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逆転世界における現人神様の箱庭生活  作者: けちゃらー第一号被験者
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御前会議

こうして迎えた御前会議の日。


暑い。できることなら城になど行きたくないが、そうも言っていられない。俺は諦めて登城した。まずは陛下の執務室へ向かい、迎えが来るまで待つ。


今日の御前会議の顔ぶれを考えると、どうしても緊張する。先立って陛下には作戦の全容を説明し、内々に了承を得ている。事前の準備も済ませた。あとは会議で正式に審議してもらうだけだ。


落ち着け。そう自分に言い聞かせていると、こちらの様子を見透かしたかのように、陛下から落ち着いておれと窘められた。分かっている。分かってはいるのだが、緊張するものは仕方がない。


やがて、会議場の準備が整ったと告げられた。公務第一号も、いよいよ終盤だ。気を引き締めよう。長い通路を進み、堅牢な扉の前に着く。扉の両脇には騎士が二名、直立不動で立哨していた。


「皇太子殿下、皇帝陛下、ご入室!」


声が響き、扉が開かれる。会議場の中央には長いテーブルが据えられ、水差しや紅茶のセットも用意されていた。今回の案件に関わる公爵家当主たちに加え、第五、第六、第七、第九騎士団の団長と副官たち、外務大臣、財務大臣が立って待っている。


陛下は中央の玉座へ、俺はその一段下に用意された席へと腰を下ろした。進行役が一同の着席を確認し、今日の議題を説明し始める。


要するに、帝国民が攫われた。彼らを奪回し、報復を行う。そのためにどのような手段を取るか、という話だ。作戦の責任者は皇太子である俺。しかし、実際にどの部隊を動かし、どのような手段で目的を達成するかは、まだ正式には決まっていない。


もっとも、俺の中ではすでに案がある。陛下にも説明し、内々の了承を得ている。第五と第九の騎士団長には、軍事面の検討に必要な範囲で相談をしてきた。外務大臣と財務大臣にも、外交上・予算上の概要は事前に伝えてある。


だが、作戦の細部や偽装工作まで知っている者は限られている。会議の場で初めて明かすことになる部分も多い。


そのうえで、今日の顔ぶれを見渡す。派閥の構図は分かりやすい。

公爵家は基本的に静観派だ。自領の運営を重視し、無闇に国を揺るがすことを好まない。第五と第九は、皇帝および神殿に近い派閥。

一方、第六と第七は国外遠征軍で、主に東と北を担当している。こちらは植民地派と呼ぶべきだろう。強硬派とも言えるが、事情を考えれば単純に好戦的だと切り捨てることもできない。


国内貴族の三女や四女など、家を継ぐ立場にない女性たちが、士官として多く所属しているのだ。国内で領土を増やすことが難しい以上、国外に植民地を作り、そこで地位や役職を得たいと考える者もいる。

領土を増やせないことへの不満。その受け皿として、国外遠征軍が機能している面もあるのだ。……と、そこで第七騎士団の副官の一人に目が留まった。


金髪のドリルヘア。頭には猫科の獣人特有の耳があり、ライオンを思わせる大柄で豊満な胸を持つ女性だ。見覚えがある。

幼年騎士学校の同期、バシリイ・イグナティ。今代きっての大問題児である。あいつが副官を務めているとは。いや、あいつならあり得るか。


議論が始まった。予想どおり、強硬派は懲罰的な出兵を行い、街を征服して植民地とし、現地の男たちを奪おうと主張する。

対する静観派は、まずは裏で手を回して攫われた者たちを奪い返し、その後に起こる戦争で王国を叩き潰せばよいという意見だった。


皇帝派は、まだ何も言わない。もっと議論を白熱させてもらわなければ困る。意見が早々にまとまってしまえば、俺の提案を差し込む余地がなくなる。


そのまま約一時間が経過した。議論は平行線をたどり始める。苛立ちを募らせた第七騎士団側が、今度はこちらに矛先を向けてきた。


だが、俺はまだ口を開かなかった。今は、もう少し待つべきだ。

議論が十分に白熱した頃合いを見計らい、休憩を入れることになった。すると、第七騎士団の副官であるバシリイ・イグナティが、さっそくこちらへやってきた。


正直、俺はこいつが苦手だ。負い目があるというより、昔から何かと振り回されてきたせいで、どうにも扱いに困る相手なのである。


「お久しぶりですわ、殿下!やはり皇太子になられましたのね!いい加減、私の夫になることを決めまして?祝言は早いほうが良いですわ!子供を産む前に東側の一帯を植民地にしてしまいたいですもの!」


