でも着られるが、板金鎧や重装備は一人で着られないので、手助けが必要だ。
あとは、ヴィーとの応対や紅茶を飲む所作が堅い。緊張しているのかと思ったが、まるで貴族出身ではなく、平民が迷い込んだかのような動きだ。
答え合わせのために紹介状を読むと、驚いたことに、移民二世の平民出身で、生まれは帝国だが、親は魔国出身で、ゴリゴリの力信奉者だった。好きな既婚男性を追ってこちらに来たはいいが、妻たちにボコボコにされ、何とか認められ、娘が兵士になったらしい。
上位魔族だから、兵士上がりの従騎士見習いでも力は強く、地頭も良い。ただ、頭を使うことが少なく、とりあえず殴り飛ばせば力関係が分かり、超従順になるらしい。
躾って、それでいいんか……。
第六騎士団の管轄は山岳地帯で、大人数で戦闘をしようとすると場所が限られてしまう。少人数で個々の戦力を重視するため、集団戦法が苦手な者たちが集まるのも仕方ない。
しかし、これを俺に任せて育てようとしているのが見え見えだ。貴族流の育て方をしても理解するのに時間がかかるなら、最初から鉄拳で分からせろということか。
廊下に出て、侍従と共に応接室へ向かう。
「待たせたな。確かに紹介状を確認させていただいた。それで、お名前は……」
「ほぇー……めんこいこっちゃ。い、いえ、こちらが先触れを出さないまま来てしまっただ、しまいましたこと、すみ……申し訳ありません。えっと、名前でしたね。家名はなく、ロザリリスといい、申します。第六観戦武官として、着任のご挨拶にきた……伺いました」
ヴィーがこちらを見てくるが、言いたいことは分かる。大丈夫か、こいつを貴族社会に組み込んで……。口性のない奴らなら、延々とイジメ続けるぞ。
目配せで、とりあえず慇懃無礼にやってみて、どの程度反応するか見たいと伝える。反応次第では、もっとやれとも伝える。俺の所有する奴隷とはいえ、舐められたらイラッとするはずだ。
「あぁ、確かに。では改めて自己紹介を。私はミロシェフ・ズィンガーネフ・バルト皇太子である。隣のこいつは俺の所有するアヴィエラだ。ヴィー、挨拶を」
「はっ。ロザリリス様、改めまして、私、皇太子殿下所有の奴隷のアヴィエラと申します。どうぞ、ヨロシクオネガイシマスネ」
「こぢらこそ、ご丁寧に、ありがとございます」
地頭は良いようだ。ヴィーに馬鹿にされたことには気づいているようだが、そこで終わらせるなら貴族とはやっていけない。
やるなら、『流石は皇太子殿下が所有なさる奴隷です。素晴らしい教育をなされて、見習いたいものです。私も一緒に学ばせていただいても?』といかなければ。
「それで、ロザリリス様。今晩の宿はお決まりでしたでしょうか?」(訳:アポなしで来るような奴を泊める部屋はねぇ。帰れ。宿がないなら、自力で何とかして取れ)
「だ、大丈夫です……ご心配をおかけして。第六の駐屯地宿舎に、来客用の部屋があるだ、ありますので、お気遣い御無用です」
「そうでしたか。これはとんだご無礼をいたしました。失礼いたしました」(訳:だったら、最初にそっちへ行ってから、こっちに先触れを出すのが筋だろ?けっ)
目の前のロザリリスを見ると、何かを耐えるようには見えない。だが、どこかで聞いた話では、竜人は興奮してくると瞳孔が爬虫類と同じように縦に割れるらしい。本当のようだな。
これはヴィーも気づいているが、もっとやれと合図する。相手は相当苛立っているが、まだ耐えているといったところか。フライパンで調理中の腸詰のように、いつかきっかけがあれば弾けそうだ。
「アヴィエラ殿に、心配などかけてしまい、申し訳ありませんねえだ」
「いえ、私如きに、殿や礼など不要でございます。礼であれば、館の主人であります殿下にどうぞ。お客様をお気遣いできないようでは、礼を欠いてしまいますからね」(訳:奴隷に殿とか使うなし、田舎者が。礼を言う先は殿下だ、ボケが)
「重ね重ね、しつれんんっ、申し訳ねえだ」
「それで、ロザリリス様。今日は着任の挨拶とのことでしたが、他にご予定などはございますでしょうか」(訳:先触れなしで会ってやってんだから、なきゃさっさと帰れ)
「団長からは、見て学んで来い……学ばせていただいて来なさいとだけ言われたから、側で見させてでもと……」
えぇー、そこまで彼女、適当に育ててるの……?だが、ここで彼女を原隊復帰させるのも、陛下が仰っていることを真っ向から破ることになってしまうので不味い。想像以上に教育できていないよ……。
ちょっと、ヴィーとこそこそと話す。
『貴族教育のために送り込まれているんだが、嫌がらせかな』
『いえ、あれが素です。頑張って取り繕っていますが、そろそろキレそうなのを堪えています』
『確かに、地頭は良いよな。キレさせて、お前が完膚なきまでボコボコにできるな?』
『貴方様の剣が、このような奴に負けるとお思いで?』
『ありえないな。何とかキレさせるか、非公式の決闘に持ち込め。それでボコれ』
『畏まりました』
「左様でしたか。ですが、一応、軍機も側付きになると見ることになりますので、階級が足りるか確認を、第六騎士団に送らね……」
ガシャン。ティーカップの落ちて割れる音が響く。ハンドル部分を握り締めすぎて折ってしまい、本体が落ちたみたいだ。瞳の色は茶色で、縦に瞳孔がガッツリ開いてらっしゃるね。
「あらら、ロザリリス様、大丈夫でしょうか?」(訳:高いティーカップを割って、大丈夫?)
