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逆転世界における現人神様の箱庭生活  作者: けちゃらー第一号被験者
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主と奴隷ちゃんの一夜

 どなどなと、護衛部隊三人とヴィーを連れ立って宿に戻ってきた。

 もう夜中に近いため、こっそりと部屋に戻る。

 貴族が夜中に出ていたなんて、邪推してくれと言っているようなものだ。


 宿は相変わらずワンフロアを貸し切りで、護衛の数も少ないため静かだ。

 宿はスイート・ルームなので隣の部屋と行き来ができ、従者が泊まったり、護衛がいる部屋と繋がっているため、人の気配はするものの少ない。


 客人とお話会の真っ最中なので、しょうがない。



「じゃあ護衛はいつも通り警戒をお願いね。今回で犯行グループは町の外にいると思うけど、残党がいる可能性は否定できないからね。

 一応、人数も少ないから、通路側のドアは閉鎖する。何かあれば隣の部屋のドアからよろしく」


 うぃーっと、気だるげな応えが返ってくる。

 そして、男性従者から今夜は気兼ねのない関係のアヴィエラと一緒にいてくださいと気を使われる。湯を貰い、体を拭いてサッパリした。


 お茶を入れ、アルコールで消毒し、包帯を変えてもらう。さっくりざくっと色々やられたが、縫うほどではない。

 嫁を貰う前の男に傷が残っては、貴族、皇族の令息として不味い。


 包帯を変える時にちらっと見えたヴィーの顔は、悲壮な顔で泣きそうになっていた。泣きそうな顔に、しょんぼりな耳と丸まった尻尾が悲しさの表現を倍増させている。


 神様がこの世界に来る前は、外傷に対しては呪術とか、武器軟膏、何かを混ぜた物なんて、酷いものだったらしい。神様が来てからゆっくり変わり、今ではこの田舎でも当たり前のように上下水道が整備されており、流行病も少ない。


 特に男が少ない世界だ。種を大切にしなければ滅亡待ったなしなのは、どこも首都だろうと田舎だろうと変わらない。

 武器軟膏はともかく、何かと何かを混ぜた物とか勘弁願いたい。武器軟膏はある意味、曲解してしまえば暴君論としては良いのか?

 傷を付けた奴を追い詰め、武器を分捕る。その後、武器に軟膏をぬっておいたら完治……。


 と、考えている間に包帯を変え終わったらしい。改めてヴィーを見ても、どこも怪我をしていない。

 が、焦るとポカをするのがこの娘だ。じーっと、顔というより耳を見る。

 顔に出ない分、犬耳を見る方が早い。



「それで、ヴィーはどこも怪我したりしてないか?焦るとやらかすから大丈夫か?」



「いえ、特には。一太刀も貰ってはいません」


 ……。耳がなんか、へにゃんって力なく倒れかけている。

 これは、不味いよー、だけど、隠し事も出来ない、どうしよーって耳をしている。



「で、何やらかしたの?正直に言わないと、尻尾を梳かれている顔を護衛に公開するぞ」



「で、殿下にし、尻尾を漉かれる事はす、す好きですが、そのは、恥ずかしいのでおやめください。

 それでその、やらかしというのは……。対象を無力化する際に肋骨、鎖骨、左上腕骨を折り、両腕の腱を切ってしまいまして……。ついカッとなり、抵抗をされ過剰にやってしまいました。

 後は……。休憩小屋に戻った後、ラクトーシャ様を殴り飛ばした上にマウントを取りまして、他の方々に止められるまでボコボコにしてしまい……」


 おー、昔ならそれこそ肉だるまを量産するような暴走をするか、誰か殺してしまうかと心配をしたが、抑えたか。

 だけど、ボッコボコに味方をやっちまうのはちょっといかんな。てか、一方的にやられたのか?大丈夫か、ラクトーシャ。



「そうか、お前が無事なら良い」


 何も言わない。言えない。だって、早々に組み討ちされたんだから。


 目の前に座っているヴィーの頭を撫でる。さらさらとした、降ろした長い髪の毛と、もっふもふの耳が心地よい。

 抵抗もせず、ただただ目を細めて気持ちよさそうにしている。尻尾はここからは見えないが、見えるならぶんぶん振られているだろう。

 狼よ。


 それにしても、久しぶりに撫でる気がする。小さい頃はよく頭を撫でていたが、最近は二人きりも少なく、構うのも尻尾ばっかりだったから新鮮だ。


 初めて人を殺した。

 この感覚が、相手の肉を貫く感覚が、死にたくないと言った眼が、まだ瞼の裏から離れない。

 この手から抜けてはいないが、ほんの少しだけ紛れた気がする。この感覚を忘れられる日が来るのだろうか。


 いや、無理だろう。これからもこの手によるのか、命令によるのかは知らないが、幾人も殺すだろう。


 周りの静けさが、どこか心地よかった。


 そんな事を思っていると、席を立ったヴィーに手を握られ、引っ張られる。

 むぎゅっと抱きしめられる。

 そしてスンスンと匂いを嗅がれている。



「ミロ様もご無事で良かったです。

 この奴隷の身が言うのもなんですが、心配しておりました。おりましたと言うより、今も心配しております。

 初めて人を斬ったのですから」



「それか。

 感覚が、あの眼が、忘れられないような、そんな気がしてしまうよ」



「呑まれてはいけませんよ。

 それは死者からの悪あがきです。今を生きる者は、今を精一杯生きて行く事が大切です」


 おー、流石、神様やら近衛、治安部隊から連れ出されて先に経験してた者の言葉だ。この世界で誰より長く一緒にいただけのことはある。


 部屋は暑くもないが、抱きしめられるこの感覚が、暖かく心地よい。



「そうか、ありがとう。暖かい」


 静かな部屋。茶も温くなったろう。

 飲み干して寝るかと思った時。


 通(・)路(・)側(・)の(・)扉(・)から、控えめなノック音が響く。


アヴィエラって枯れてるのかってぐらい、性に興味がないけど、いつか噴火するわよ?

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