ライオンちゃんの帰省
バシリイ視点 閑話
「ただいまですわ!」
「「「!!ねーね!ねーねだ!おかえりー!!」」」
「ちびっこども、いい子にしてまして?」
私は御前会議のため、珍しく皇都に来たので、兵舎に泊まるのではなく、外泊して実家に帰る許可を得た。突然ではあるが、家族と妹達に会うため帰省したのだ。
うちは、子爵の位を持つ貴族の家庭としては珍しい一夫一妻の家庭で、母が頑張った結果、五人姉妹の家族となった。お手伝いさんはいるが侍従はおらず、父が家を守る、清貧と言うか貧乏な家だ。
母と姉は下級役人をしているが、私は母に無理を言って幼年騎士団学校に行かせてもらい、軍人になった。確かに学校に行かなくても従騎士からスタートできるが、将来のポストは狭く、長い道のりになってしまう。だったら無理してでも高級将校を目指した方が良いと思い、学校に行き、勉学も実技も武芸も死に物狂いで学んで努力をした。
しかし、男の子と奴隷に負けるなんて夢にも思いませんでしたが……。
当時、わたくしは他の子供達に比べて五倍ぐらい努力をして、学年でも座学と実技でかなり良い成績を取ることができておりました。それで、なまじ高位貴族より成績が良かったため、かなり増長しておりまして、実技では相手を完膚なきまでに叩きのめしていて、相手にもわたくしにも実技授業の意味がない、いわゆる問題児だったと反省している。
当時、殿下は手を抜いていたとは申しませんが、座学と実技は上の中ぐらいの成績と態度で、身分も名前も侯爵家と偽っていまして、目立たないように努めていました。しかし、その存在が何故かわたくしの癪に障りまして、『男なら女の後ろで座して家を守るのが男ですわ!』と、実技の授業で組みまして、身の程を知らしめてやろうとしたのですが、攻めきれず終了。
それが良くなかったのですわ!
可愛らしい男の子に負けたことで、当時は変なプライドが傷ついてしまい、難癖をつけては座学の試験で張り合ったり、マラソンで勝負したりしておりましたが、彼は快くとは言いませんが、決して拒否すること等なく、受けて立ってくださいましたわ。わたくし如き、あしらうことは簡単だったでしょうに。
ある日、侍従の娘に奴隷の首輪が付いているのを見て、奴隷ならあの男の子より弱いだろうと思って勝負を挑みましたら、断然私より強く、気遣いから手加減をされて引き分けにされてしまい、立ち直れなかったのは最悪な思い出ですわ。
それよりももっと最悪なのは、最低なことに、奴隷の娘にわたくしから暴言を吐いて嫌味を言っても、何も言い返さず、ただ聞くだけで更に苛ついたので、つい『淫売の父と、それに誑かされた母の娘だから、奴隷として売られたんだ』と言ってしまいました。その娘は何も言い返すことなく、ただ悲しそうにしているだけでした。
その場面を見ていた彼に思いっきり平手で叩かれ、「そんなに力を誇示して戦いたいなら、俺が勝負してやる」と、彼から初めて挑まれた。
結果は……。
平手打ちの仕返しに、今日こそはわたくしから攻めて攻めきり、屈服させて足を舐めさせてやるもんだと思って油断をして、初手を取られたと思ったら、足払いからの組討を仕掛けられて頸動脈を絞められ、気絶させられ、そのまま終了という惨めなことになりました。幸いにも下は決壊しなかったらしいですが、ひどい顔だったらしく……。
妹たちを見れば、いい子にしていたようで、ニカッと笑っている。
「うん、してたー」
「したー」
「お昼寝いっぱいしたー!」
「おや、バシリイ帰ったのかい。もう連絡してくれれば、お前の好きなもの作ったのに」
「そうですの、いい子だったのですね!流石わたくしの妹ちゃんたちですわ!これ、お惣菜ですけど皇都で人気のでしてよ。今日明日はいるので、明日お買い物に一緒に行って作ってもらいますわ」
「おや、すまないね、美味しそうだ。もう少ししたら、お姉ちゃんと母さんも帰ってくるから、くつろいでなさい」
「ねーね、明日もいるの!」
「いる!?」
「いる?」
「そーですわ!明日いて、明後日の朝戻りますわ!じゃあ妹ちゃんたち!ねーねと遊びましょう!何しまして?」