これだ。こいつは、他国で乱世であれば梟雄となれるだけの資質を持っている。大柄な体格に見合った豊満な胸と尻を持つ美女ではある。だが、性格が苛烈すぎるのだ。

武芸では負け知らず。卓上軍学も兵士演習も一級品で、武芸を除けば、俺と卓上演習で勝負して相打ちになることすらある。欠点を挙げるなら、法衣子爵家の二女で、実家の家勢が細く、資金も乏しいことくらいだろうか。


もっとも、本人はその程度のことで諦めるような性格ではない。


「いや、未だに嫁は決めていない。お前は相変わらずだな。ところで、どうやって副官の座まで上り詰めたんだ?若すぎるだろう」


「それは、私が殿下の妻になるということですわね!副官の座は、私の優秀な能力を評価されてのことですわ!」


バシリイは、ふふんと豊満な胸を張った。……これは、あれか。こいつに部隊を預けると、命令を曲解してでも武功を立てに走る。そのうえ、年長の副官を付けたところで、御しきれない可能性がある。

だが、曲解した命令であっても結果として武功を立ててしまうのだろう。罰を与えようにも功績が大きすぎるか、あるいは功績のほうが問題を上回ってしまうのかもしれない。


「政治と俺の好みの問題だな。そうかそうか、良かったな」


「では、私が貰ってしまっても構いませんのね!騎士学校時代に卓上演習で勝ち逃げしたこと、私は忘れていませんわよ!」


「いや、最初のうちは勝てたが、その後はほとんど引き分けだったじゃないか。武芸はお前のほうが上だったし、兵士演習だってお前のほうが……」


「ふっ。可憐な殿方に武芸で勝っても、そんなものは誇れませんわ。それなら私の後ろで、国取りをしてくるのを家で待っていなさいませ。兵士演習は互角ですし、兵士たちに好かれただけですわ」


ぐるぐるに巻いたツインテールを後ろへ払う仕草は、よく似合っている。言っていることが苛烈でなければ、という但し書きは付くが。

兵士演習とは、怪我や加齢によって第一線での軍役が難しくなった者たちが、騎士学校で演習兵士として勤める制度だ。

彼らは新人の騎士隊長を相手に、やることなすことに文句をつけ、徹底的にいびる。隊長としての将器を育てるための役割なのだが、バシリイは最初こそ彼らにいびられていたものの、最後には兵士たちから圧倒的に好かれてしまった。


帝国が貴族の私兵の数を規制していて、本当に良かったと思う。そうでなければ、こいつのような貴族が兵士を率いて領土争いを始めかねない。しかも、バシリイなら、帝国が持っていない占領統治のノウハウまで、力ずくで何とかしてしまいそうなのだ。


そんな話をしているうちに、休憩時間は終わった。あいつとの会話は疲れる。あいつの生き方は、貴族として見れば正しいのだろう。だが、俺はその頂点に立つ立場だ。悪いとは言わないが、どうか勘弁してほしい。


会議が再開されても、議論の流れは変わらなかった。そろそろ、責任者であるお前が話をまとめろ。そう言わんばかりの視線が集まり始める。


頃合いだろう。俺は席から身を乗り出し、声を発した。


「各々方の意見や考え方は、よく分かった。民を思う気持ち、ありがたく思う。ここで私から提案がある。聞いていただけないだろうか」


好奇心や猜疑心のこもった視線が、一斉にこちらへ向けられる。

この場で作戦の全容を把握しているのは、陛下と俺だけだ。ヴィーも知っているが、今日は連れて来られない。


第五と第九には軍事面の検討に必要な情報を伝えてある。外務大臣と財務大臣にも、それぞれの所管に関わる概要は説明済みだ。

だが、これから話す作戦の細部や偽装工作については、ここにいる者たちの大半が初めて聞くことになる。


「攫われた民の行き先は把握している。エテリアル王国の、とある街の領主館だ。今も所在を確認できているが、時間をかければ、戦端を開く前の酒保代わりに使い潰され、殺されるおそれがある。

一刻も早く救出する必要がある。しかし、先ほどの議論でも出たとおり、現状では大規模に騎士団を動かすだけの大義名分が薄い。かといって、裏で領主を暗殺して報復を済ませるだけでは、貴族として弱腰だと見なされかねない」


