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逆転世界における現人神様の箱庭生活  作者: けちゃらー第一号被験者
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帰還

ヴィーとルミナ、ラクトーシャたちとデート――というより、お出かけをしてから、一日は全員の休養に充て、宿に籠もってのんびり過ごした。


その後、馬車と騎馬の護衛に守られながら皇都に戻り、護衛の者たちとも別れた。やることは山積みだ。


第五騎士団長、第九騎士団団長、外務大臣、財務大臣に会い、御前会議まで残り三日しかない中で、作戦のたたき台を作らなければならない。

まずは皇城に帰還の報告を入れる。その間に、ヴィーには第五騎士団長閣下への面会を要請してもらう。叶うなら、この足でそのまま向かいたい。


城は防衛を重視した造りのため、窓が少なく、通気性も悪い。とにかく暑いのだ。普段の執務は城外の宮殿で行われるし、俺も後宮を出て館を構えている。だが、宮殿では防衛・防諜の兼ね合いで会議を開くことができない。こうした話をするなら、きちんと防備の整った皇城でなければならないのだ。


できることなら、後宮か駐屯地で済ませたいものだ。少し待っていると、「今なら面会可能」との返事があった。俺は暑い場所から退散することにした。執務室に通されると、そこには変わらず上品な調度品が揃っていた。良い部屋だ。


室内には、ヴァリラ騎士団長閣下と、副官のナイリアシナ、ラクトーシャの両名が揃っていた。


「失礼するよ、ヴァリラ騎士団長閣下。急な面会要請だったけど、受けてくれて感謝する。ナイリアシナとラクトーシャも、急にすまない」


「いえ、ちょうど彼女たちの報告を受けていたところでしたので、問題ありませんよ」


「そうか。両名を貸してくれて、感謝の言葉もない。ナイリアシナは陰ながら我々の動きをサポートしてくれて、大変動きやすかった。ラクトーシャは任務だけではなく、我々のことも公私にわたって支えてくれた。護衛の者たちも、護衛と気づかれないように動いてくれて、素晴らしかった。閣下の部下は皇城に勤める近衛にも劣らず、粒ぞろいで大変羨ましい限りだ」


「ふふっ、そんなに褒めていただけるとは、上司として鼻が高いです。二人とも可愛がられたようで、任務も今のところ順調なようで良かったです」


おや。ラクトーシャを可愛がったことに腹を立てられたかと思っていたが、違うようだ。ただ、その顔には「お世辞を言いに来たわけではないだろう?さっさと本題に入らないと、食いつくぞ」と書いてある。


「ええ、二人とも私によくしてくれました。私から感謝を伝えるためだけにここへ来たわけではありませんが、礼を言わせていただきます」


そう言うと、上司の前で褒められまくった二人は照れていた。


「それで、俺も閣下も、いつも時間がない身だ。早速、本題に入らせてもらおう。今日は、ある作戦について三人の意見を聞きたくて来た。実行の可否だけでなく、必要な人員や護衛についても確認させてほしい」


「ほう、それは珍しいことですね。意見など、書類を提出させれば早いものを、ここまでお越しになられるとは。それで、どのような意見をお求めで?攫われた者を取り返すなら、騎士団を動かして殴り込みをかけるのが早いですよ?」


この人が上司だからこそ、下の二人も育つのか。部下を育てることを面白がっているような人だ。


「それは、時期的にまずいと分かっていて言っているのだろう。傭兵が小競り合いを起こしてちょっかいを出してきているが、やる気のない動きで、雇い主が王国ではないと言い逃れられる。これでは宣戦布告の理由にはできない。聞きたいのは、襲撃を特定の上位者に対するメッセージとして受け取らせることができるかどうかだ。平民たちには気づかれないようにしたい」


「そうですね。理論的には可能ですが、方法が難しいです。お前たちはどうだ?」


「理論的には可能かと思いますが、人員と金が必要ですよ?」


「あーしも、賛成っす」


まあ、賛成されるよな。質問を変えてみよう。


「では、質問を変えよう。演習で使った街を想定してくれ。街で領主を暗殺するに当たって、領主と、その場に詰めていた兵士を殺し、非戦闘員には手を出さずに逃げ切るには何人必要だ?正規軍人と非正規の工作員、どちらも教えてくれ」


「そうですね。私たちなら、六名の班を二つ。それに直掩五名で、いいところでしょう。不確定要素が多すぎますが」


「あーしも、同じぐらいっす。犠牲を出さないのであれば、十二名に直掩五名。騎馬十名なら、騒ぎになっても逃げ切れるっす」


「非正規の工作員については、私が答えましょう。依頼する相手にもよりますが、御用達の者たちなら四名の班を二つ、といったところでしょう。その代わり、指示が複雑になりますし、報酬の額によって確実性も変わります」