遊びながらこの家に帰ってくると、青い自分を思い返してしまう。当時に戻れるなら、ロールヘアではなく、まだツインテールだった頃の自分を殴り倒してからマウントを取り、自分が変わるまで殴りたいですわ……。性格も最低なクズだったのだから。
それぐらい変なプライドが付いてしまい、増長して増長し尽くして、自分より背も低く、線も細くてか弱く、守られる立場の男の子から天狗になった鼻をバッキバキに折られることもなかったろうに。それも一回ですまなかったのがもっと悪い。
絞め落とされたことが受け入れられず、しつこくも絡んだし、奴隷のことを知ろうともしなかった。そらもう発情した猫かってぐらいうざ絡みして、煽って、奴隷の娘にも謝ることをしなかったのが良くなかった。
今度は彼から「試合をしてやるが、条件がある」と言われ、何も聞かず、考えず、受けてしまった。一騎討ちではなく、結果の残らない非公式試合で、観客もなく、審判と彼と奴隷の娘もいた。そして、試合の終了条件が彼かわたくしのどちらかが意識を失うまでだと、そこで初めて知り、事前に申請したら「助太刀あり」となっていることを知った。
開始からは、そら酷いもので、剣を受ければ奴隷の娘の蹴りが飛んでくるわ、奴隷の娘を抑えに回れば木剣で殴られるわで、リンチを受けた。
二人とも意識を刈り取るなんて簡単でしょうに、手加減をして、徹底的に木剣で殴られ、蹴られ踏まれた。許してと言っても聞いてもらえず、泣いても抵抗しても許されなかった。
やっと気絶させられたのが、どっちの攻撃だったのかは分からないが、多分あれは、アヴィエラに蹴り出されたわたくしを彼が顎の下あたりからアッパーで殴ってくださり、やっと気絶したんだと思う。
妹たちと遊びながら昔のことを思い返していると、姉が帰ってきた。
「あら、エセお嬢様じゃない。おかえり。相変わらずそのロールヘアしてんのね」
「「「おねーね、おかえりー」」」
「ええ、戻ってますわ。エセではなく、モノホンのお嬢様でしてよ!!おかえりなさい、お姉ちゃん」
「今日、帰ってくるって聞いてなかったけど、どーしたの?騎士団をクビ?それとも孕んだ?妹たちはって、憑いてるのね」
「お膝がいいんですって。首になってませんわ!騎士第三位の副団長も、変わってませんわ!!それに、まだ想いすら伝えられてないのに……」
「あー、まだ引きずってんの?いつもの強気で、がおーって行っちゃえばいいじゃん。奥手なんだからー」
「お姉ちゃんこそ、いい人はいないの?」
夕食ができるまで姉と喋るが、わたくしと違って、ズバッと行動できて、サバサバした人だ。体は薄い癖に……。
あの一件で目が覚めたら、この家の自室のベッドに寝かされて、湿布薬や軟膏が一緒に届けられていた。
後々、家族に聞くと、若い同い年ぐらいの男の子が、馬車で連れて来て、『試合をしたが、やり過ぎてしまった』と、馬車から重いだろうに抱きかかえて届けてくれたらしいが、そこだけの記憶が欲しい。
起きてから思ったのは、何も言えないし、聞いてもらえず、ただ殴られ、蹴られ、踏まれることがあんなに怖くて心細いことなのか、布団に籠って外に出たくないと思うほどだった。
自分が弱いと認めたくなかったし、怖がってるなんてのも認められなかったし、何故か顎の痣以外は、顔に痣や傷はなかったのが不思議だった。
それで布団に籠り、一週間ぐらい籠城した。そしたら、あのリンチ犯達が、果物とかお菓子の見舞いを持って、布団城へ攻城戦をしにやって来たのだ。
家族は面白がって、部屋の扉を開けるし、後は「若い三人でごゆっくりー」とか言っていなくなるわで、二人から更に暴力を振るわれるのかと怖かった。
そしたら、籠城するわたくしの側に椅子を持ってくると、「あの時はすまなかった。あそこまでやってしまい、傷を負わせたことを、面と向かって謝罪したい」と、「私からも申し訳ありません」と、謝られたのだ。
「アヴィエラ、あぁ、奴隷のことだが、彼女は私の家族のようなもので孤児だ。父も母もいない。彼女にずっと悲しい顔をさせていたことに怒って、あんなことをしてしまった」
