手を繋ごっ
馬車に揺られ、護衛班と共に、ようやく領都に着いた。暇だったので、ゴンドフィナに担当者のことや趣味などをそれとなく聞いてみたが、見事なまでに全てはぐらかされた。
『担当者は殿下とアヴィエラも知っている者ですよ。上長は私ですので、質問会の後に何かあればお聞きください』とのことだった。
だれー……。こんな仕事ができる奴、いたかな。領都に着いて最初にやったのは、領主代官への挨拶と、演習をしている第五騎士団の連中との合流だった。
代官には、公務のため詮索無用。見るな、聞くな、触るな。破ったら懲罰、と命令しておいた。これなら、ちょっかいを出されることはないだろう。
手を出したら皇族からお仕置きされると分かった上で、それでも手を出す奴がいたら、逆にスカウトしたい。演習班の隊長は、以前、宿舎で案内してくれた副官のナイリアシナだった。
団長閣下が直々に来ているのかと思ったが、別件で皇都を離れることができないらしい。
「それで、演習のほうはどうだ?」
「……それなりに、色々ありました」
ナイリアシナが、苦い顔をする。皇都から来た演習班ということで、現地の連中から舐められていたらしい。必要な情報を共有してもらえなかったり、担当の持ち場から外されたり。
大なり小なり、様々な衝突が絶えなかったそうだ。そして、キレた面子が色々とやらかしたらしい。
「一回目は?」
「犯行グループが標的にちょっかいを出し、こちらが護衛に入ったところを撹乱されました。そのまま街から逃げおおせて、犯行グループ側の勝ちです」
「二回目は?」
「犯行グループ役の班員を入れ替えて実施しました。今度は標的をがっちり護衛したのですが……」
「ですが?」
「官憲の寮と詰め所を放火され、その隙に逃げました。」
「……なるほど」
なかなか散々だ。
「三回目は?」
「私が犯行グループ側に入りました」
「ナイリアシナが?」
「はい。手加減無用で。」
にっこり笑っている。これは、あれだ。
キレた時の顔だ。
「結果は?」
「標的を暗殺。副目標を誘拐。詰め所を放火して撹乱。そのまま街の外へ逃走しました」
「完勝じゃん」
「その後、落ち着いた頃に街の入口で、現地側に笑顔で引き渡しました」
「煽ったなぁ……」
「ええ」
ナイリアシナは、にこにことしている。怖い。
「それで、四回目は?」
「今まさに演習中です」
「今度は?」
「ようやく思い知らされたようで、情報共有を徹底し、持ち場も持ち回りにするようになりました」
「なるほど。ようやく普通になったわけだ」
「はい」
辺境にいる間に、ラクトーシャからも聞いていた。ナイリアシナは真面目で温厚な人だ。だが、皆でふざけ過ぎると堪忍袋の緒が切れて、大説教会が始まるらしい。
今回は説教ではなく、分からせパンチだった。
……いや、演習内容を見る限り、パンチどころではない気もする。
そんな話を聞きながら、ギーブ商会が一棟借り上げている宿へ向かう。馬車の中から街を見る。活気がある。いい街だ。
宿では夜に輸送班たちと合流する予定だ。
第九騎士団の担当者との顔合わせも、その時だし……。
それまでは暇だ。どうしようかな。……そうだ。
ヴィーと街に出よう。つまるところ、デートだ。久しぶりに二人きりで街を歩きながら話したいこともあったので、少し強引に押し切った。
護衛は少し離れてついてきてもらうことにした。当然、文句は言われた。
最終的には、表通り以外には行かないと約束させられた。街に出るにあたって、首輪は外せない。ただ、いかにも貴族という服装では目立つので、若い裕福なカップルを装うことにした。
ヴィーには薄手の紺色のワンピースにカーディガン。俺は普通の服だ。財布はヴィーが持っている。
「どこ行きます?」