必要な人員の目安は分かった。計画を実行するに当たってのリスク。必要な金の量。人員の損失をどう回避するか。そして何より、死体だろうと何だろうと、証拠を残すわけにはいかない。


餌が必要だ。それも、大きくて魅力的な餌が。だが、作戦を実行する人員を揃えるだけでは足りない。俺自身が危険な場所へ出向くことになった場合、護衛がどこまで対応できるのか。それも確認しておく必要がある。


「ありがとう。諸君を見込んで、もう一つ聞きたい。国外で、緊張が極度に高まった鉄火場に出向くことになった場合、外交の場での護衛は第五騎士団だけで足りるか?直掩は付けない。お前たちだけだ」


三人とも考え込む。護衛対象が俺ということ、国外での話だ。しかも、緊張が高まっている中で、火種に油を注ぐようなことをしようとしている。簡単に答えられる話ではない。


「護衛の指揮権を我々が握っていいなら、可能です。彼女たちの実力は今回、ご覧になったでしょう?私は副官たちを信じています。直掩なしですが、国境の部隊に人員を潜ませることはよくやるので、対応できます。ただし、場所によっては間に合いません。その場合は撤退戦になります。ですが、我々が倒れようと、命を落とそうと、殿下には傷一つ付けさせずにお返しします」


「「傷一つ付けさせないと、お約束いたします」」


三人とも、しっかり考えて答えてくれた。これで国外に出ても、護衛については大丈夫そうだ。

次に考えるべきは、金と実行部隊だ。こちらは御前会議で話を通す必要がある。


「そうか。御前会議のときに考えを話させてもらう。護衛を頼むぞ。

そういえば、ラクトーシャの可愛い話は聞いたか?」


「聞かせていただきましたとも。たいそう可愛がっていただいたようで。本人はあの調子ですが、喜んでいたようで何よりです。この手の噂は足が早く、隊全員に広がりますからね」


ニヤニヤしているが、本当に広まるのが早そうだ。どろどろに甘やかして、この後は皆から可愛がられるのだろう。そんな顔をナイリアシナがしていて、ラクトーシャは嫌そうだ。


「では、噂話に花が咲く前に退散させていただこうか。この後、美味いものが届く予定だ。楽しみにしていてくれ。酒を出すと、そちらの誰かが鳴いてしまうからな」


「まあまあ!それは楽しみなことですね!誰が鳴いたのか、よーく聞いてみることにしましょう。では、御前会議で。

神と帝国の加護あらんことを」


「では、またな。神の下、繁栄を」


駐屯地を出る。第九騎士団長への面会は明日でいいか。あの人に会うのは、精神的に疲れる。今日は館に戻り、執務室で作戦のたたき台を作りつつ、少しだらけよう。

馬車で館に戻ってくると、ようやく帰ってきた、という気分になれた。……が、馬車置き場に、見覚えのある貴族の紋章を掲げた馬車が停まっている。馬車から降りるとき、ヴィーに「今日、来客の予定があるか」と確認する。


「いえ、ございません」


「あの馬車の紋章に見覚えはないか?」


「嫌な意味で、ございます」


逃げたい。けど、駄目だよな?