「あ゙ぁ、さっきから、あたしでも分かるぐらい、馬鹿にしてふざけんな、テメェ!」
「ご挨拶させていただいた、皇太子殿下の奴隷ですが、もうお忘れでしょうか?」(訳:痴呆か?)
「奴隷なら、テメェをぶちのめしても、問題ねぇってことだな?あ゙ぁ!?」
「あら、主人の物を壊そうと?そもそも、貴女様にできます?」(訳:出来るもんなら、やってみろ)
「ちっ。皇太子殿下、おたくの奴隷と決闘がしたい。貸してくだせぇ!」
「非公式なら良いぞ?おたくの団長閣下から、学ばせろと来ているからな。教育だ。近衛が使う練兵場に向かう。時間を取るのだから、みっともない負け方をするなよ?」
牙を剥いてきそうなロザリリスを無視して、侍従に先触れを出させ、馬車で練兵場に向かい、人払いをする。
「では、非公式の決闘を行う。ルールは簡単、意識を失うか、参ったと言わせたら勝ちだ。骨折や重傷を負わせるな。両者、良いな。防具はなしだが、一応、木製武器に綿を巻いて布を被せたものがこちらにある。短剣から巨大なクレイモアまである。それぞれ確認して取れ。盾は、ヒーターでも、カイトシールドでも、タワーシールドでも用意してあるが、一般的なものしか種類がない」
「あぁ、問題ないぞ!あたしは、この大きなバスターソードでいい!確認しな!」
「では、私は片手剣に、カイトシールドと短剣のオーソドックスな装備で行きます。確認を」
二人が選んだ武器を確認していき、問題がないことを確かめる。ヴィーがしっかりとした騎士の武装しているのをみるのは久しぶりだ。
「では、俺の合図で開始だ。はじめっ!」
「おらっ!」
やはり、細身でも全身の筋肉が発達しているのが魔族の特徴で、上段から切りかかっている。筋力に任せて振り下ろして食らわせられれば、そら強いだろう。
だが、近衛にいた時からもそうだが、第五騎士団と一緒にいたヴィーは盾の使い方がうまくなった。振り下ろされる剣を盾に添わせて受け流し、そのまま盾でロザリリスの体を横へ押し出す。
そうすると、ふらついて転びそうになる。豪剣を前に振り下ろすなら、体勢は前のめりになる。横から押されたら、ふらつくものだ。
「ふふっ、その程度ですか?まだ、剣すら使ってませんよ?」
「くそが!」
頭に血が上ってしまったようで、切り込んでくるが、盾でいなされている。どうしても受ける時は重心を下げて衝撃に備えるところを見ると、やはり筋力はあるようだ。
そんな風にやっているが、一向に埒が明かず、切り込めないことに更に苛立ったところで、盾を思い切り顔面に叩きつけられる。痛いというより、馬鹿にされたと感じるんだよね、あれ……。
追撃するかと思ったが、しないようだ。情けをかけられたと思ったのか、更に激怒しているご様子。
「くそがっ、ぁあ!」
そう言うと、剣を上から振り下ろす。剣から力任せに突いたり、剣を薙いだりするようになっている。それを盾でヴィーは受けると、右手に持っていた剣でロザリリスの足を思い切り叩く。体勢がよろけると、後ろに回り、尻を蹴飛ばして転ばせている。
「奴隷の足元で、なにやってらっしゃるので?まだまだ、続けるんですよね?今度は、私からですよ」
「ちっ、当たれよ!」
今までヴィーは防御一辺倒だったのを切り替え、盾で受け流し、盾で殴り、剣で斬りつけていく。防御に比重を置きつつ、カウンターを仕掛ける。
確かに当たっているが、頭に血が上っているため、痛みには強くなっている。それでも腹を剣で強打され、背中を蹴飛ばされれば、動きは鈍る。