一旦言葉を切り、周囲の反応を見る。どの派閥も、概ね同じ問題を認識しているようで反論はない。


「そこで、俺の提案はこうだ。俺自身を餌にして、エテリアル王国に恥をかかせることで報復する。

国境東側で小競り合いが続いていることは、皆も知っているだろう。現場にいる者もいるはずだ。報告によれば、王国が雇っている傭兵の動きは鈍い。だが、本国では糧食を集め、晩秋には徴兵を始める動きがある。

そこで、傭兵の動きについて説明を求める特使として、俺がエテリアル王国へ赴く。会談場所は、例の街に指定する。そして、会談相手となる王国側の要人を殺害する」


周囲がざわめいた。驚くのも当然だろう。いきなり敵地で要人を殺すと言い出したのだから。何を言っているんだ、こいつは。そんな反応が見て取れる。


「もちろん、ただ殺すだけでは王国の恥にはならない。領主への報復にもならないどころか、俺自身が敵地で孤立する危険がある。

そこで、領主が会談相手を殺害したように見せかける。この資料を見てくれ。領主の兵士数や大臣級の人物を護衛する人数をはじめ、戦闘行動、人質の救出、偽装工作、撤退までの計画をまとめてある。敵が精鋭兵を投入してきた場合も想定済みだ。

ただし、相手は俺と会談する要人だ。相応の身分があり、護衛も付くだろう。騎士が同行している可能性も高い。戦闘で帝国側の死体が一つでも残れば、こちらの関与を疑わせる材料になりかねない。

そのため、隠密行動に必要な人数を見極めたうえで、最低八名の部隊を編成する。うち四名は偽装工作を担当させる予定だ。

襲撃の際には、領主の兵士が会談相手の護衛を攻撃し、双方が相打ちになったように見せる。その後、領主自身が大臣を斬り殺したものの、反撃を受けて気絶したという状況を整える。

当然、領主館にいる攫われた民は、その過程で救出する。彼らを見捨ててまで工作を優先するつもりはない」


俺は一度、資料から顔を上げた。そして自信を持って告げていく。


「だが、平時にそのような襲撃を行えば、目撃者が出る。街の官憲が動く可能性も高い。領主館に詰める兵士を減らし、街の注意をそらすために、大規模な陽動作戦を行う。

標的は、街の商業ギルドが管理する金庫だ。これは第五騎士団に、都市部での陽動を想定した演習を行ってもらった際の報告書だ。第五の専門分野ではないが、参考になる部分は多い。詳しくは資料を見てほしい。

ただし、今回の陽動は演習よりも大規模なものになる。商業ギルドの金庫を襲うことで、街の警備や官憲の注意を引きつけ、その間に領主館への襲撃と救出を実行する。

陽動によって街全体が警戒態勢に入る危険もある。そこは、警備がどのように動くかを想定したうえで、実行時刻と襲撃の手順を調整する。

この陽動作戦については、第九騎士団にも協力を依頼し、作戦案をまとめてもらっている。現在は演習の準備中だ」


俺は資料を置き、改めて一同を見渡した。


「これから言いがかりをつけて戦端を開こうとしている国の皇太子と会談している最中に、自国の領主が味方の要人を殺した。さらに、商業ギルドの金庫まで襲われた。こんな事態になれば、エテリアル王国にとっては赤っ恥もいいところだ。

王国の上層部には、これが帝国からの報復だと伝わるだろう。中堅貴族にも、公式には発表できなくとも、すぐに噂が広がるはずだ。

状況から見れば、我が帝国が関与したと疑う者も出るだろう。だが、こちらにつながる証拠は残さない。表向きに残るのは、領主が大臣を殺害し、俺まで害そうとしたという筋書きだけだ。

事が終われば、俺は直ちに帰国する。そして、皇太子を害そうとした領主の首を要求する」


反応をうかがうと、どの派閥も考え込んでいた。やがて、いくつか質問が出た。まず、会談場所をこちらで指定できるのかという問いだ。


「件の街は商業が主体で、城塞都市ではない。城壁も一重で、それほど高くない。駐屯できる兵士の数にも限りがあるため、大軍を隠して待ち伏せするような罠は張りづらい。

何より、街中で戦闘が起きれば市民に被害が出て、商業も停滞する。王国側にとっても、できる限り避けたい事態だろう。会談場所として指定する余地は十分にあると考えている」