「殿下?駄目ですよ?ここまで来てしまっているんですから。あの方、追いかけてきますよ」


「だよなー……」


仕方なく館に入ると、メイドたちと侍従長が揃って待っていた。


「おかえりなさいませ。お客様は、そろそろお戻りになる頃だろうと、応接室でお待ちです」


一旦、衣装室に入り、服装と身だしなみを整えてから応接室へ向かう。


「お待たせしました。大叔母上様……いえ、第九騎士団長閣下」


「おかえりなさいませ、皇太子殿下。こちらが勝手に来て待っていただけですから、気にしないで。ヴィーもおかえりなさい」


やっぱり、この人だった。にこにことしている。


「それで、こちらから伺おうと思っていたのですが、どうしたのでしょうか?」


「そーねー。貴方のことだから、どうせ『私のところ、面倒だなー』って思ってるだろうから、来てあげたのよ。伝言も預かっているしね」


伝言……?この人に頼める人?それは人と言っていいのだろうか。


「そんなことないっすよ。ええ、ないっす。ないったら、ないっす」


「そういうことにしておいてあげましょうか。じゃあ、私の用事からね。


まず、ルミナは相変わらずこの件の担当だけど、引き継ぎがあるから、合流は遅れるわ。後は、どこぞの神様が『寂しいから、そろそろヴィーと一緒に顔を出しに来い』ってさ」


えぇー……。あの人のところに行くと、疲れるんだもん。だから、この三日間は忘れていたのに。


「確かに、承りました。時間を見つけて、伺おうと思います」


「ちなみに、待たせすぎると勝手に来るから、気をつけてね」


二人して声には出さなかったのがすごいと思えるほど、「うげっ」という顔をしているだろう。そんな話をしていると、紅茶が出された。


「分かりました。こちらからも、ギーブ商会とゴンドフィナ、ルミナを貸していただき、ありがとうございます。彼女たちのおかげで任務は順調です。それと、質問をしてもよろしいでしょうか?」


「いーえー。ルミナはどうだった?まだ相変わらず、喋るのヘッタクソだった?」


「下手くそというより、優しい子でしたよ。なあ、ヴィー?」


そう言うと、ヴィーは言葉を発さずに頷いた。何か言って、また変な内容をゲロられてしまうのは怖いだろう。


「それで、何が聞きたいのー?」


「領主を暗殺するに当たって、第九騎士団の正規工作員なら何人必要でしょうか?場所は領主館。兵士は殺害可能、非戦闘員は殺害不可。領主は必ず殺すとして、こちらの損害は許容できません」


「陛下から『相談があれば、いくらでも聞いてやれ』と言われていたけど、物騒な話ねー。そうね。正規工作員なら四人ってところだけど、さすがに危ないから、十二名を入れて館内を皆殺しにするのが手っ取り早いかな。もしくは、陽動作戦を打って八名と援護班、ってところね」


……非戦闘員には手を出さないという条件を伝えたはずだが、今の提案はその条件と食い違っている。もっとも、彼女はわざと条件を無視したのかもしれない。まずは、話を続けよう。


「そうですか。ちなみに、金で雇う非正規の工作員もいますよね?金次第で仕事を請け負うとのことですが、裏切りの危険性は?」


「んー、金額と内容次第だけど、基本的に裏切りの心配はないわ」


「なぜでしょうか?金で動くんですよね?」


「そりゃあ、自分たちが掲げる看板に傷が付くからよ。何度も仕事を依頼してきたけど、看板に誇りを持っている奴らよ。


そりゃあ、世の中には食いっぱぐれて、看板を汚す傭兵もいるけど、そんな奴らは後ろから撃たれて、さっさと死ぬわ」


「つまり、きちんと金を払って、こちらが裏切らない限りは仕事を遂行すると。さもなくば、どさくさに紛れてサクッと死ぬと」


世知辛い世の中だと思うが、貴族の家名みたいなものか。汚したら、死んでも挽回できないものな。


「そーよ。汚れた看板のところに所属していたなんて知られたら、次の仕事は三流どころからしか来なくなるわ。よくて、最初の突撃兵に選ばれて、前か後ろから矢を受けて死ぬことになるでしょうね。もしくは仕事がなくなって、盗賊に成り下がり、討伐されて首が晒されるわね」


「そうですか。教えていただき、ありがとうございます」


「どーいたしまして。なるべく早く神殿に顔を出すのよー?あの神様、外に出ていると面倒なことを引き起こすんだから!」


「ちなみに、拙い作戦ですが、聞いていただけますでしょうか?」


「いいわよー」


そう言って、俺は作戦のたたき台を説明した。彼女は話を聞きながら、「ここはこんな感じで人員を使えば、うまくいきそうねー」と意見を出してくれた。


「まあ、よくもこんな作戦を思いつくものね。楽しそうだから、こうしたら?これなら、財務大臣のババアも文句を言えないわ」


……あんたもババアだろう。そう言いかけた瞬間、頭にげんこつが降ってきた。そんな話をしながら、御前会議での発議内容も決まった。


「じゃっ、そろそろ私はお暇するとしますわ。次は御前会議ね」


「ええ、ありがとうございます。また。ヴィー、送っていってくれ」


「かしこまりました」


そうして、やっと平穏が訪れた。だが、神殿にも行かないと、あの神様が出てくると思うと、「面倒だなー」と思う。

今日は、帰還の疲れもあってやる気が起きず、だらけてしまった。


御前会議までは残り二日。翌日は外務大臣と財務大臣に話を通し、作戦立案書を書き上げた。清書と複製には人手を使い、なんとかこなしていく。


伝言聞いてくれたかのう、待っておるぞー

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