ボコボコにされているが倒れないのはすごいと思う。しかし、ロザリリスの剣は一打もヴィーに当たっていない。
見ていると、殴られてはロザリリスがよろけるものの、気力で耐えているみたいだ。そろそろ決着かなと思う。
遂に、鋭い剣筋だった横薙ぎの剣も、今では力が入っていないらしく、ヴィーの持つ剣で受けられ、左手の盾で上から叩きつけられてしまう。剣を取り落とすと、ヴィーは足でその剣を届かない場所へ蹴飛ばしてしまう。本来は、籠手ごと手首を狙う技だけど、それじゃ不味いものね。
「あぁっ」
「武器、なくなりましたけど、まだやります?」
「この拳が、未だあるっ!」
「はぁ……」
ため息をつくと、盾を高めに構え、ロザリリスの視線を遮るようにする。そのまま盾が押し出されるのか、剣が出てくるのか見えないようにし、にじり寄っていく。
掴みかかられれば盾を押し出し、引こうとすると剣で攻撃する。もう成す術もないかなと思った時、破れかぶれのタックルを仕掛けてくる。
「魂胆、見え見えですよ」
そう言うと、一歩横にずれてタックルの足をかけ、転ばせる。後ろから背中を踏みつけ、剣を突き出している。
「ほら、言いなさい。さもなくば、意識を失うまで、このままボコボコにします。みっともなく、抵抗しますか?本番じゃないって」
「う、うぅぅ……参った……」
そうして、ヴィーは一度も攻撃を体に受けることなく、ロザリリスは完膚なきまでにボコボコにされ、上下関係が作られたのだった。
一応、救護所に見てもらった後、馬車を回してやり、駐屯地に送らせるが、少ししたら俺も向かうとするかね。
ここで武力を見せつけ、甘い言葉で懐柔するのが貴族のやり方だと教育せねば。甘い言葉を無粋な反応で跳ね除けるならば、降格で一生兵士だし、学べれば従騎士位からは上がれるだろう。
「で、ヴィー。彼女はどうだった?」
「真っ直ぐ過ぎるので、貴族の相手は無理です。剣も見ての通り直情的で、私が盾なら、メイスやハルバードなどの武器を選び直せば、筋力と合わさって脅威になるものを……。脳筋すぎます」
「それは、見ていて思ったな。盾の裏に隠した短剣も使っていないものな。剣の根本あたりを盾で受け止め、脇から攻撃するなんて常套手段なのに、警戒せずだったし」
「上手くやれば、殿下でも勝てますよ?確かに力は強いので、まともに受けたら、吹き飛ばされて死にますが」
「俺が戦うとか、そんなにないだろ……。あったけどさ。地頭は良いけど、育つかね?」
「どうでしょうか……。本人の意思次第でしょうね。頭を使う脳筋は強くなりますが、それまでに死ぬのが常道です。成長のためにも、この後、向かわれるのでしょう?少し汗を流して準備をしてくるので、失礼してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、ご苦労であった。いつもの近衛の休憩室にいるから、終わったら準備して、迎えに来てくれ」
「畏まりました」
一旦、アヴィエラと別れ、侍従を連れ、手土産にお菓子を持たせて休憩室に向かう。勝手知った場所だから、一人でも行けるが、一人で歩くのは外聞が悪い。
そうして、駐屯地の奥まったところにある休憩室の前に立つと、ノックをせずに開けさせる。
「やぁやぁ、諸君。約束通り、美味しいお菓子を持ってきたぞ」
「「「「?!」」」
「で、殿下ッ?!」
「こ、これは失礼いたしました!ご来訪されているとは知らず、座ったまま、申し訳ありません!!」
急いで立ち上がり敬礼をしてるが、内一人は凄いむせてるけど大丈夫か?