次に、工作員たちに実行できるのかという質問が出た。


「昔、間諜が集めた情報を基に、倉庫に領主館と商業ギルドの金庫施設を再現した模擬家屋を作っている。そこで襲撃と救出の演習を行う予定だ。実行の可否は、その演習の結果も踏まえて判断する」


続いて、俺自身の安全を危ぶむ声が上がるが、これは規定事項だ。


「護衛は第五騎士団が担う。これまで俺に傷一つ付けさせなかった実績がある。さらに、国境には騎馬を主体とした即応部隊を配置し、万一の際に備える」


最後に予算について問われた。


「大規模侵攻で騎士団を動かす場合と比較して算出させている。必要な費用は、そちらの資料にまとめてある」


ほかにも、もっと上位の者を暗殺すればよいのではないかという意見があった。だが、それではこちらの関与を示す証拠が残る危険が高まる。何より、今回の目的は王国の上層部を無差別に殺すことではない。攫われた民を救出し、領主に責任を負わせ、王国に政治的な恥をかかせることだ。

標的を増やせば、その分だけ作戦の目的から遠ざかる。俺は、そう説明した。


「そして、皆も気になっていると思うが、晩秋に戦端を開く方針は変わらない。この作戦によって王国が恥をかかされれば、同じ貴族を名乗る者として、黙ってはいられないだろう。反撃してくるなら、その動きを開戦の判断材料にする。

逆に、何をされても反撃できないような国なら、こちらの要求を通しやすくなる。いずれにせよ、王国の対応を見極めたうえで、予定どおり晩秋の戦争に向けて準備を進める。王国が帝国民を傷つけた責任を取らず、こちらの要求にも応じないのであれば、植民地化も選択肢に入る」


周囲の反応をうかがう。表情から賛否を読み取るのは難しい。だが、少なくとも、すぐに反対の声を上げる者は少なかった。これなら、決を取れるだろう。


「異論や質問、別の作戦案がなければ、決を取りたいと思う」


少し待っても、新たな意見は出なかった。俺は進行役に目配せし、採決へ移ってもらう。


「では、皇太子殿下の作戦案について決を取る。かねてからの決議の取り方に則り、この案に異議があるものは正しき反論を、ないものは勇気ある沈黙を守れ」


反論は、出なかった。

この場で異議を唱えるなら、確固たる論拠か、それに代わる作戦案を示す必要がある。大規模侵攻案は、宣戦布告に必要な大義名分と費用の問題から、すでに難しいと判断されていた。


それでも、最終的な判断を下すのは陛下だ。陛下は少し考え込んでおられたが、やがて口を開いた。


「第六と第七の騎士団長に確認する。副官を任せられる若い人材で、特に二十五歳未満の者はいるか」


「はっおりまする!」


……嫌な予感がする。確認が終わると、陛下は改めて俺を見た。


「よろしい。では、皇太子たるミロシェフ・ズィンガーネフ・バルト。お前に今回の作戦を任せる。

ただし、第六・第七騎士団から観戦武官を付ける。騎士団副官級の人材から一名、必要であれば二名までとする。この者らの指揮権は皇太子が握るものとし、双方が学び合えるようにせよ。

必ず成功させよ」


「はっ!ご下命、頂戴いたします。必ずや民を救い、我らが土地と人命を傷つけた者たちに報いを受けさせ、誰一人欠けることなく帰投いたします」


……あぁぁぁぁ。絶対に血の気の多い奴がやってくる。

騎士団長たちは、国内政治の事情もよく理解している。国外遠征軍が、国内で地位を得にくい者たちの不満の受け皿になっていることも承知しているはずだ。

だが、若い連中は違う。もっと上の地位を欲しがるし、功績を立てる機会があれば飛びつくものだ。

観戦武官の手綱をしっかり握っておかないと、暴走馬車のできあがりだ。下手をすれば、作戦の途中で勝手な行動を取られ、目的を果たすどころか、戦争を前倒しすることになる。そうなれば、地獄の撤退戦が始まるかもしれない。


観戦武官の人選については、後ほど正式に選任して伝えることになった。……まあ、それはそれとして。


次は、神様を片付けなければならない。


俺は館へ戻るついでに、神殿へ伝令を出すよう命じた。


早くこないかのー。

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