と、アヴィエラのことを説明されて、やっと私はなんて酷い事をしたのか理解した。
奴隷だからこそわたくしに口答えすることは許されないし、それをしてしまえば彼が不味いことになるから、黙っているしかない。もしも反論することができても、両親を知らないので、何も言えず、悲しそうな表情をするだけだったのかと。
そこから、籠城から少しだけ顔を出して話をしていくうちに、彼がアヴィエラをいじめたわたくしのことに怒っていたけど、わたくしの今後を思って、非公開試合で目立つ顔に傷や痣を作らないようにしてくれていたことを知った。
やられたことは、今でもトラウマだ。アヴィエラのことで怒ってあげられるほど優しい人で、最初から気遣いもできていたのに対して、それまでのわたくしは、なんて驕った高慢でクズだったかを自覚して穴に籠り、一生出て来たくなくなった。
謝罪合戦が始まってしまったところで、何故か母が茶を入れて持ってきたことで終戦となり、そこから謝罪を受け取り、彼とアヴィエラに謝罪を受け取ってもらい、帰って行った。
彼がそんなところまで気遣いをと思い、自分より強いなんてと思うと、強烈に惹かれてしまった。次の学校の日から、気づけば彼のことを目で追い、気になってしまい、今までのような高慢な行いを恥じて真っ当に成績を競い、勝負していた。
何やら、わたくしにくっついている妹ちゃんたちを見て、姉が「むぅ」と唸りながら話しかけてきました。
「エセお嬢様と違って、おねーねの所こないのー?なんか、さみしー」
「「おねーねは、いつでもいける!ねーね別」」「柔らか!」
「だってよー、おねーちゃん?」
「なんでだ……。同じ姉妹で、ふかふか差の違いは……」
「いい子のちびっこどもには、絵本読んで差し上げますわ。おねーねは邪魔だから、わたくし達にお茶を持ってきてくださいまし」
胸部はわたくしが一番大きいですものね。まあ、妹ちゃんたちも将来が楽しみですわ。そんなことを考えながら、回想を続ける。
何故、母が茶汲みと言うのか。夕食時に伝えられたのは、普通、父が出したりするが、役人の母が彼のことを知っていて、父には荷が重いと判断したからだ。
そう、身分を偽っている皇族様だということを知っていたのだ。そこで、彼が私たちより断然上の立場で命令すれば終わるものを、わざわざこんな家の部屋まで来て謝るなんてことを……。それどころか非礼なことをし続けた心当たりしかなく、青ざめるのを通り越して、生きた心地がしなかった。
だけど、わたくしを連れてきた時、気づいた母に『黙ってるように。学校内のことだから、不問』と念押しされていた。
とか思い出していたらいつの間にか絵本を持ってきていた。
「ねーね、これ読んで!」
「これ!」
「だっこー」
「順番ですわよ。三人とも、こっちにおいでなさい」
「全く、お姉ちゃんには優しくないのに、妹には優しいんだから」
絵本を読んでいるこの娘たちも、いつか素敵な殿方と出会えるのかしら。わたくしは恋をしていますけれど、叶いそうにありませんわ。
競い合ううちに、いつしか恋心が燃え上がっていて、心の中には「彼を護り、隣に並び立つ者」と成り上がってしまいたいと変な方向に走っていて、妹たちを養うこともあり、気づけば東部戦域を管理する第七騎士団に入隊した。
そう、独立した領土を持ち、街一つでも領有する領主国の国王として、彼と並び立てるように野心を燃やしているが……。現状、恋も征服も一歩も進んでないし、久しぶりに会ったアヴィエラも、なんか女の顔になってるし、嫌になりますわ。
なにやら聞いた話だと、色々なところから粉を掛けられていそうな気もしますわ……。わたくしの身分ではよくいって側室、普通なら妾だ。正妻に疎まれたら、婚姻も認められない可能性があるから、先に意識だけでもしてもらいたいんだけど、ついつい高圧的になってアタックもできないですし……。
あー街でも落ちてて王冠は……いらないわ。わたくしが治められる気がしませんわ。独裁政治をして、叛逆され、断頭台の露と消えるわ。
このまま負けて敗残兵の如く消え去るのかしら……。
ボッコボコにされてホの字とはまぁ・・・。