「あぁ、気にするな。俺が勝手に来てるだけで、非公式に使わせてもらってるだけだからな。休憩中であろう?邪魔してもいいか?ヴィーが迎えに来るまで滞在させてもらえるとありがたい。諸君には菓子を持ってきた。非番のものには、内緒だぞ?」
「えぇ、どうぞ、どうぞ!皇室御用達のお菓子、美味しいので好きです。あぁ、アヴィエラと、見知らぬ者が練兵場を使うって、人払いしたと聞いてましたが、それでですか」
なんで、近衛の休憩室かって言うと、応接室じゃあ俺しかいないし、つまらないからだ。ここなら奥まった場所で、休憩中の部隊が必ずいて、武器庫も併設されており、安全が担保されるからちょうどいい。
休憩中だからといって、酒を飲むこともタバコを吸うこともせず、軽食だったり紅茶か豆茶を淹れる程度だ。全容をぼかして伝えるが、ヴィーは「殿下が絡まなければ、強いですもんね。どうせ焚きつけたんでしょ。トランプ、一緒に入ります?」とか、構ってくれるから、訓練後などに来るのだ。
そこで、最近のことや妹たちの様子を聞いたりして時間を潰すと、ヴィーが馬車の用意と手土産の用意ができました、と迎えに来たので、お菓子のことは非番には内緒だぞと言って去る。
馬車で第六騎士団の駐屯地に向かうと、門番所のところに御前会議にもいた副団長が待っている。流石に先触れを出さなくても、分かるか。
案内される時に、団長が今は国境地帯に戻ってしまい、私で申し訳ありませんと謝られる。
「それで、殿下。この度は、私共の訓練に使うような真似をして、申し訳ありません。団長に代わりまして謝罪をさせていただきます。私も団長も降格して兵卒になるも、いかような罰でも受けますので、ロザリリスの降格はご勘弁いただきたく」
「あぁ、それについては、先の紹介状に書いてあったから不問だ。焚きつけたのは俺らの方だが、何故そこまで庇う?」
理由を説明されると、第六騎士団は個人戦闘能力が高い者こそが良いという、厄介な脳筋風潮が蔓延しているらしい。他の騎士団と演習すると、個人戦では勝てても戦略目標を取られて負けることがある。
『若い脳筋が、ここまで変わって強くなったんだから、ロートル共も萎んだ脳みそに新しく刻んで強くなれ!』
それを断行する機会と捉えたらしい。脳筋にものを教えるやり方がどうかと思うが、確かに若い従騎士が脳みそを使って強くなり、『お前らこんなこともできねぇのか、ははんっ?』とやられたら、脳筋どもも変わらざるを得ない。
変わる気がない奴は、西方へ栄転させて個人戦闘を貫き通し、死ねばいいとも、恐いことを言っている。確かに、西方の蛮族エルフは、強弓を樹上から木々の間を通して撃ち込んでくるから、一人でいたら良い的だ。
そんな話を聞いて、じゃあそろそろロザリリスのところに行ってもいいかと聞くと、少し悩んでから『しょげてるので、イジメないであげてくださいね?あれでも一応、私の遠い親戚に当たるので』と気まずそうに言ってくる。だが、そこは本人次第だと案内させる。
ヴィーと俺を案内させ、宿舎の一室に行き、ノックをするが反応がない。仕方ないので開けさせると、ベッドの上で三角座りをして毛布を被り、遠い目をしている。
見ていたら、いきなり胸ぐらを掴まれ、思いっきり殴られている。
「貴様、上官を無視するとは、いい度胸だな!偉くなったものだ!」
「なにしやが……!?」
「見舞いに、こさせていただきました。徹底的にやってしまったので」
「げっっ、何しにきたんで?あたしのことを、軍役から外すんですか?それとも犯罪奴隷にでもしにきたんで?」
「先ずは立って挨拶せんか、このグズがっ!」
そう言うと、再度胸ぐらを掴んだまま殴り、ベッドから引きずり出して床に投げ出している。この人も意外と軍人らしく、脳筋だよね。
「ちっ、こんな所に来て頂いて……。殿下まで、いらっしゃるってことは、本気であたしの軍属人生も終わりか」
「口を慎め、馬鹿者がっ!」
折角立ったのに今度はみぞおち辺りを殴っており、えずきながらロザリリスはうずくまっている。
「すまないが、三人だけで話がしたい。ボコボコに殴られていては、話が進まないので外に出てくれるか?」
不承不承な空気を出しながら、別のところから椅子を二脚持ってきてくれて、私は外にいますと離れていきロザリリスはベッドに俺とヴィーは椅子に座る。わざわざ椅子を二脚持ってきてくれたのだ。
重苦しい空気が残され、誰も口を開かない。
「まぁ、先ずはこれを。湿布薬だ」
「ありがとうございます。それで?さっさとあたしのことを、引っ立てていけばいいじゃないですか」
「殿下、こやつに制裁を加える許可を」
「ダメだ。ったく、これだから脳筋どもは扱いが面倒なんだ。言葉の前に手が出やがって。自分の物差しでしか物事を見られない奴らが多いから、こうなったのか……?
