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逆転世界における現人神様の箱庭生活  作者: けちゃらー第一号被験者
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夜明けの移動

 

 ~宿屋の外にて~


「疲れたわー。だけど、これから馬を駆けさせなきゃならないのよねー。歳食うのはいやねー」



「階段の所で待機してましたけど、ドア前に立たれた時は、ヒヤヒヤしてましたよ。ずいぶん奴隷ちゃんがトゲトゲしてましたけど、何があったんです?」



「殿下が危ない目に遭って、過保護な所が出たんでしょう。あの娘、奴隷教育のせいで殿下第一で物事を考えるのよね。ま、過保護な恋心ってところかしら。これが爆発したら楽しそうじゃない?

 恋のライバル登場!で、自分の立場とミロちゃんへの恋心の自覚からの板挟み!これぞ青春よ」



「過保護に……。爆発って、変な方向に走り出して、攫い、自分だけの物にして他の人には見せず、寄ってくるやつには牙を剥き、自分だけを見させ、地下深くに閉じ込めてしまうヤバイ女みたいですが……」



「暴走しても帝国に害があるとは思えないし、生まれた時から英才奴隷教育を受けてるから、殿下に害を与えるようなことも出来るとは思えないわ。

 ま、恋心が暴走して他の女性と対立しても、共同戦線を張るにしても、何をするにしても楽しそうよ。害が及ばない外から見る分には、超楽しいのよ!

 我が家と皇族の血を混ぜるには、いささか権力も血も濃くなってしまうから、今代は交わらないしね」



「そうですか……。また悪いところが出てますよ。

 楽しさと帝国第一に考えることは美徳になりますが、若い子には理解出来なかったり、理解しても納得できなかったりすることになりますよ。

 それが出来てこその、我らが主ですけどね」

「そうねぇ。そこが難しいところなのよね」



 護衛に語っただけではない。

 高位貴族ならば、奥の嫁たちを束ねる本妻たる者の器量が問われるわ。いかに旦那様の不興を買わず、奥を不和なく治められるか。

 それが出来るなら、皇后たり得るだろう。出来なければ、資格はないと言えるわ。

 ハーレムは男がまとめるのではなく、本妻の女がまとめ上げるもの。


 派閥が生まれようが、対立があろうが、奥を治められなければ世継ぎが生まれず、嫁たちの実家が情事に口を出すようになってしまう。

 家に入ったら、家を繁栄させるのが青い血の役目。

 出来ないなら、そいつは赤い血よ。


 青い血を騙る赤い血なんて、この国には要らないわ。


 我ながら、こういうところが悪いのよね。帝国のためになることなら、若い子の感情すら秤に掛けてしまう。

 でも、それが出来てこそ、皇族を支える者になれる。そういう世界なのだから。


 町を抜けてから街道を外れ、馬の待つ場所まではしばらく歩く。その間は声も出さず、静かに歩く。

 やがて暗い夜が、少しずつ明けてくる。

 歩きながら、ミロとアヴィエラの姿を思い浮かべる。思わず、聞こえないような小さな笑い声が漏れた。やっぱり、最初から私達が動かなくて正解だったみたいだったわ。

 最初から私達が動いてしまうと、後ろから短剣と毒薬、脅迫になってしまうわね。


 殿下も戦いで初めて人を斬ったようで、新兵らしくショックを受けていたわ。それに、アヴィエラも武力はかなりあるのに、殿下が絡むと焦ってポンコツになってしまう。

 そこも、ちゃんと思い知らされたみたいだし、身に沁みて学んだでしょうね。いくら幼年騎士学校で学んだ座学や訓練が基本でも、実戦は違うと思い知ったかしらね?


 だけど、まだまだ思い知ってもらうことがあるのよ。

 これから領都へ行けば、今回よりもずっと重いものを背負うことになる。戦うだけでは済まない。

 人を裁き、責任を負い、時には自分の手を汚さなければならない。


 その時、殿下がどうするのか。アヴィエラがどう支えるのか。


 それを見るのが、少し楽しみでもある。歳を重ねたからかしら。

 それとも、この姿が老いることが遅くとも、どこかで自分の寿命が近いと分かっているからこそかしら。

 新しい世代の成長を見守るのって、いいわー。


 いつも見守ってくださる神様の気持ちが、なんとなくだけど分かった気がする。


 今度また、神様へ会いに行ってみようかしら。

 そんなことを思っていたら、いつの間にか夜明けが近くなっていた。


 オレンジ色の空の下、馬と、旅人風に偽装した護衛の姿が見えてくる。ちらりと歩いてきた町の方へ目を向ける。

 そして、ふと思う。ミロシェフ。


 この後の領都では、もっと貴方には辛いことが待ち構えている。

 それでも、きっと乗り越えられる。私はそう信じているわ。


 君主とは、隣に並び立つ者がいない孤独な存在。誰かと同じ場所に立つのではなく、最後には自分一人で決断しなければならない。

 それでもね。きっとアヴィエラが、あなたのかけがえのない半身となる。支えとなって、辛いことを一緒に乗り越えていくでしょう。


 だから私は、少しだけ安心して陰から見ていられる。



「さっそろそろ行きますか。私も、もうひと働きしないとね」


 夜明けの街道へ向けて、馬で歩き出した。

ほんと、歳食ってるくせに動くの。

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