「そうだな。とりあえず目抜き通りと市場を見たいな。その後、カフェに行きたい」
ついっと手を出す。言外に、手を繋げ。もしくは腕を組め、という意味だ。おぉ。迷っている。今まで皇都では変装して視察をしたことはあるが、こんなことをしたことはないもんな。
「ほら、偽装と護衛のためだ。女の手を引かずどうする。ほらほらー」
「わ、分かりました。て、手を引かせていただきましゅ」
外なのに、珍しく顔が真っ赤である。そして噛んだ。かわいい。ヴィーに手を引かれ、目抜き通りを抜け、市場を見て回る。食料品が色々と売られているが、高いのか安いのかは分からん。
しばらく歩いたところで、ふと聞いてみる。
「それで、今回、俺が戦いの場に立って、お前はどうだった?」
ヴィーが黙る。
「今までと同じ関係でいられるか?それとも、やめたいか?」
「……そうですね」
少し考えてから、ヴィーが口を開く。
「正直に言いますと、自分でもまだ分からないです。でん……」
一瞬、言葉が止まる。
「ミケさーーんは、甘すぎます」
殿下と言いかけた。様をつけそうにもなっている。少し伸びたな。
「ちゃんと、さん付けで呼んでね。甘いかどうかなんて、人によるさ」
「では……このままの関係を、一旦続けさせていただきます。この気持ちが落ち着いたら、話させていただきます」
「そうしてくれ」
それでいい。今すぐ答えを出す必要はない。
「ちなみにだが、罰はこれではないからな」
「……え?」
「お楽しみだ」
「……」
「じゃあ、あのカフェに行くか」
そう言って、カップルが多くいるカフェへ入る。ここは宿の受付におすすめされた店で、中流階級向けの店らしい。
味も良いとのことだ。席の間隔が広く、半個室のようになっていて落ち着いた店だ。
ソファーが二脚とテーブルがあり、隣り合って座ることも、向かい合って座ることもできる。
「じゃあ俺は豆茶と、このケーキで。ヴィーさんはどうする?」
「そ、そうですね。わ、私はこのお茶のセットで」
注文を済ませる。しばらくすると、豆茶とケーキが色々と運ばれてくる。皇都では、カップル二人向けセットが色々とあった。だが、こちらは普通だった。
「では、少し休憩がてら。皇都では、カップルがこういう店で何をするか知っているか?」
「え……?」
知っている。というか、やらされた。
神様に。カップルがこういうところですることを、色々と。
そして俺は学んだのだ。甘い物の美味しさを。
連れ込み宿に連れ込まれる以外には、色々とやられた。
「じゃあ、はい。あーーん」
「え?」
「俺からのあーんを避けると、俺が涙目になるぞっ。女がすたるぞ」
「えぇぇぇ!?」
「ほらほらぁ。あーん」
向かい合って座っているため、尻尾の動きは見えない。だが、顔は真っ赤。
犬耳まであわあわしている。これがしたいがために、半個室のこの店を紹介してもらった。
流石に普通のカフェだと逃げられそうだったからな。
「減るもんじゃないから、ほらほら」
「ミケさーーーんの、け、ケーキが減ってしまいます!」
「気にしないし、ヴィーさんのを貰えば問題ない。ほらほらぁ」
前をどんどん塞いで、逃走経路には伏兵を配置していく。
これは神様にやられたことで学んだ。普通は男女逆だと言うのに。
「で、でででは、しししし失礼します」
顔を真っ赤にして、目をつむる。そして、ハムっとしてくる。
かわいい。餌付けの気分だ。
そうやって、逆にあわわとしながらも、あーんをしてもらったりして楽しんだ。
しばらく楽しんだ後、俺たちは宿へ戻った。
戻る道中、少し離れてついてきていた護衛の方から声が聞こえてくる。
「あー、こうやって餌付けしたり、青春するんですね」「私たちにもくるー」
……シカトしよう。
うぎぎっ羨ましいっ!我だって・・・我だってしたいのじゃ!