あぁぁ、面倒だが、上に立つ者として下を育てろか」
「何が言いたいんですか。はっきり言ったらどうです。遠回りな物言いじゃ、あたしは学もないんで分からないです」
あーもう拗ねた軍人は面倒なんだ。
「お前は、今回なんで俺の所に来させられたか、ちゃんと考えたか?」
「そら、厄介払いに決まってるじゃないですか」
「あぁぁ、ほんと言葉ではなく拳で語り合う奴らは、ちゃんと言葉で伝えてないのか。
いいか、それぞれの思惑を特別に教えてやる。先ずお前の上官から。お前を殴っていたのは、お前を守るためだ。あれはお前に上官が罰を与えており、無礼な行いの責任は私が負うと、言葉にせずとも俺に伝えているんだ。お前を守るためにな」
本当に言葉以外で語るって貴族の世界じゃよくあるんだよ?
「そんなの、分かんねぇよ!」
「次に、お前がここに来た理由だが。厄介払いと言ったな。それこそ西方に送って巡回に回すか、船に乗せた方が早い。
それをしないのは、お前はまだ若く、これからの世代を背負うと信じて送り出せる地頭を持っているからだ。地頭が良いのは、ヴィーに煽られていると気づいていたろう?それが証拠だ。
お前たち第六の現状は聞いた。そこで頭を使った戦いを学び、他に伝播させる役割へ選ばれて期待されているからだ。でなくば、平民のお前がここに来ることも、貴族の社会に関わることもなかった」
「周りが脳筋ばかりで、頭を使う必要がなかったので、これから使えってことです」
「言いたいことは分かります。ですが、何をしたら良いかなんて分からないですって!」
拗ねたところから、学ぶ気になったか。切り替えが早くて助かる。
「じゃあ、振り返りをしていこう。これはヴィーから言ってもらった方がいいな」
「畏まりました。先ず、私が応接室にいた時、貴女を煽りました。あんなの、宮廷雀たちに比べればかわいらしいものです。私は奴隷ですので、何を言われようと口答えは許されませんが、貴女には副団長としての任を与えられた肩書があります。それを使うなり、口答えをすればよかった。安易に武力に頼り、それを使った。軍人として最低です。それしか知らない?なら、変えなさい」
「……」
何も言い返せないようだ。これは俺にもやってくるので、自制しなきゃ。
「武力に頼った時も、そもそも問題です。貴女は何ですか?」
「兵士……いえ、従騎士位、臨時副団長です」
「なら、勝負に負けることが許されますか?」
「いえ、許されません」
「私は貴女がバスターソードという武器を選んだので、守りに長けた盾と剣と短剣のオーソドックスなものでボコボコにしました。
逆に、私が貴女の立場だったら、後からツーハンドメイスなどに選び直して盾を無効化し、追い詰める選択をします。私は殿下の剣であり盾です。負けることなど絶対に許されません。何をしてでも、卑怯と言われようと、勝たなければ主様が傷つくことになります。
もう一度聞きます。貴女は本当に自分の立場を自覚していますか?安易に武力に頼って、貴女の掲げる看板に自分から泥を塗って許されますか?」
「いえ……許されなかったです。そうか……だから殿下は、非公式と言って……」
「やっと分かったか。これが頭を使うということだ。分かったな?わざわざ俺が非公式と言った意味も理解したようでよかった。団長閣下がお前を信用して、育てたくてここに寄越したんだ。俺は貴族らしからぬ皇族様だからな。
何をしたら良いか分からないなら、分かるように見て学び、ヴィーにでも聞くことができるんだ」
「ありがとうございます。かような者に教えていただき。団長閣下の期待を裏切らないように、学ばせてください。お願いします!」
そう言って土下座をし、こちらに頼み込んでくるので、ヴィーに目配せをし、許可を出す。
しばらく休養を取り、仕事がある時は伝令を出すので、ここでの仕事を学ぶように命令する。外に出ると、やはり漏れ聞こえていたのか、礼を言われる。
これは俺らに対しても、宮廷雀以外には脳筋がいて、これから色々な人間と会うことと、学び、教えられた。
おー流石ヴィー強いのぉ。




