おっとっと
二、三時間ほど仮眠を取ったところで、すぐに起きることとなった。やることが多いからだ。
報告書を書いて、別働隊への伝令、宿を引き払う準備、飯の準備などなど、やることは山積みだ。
報告書作りと移動準備には、俺も駆り出される。
だって、やれる頭数が少ない。
報告書など三行で十分だと思うが、それを出したところで、文句が百行になって返ってきてしまう。
だけど書くことなんて、『見つけました。斬りました。尋問はこれからです』としかない。
仕方ないから、頭を捻って報告書を書いていく。
そんなことをしているうちに、伝令も戻ってきており、飯の準備も出来たらしい。
朝食を食べ、何とか報告書を書き終える。
お茶を飲みつつ荷物をまとめていると、俺に面会したいという者が宿の受付に来ていると、宿の者が伝えに来た。
通す前に身元を確認し、朝飯がまだなら軽いものでいいから持ってくるよう頼む。
問題がなければ隣の部屋に通し、身元と武器の確認をさせてもらう。その後、軽食が来たので、宿の者には心付けと口止め料を合わせて渡させる。
「確認終わりました。問題ございません」
「そうか、入れ」
「失礼します。私、ギーブ商会外商部のゴンドフィナと申します。この度は、我が商会の商品をご愛顧いただき、大変光栄です。つきましては、領都の方で商品をご用意させていただいており、この後ご案内させていただこうと思います」
「そうか。では、案内を任せるぞ」
入ってきたのは、小柄な猫獣人の女性だった。特徴がないのが特徴というか、とにかく地味な人だった。
警戒感が湧きにくく、目の前にいるのは商人としか見えない。服装も地味で、マントを手に掛け、粗縫いの平民服を着ている。
どこかゆったりとした服装だが、武器を扱えるようには、とても見えない。
事前に裏稼業の者だと教えてもらっているが、信じがたい。
「それで、外商部というと国内外の貴族の元に足を運び、貴重な品やサービスを提供してくれると聞いている。間違いないな?
ちなみに、領都での担当者はお前か?それとも別の者か?」
「そのご認識で間違いなくございます。今回は担当ではなく、案内係を務めます。担当者は別の者ですが、同じ外商部でございます。半人前ではございますが、私も適宜サポートさせていただきます」
「そうか。楽しみにしているぞ。そうしたら、どれくらいで出立できる?」
「こちらの宿を一時間ほどで発ち、お付きの方々には商会から別の御者を付け、二時間ほど遅れて出立していただく予定です。その後、領都で合流する予定となっております」
淡々としていて、何を考えているか分からん。
そして、全く面白みがない奴だ。「仕事以外には興味ありません」という感じだ。
……ちょっと、いたずらしてみるか。
「分かった。少しまだ用意がある。くつろいで、朝食でも。」
「かしこまりました。待たせていただきます」
「おぉっと、蹴つまずいた。失礼を、した。許せ」
随分と棒読みの大根役者だが……。蹴つまずいた振りをして、彼女が座っているところまで近づく。
跪くまではせず、彼女の左手を両手でぎゅっと握る。そして、間近から下から覗き込むように、上目遣いで見上げる。
これくらいの演技なら、もう覚えた。侍従に何かおやつを強請る時や、いたずらをして叱られる前にもやった。
両手で握って逃げにくくしてから上目遣いをする。
それが成功のコツだ。
そして、結果は……。
あれぇぇ?
表情も変わらない。息遣いすら変わらない。椅子に座ったままで、ただ、こちらが倒れないように支えようとしているだけだ。
メイドだろうと近衛騎士だろうと、侍従にもやった。
皆、顔を赤らめたり、息遣いが荒くなったり、慌てふためいたり、手を握り返したりするものだ。
酷いと発情するのに……。こいつ不能か?神様にもやったことがあるが、むぎゅーっと抱きしめられ、そのまま抱き上げられて膝の上に乗せられて、にこにこだったのに。
「いえ、こちらこそ蹴つまずかせるような真似をして申し訳ありません」
「では、荷物を用意する。済まんかったな」
この人、よく分からん。いや、全然分からない。皇族が倒れ込んでくるなんて面倒なことに加えて、自分で言うのも何だが、美少年との接触だ。普通なら、こちらの動きを読まれたか、よほど表情が死んでいる奴くらいだ。
考えてもしょうがない。
準備しよっと。
小さい頃から可愛かったのぉ。




