狼ちゃん嫉妬
アヴィエラ視点
今回は私の不始末が原因なのだから仕方ないが、気乗りしなかったこともあり、今日は手助けをする気が起きなかった。ミー様とラクトーシャ様の掛け合いを見ていると、自分の中に嫉妬心が芽生えていくのが分かった。
あそこまで気安くいじられることもなければ、少女のように慌てふためくこともできない。そんな二人の関係が羨ましいのだと、自分でも分かっている。何より、ミー様がいたずらをして楽しそうになさっていることに、嫉妬してしまうのだ。
胸の中で燃え始めた嫉妬心は、二人を見ているうちに、少しずつ勢いを増していった。だから、私は二人から離れることにした。近くで二人の様子を見聞きできる、手の届く場所にいたら、自分の中の嫉妬心がさらに大きくなってしまう気がしたからだ。
馬車の御者をしている間は、車内の声は聞こえない。大きな声を出したり、御者席と車内をつなぐのぞき窓を開けたりすれば別だが、そんなことをしてはミー様の気分転換の邪魔になってしまう。私は余計なことをせず、御者に専念することにした。
目的地に着いてシートを設営し、少し時間が経った頃を見計らって、宿に頼み、私が毒見を済ませたサンドイッチを用意させていただいた。その後、少し離れた場所にいる護衛班にもサンドイッチを届け、給仕をした。
すると、護衛班の方から声をかけられた。
「良いんですか?あそこ、二人だけにしてしまって?あの純情チェリーチキンハートでも女ですよ?」
そこまでの度胸があるとは思えなかった。人の上に立つことはできても、仕事という仮面を脱ぎ、自分から男性の手を引くのは難しそうだ。私はそう考え、護衛班の方々に答えた。
「大丈夫でしょう。仕事はできますが、奥手な女でしょう?」
そう答えた後、護衛班の方々に紅茶を淹れたりしていると、そろそろ向こうも片付けを始める頃合いだろうと思い、二人のもとへ戻った。案の定、ラクトーシャ様は顔を真っ赤にしていた。いつもの間延びした口調も、心なしか影を潜めている。殿下は距離感がおかしく、よく「あーん」と食べさせてくださるのだ。それにやられたのだろうか。
少し意地悪く、「美味しかったですか?」と尋ねると、ラクトーシャ様は悔しそうな顔をした。「ぐぬぬ!分かってていなくなったわね!」顔にそう書いてあるようだった。
いいではないですか。二人きりになれるようにして、応援しているのですから。そうして紅茶を淹れ直し、しばらくすると、殿下が眠そうになってきた。けれど、ただ眠いだけではないようだった。何か悪巧みをしているように見える。
これは何かするつもりだろうな、と思って様子を見ていると、殿下はラクトーシャ様の膝を枕にして眠り始めてしまわれた。
ラクトーシャ様も何か言っていたが、私はショックを受けていた。だから、ラクトーシャ様が何やら鳴いているような声を上げても、聞こえないふりをして助けには入らず、殿下にブランケットをかけて差し上げた。
ショックを受けたこともあり、私は少し席を外した。
しばらくして戻ると、殿下はラクトーシャ様と話をした後、再び眠ってしまわれたようだった。護衛班の方々は、そこで小さな声でわいわいと言い合っていた。
「ほら、頭を撫でるんだ……」「ポンポンだ、ポンポン」「子守唄を歌うのもいいんじゃないか?」
けれど、肝心のラクトーシャ様はぎこちない動きを繰り返していた。殿下の頭を撫でようとしてはやめ、何かしようとしては思いとどまる。結局、何もできなかったようだった。これだから純情チェリーは……。遠目から見たラクトーシャ様の顔は、どこか慌てているようで、それでいて乙女そのものだった。
そうして私が戻り、紅茶を淹れていると、殿下が目を覚まされた。殿下はよく人の頭を撫でられる。ラクトーシャ様の頭も撫でているのを見て、胸の中で燃え続けていた嫉妬心が、再び勢いを増した。
三人でしばらく過ごした後、帰りの時刻となった。すると、ラクトーシャ様は帰りの時間には耐えられないと言わんばかりに逃げ出し、御者を代わってしまわれた。
仕方なく私が御者を代わり、ミー様と一緒にいると、隣に座るよう促された。
そして、いつもより多めに頭や耳を撫でてくださった。その後、私の尻尾を捕まえたかと思うと、肩に頭を乗せ、さわさわと撫で始められた。
触れられている間、ミー様は今日の遠乗りへの感謝を口にされた。さらに、私の尻尾に触れていると安心するのだと、そっと囁いてくださった。
感謝の言葉だけでも嬉しいのに、私にとっては、それ以上に心を揺さぶられる言葉だった。
胸の中で燃え上がっていた嫉妬心は、ミー様の言葉と触れ合いによって、少しずつ勢いを失っていった。やがて炎は小さくなり、表面上は静まったものの、完全に消えたわけではない。心の奥底には、まだ小さな火種が燻っていた。
それでも、先ほどまで胸を焼いていた苦しさは、いつの間にか薄れていた。私は奴隷だ。嫉妬などしなくて済むほど、ミー様に近い上位者にはなれない。けれど、私が死ぬまでミー様の奴隷であり、一番の側仕えなのだと思うと、胸の中が温かな気持ちでいっぱいになった。
馬車で宿に戻るまで、私は幸せな気持ちに包まれながら、ミー様に触れられる尻尾の心地よさを味わっていた。
この心地よさと幸せが、いつまでも続いてほしいと思うほどだった。
おやおや、アヴィエラってば心の蓋が割れかけておるぞ?




