狼っ娘の振り返り
アヴィエラ視点
私は奴隷だ。主に仕え、主の剣として盾となり、最初で最後の友人になるように身も心も教育をされてきた。今回、仕える主様が皇太子と正式に発表され、記念すべき第一号公務をなさることとなった。
奴隷、それも違法奴隷の誘拐の摘発だ。なんの因果か、私も元は違法奴隷から解放された母より生まれた子で、父を知らない。
解放された母は身寄りや後ろ盾が無いため、身ごもりながら皇城の下っ端で働いていたが、私を生んだ時に亡くなったそうだ。
それで皇太后様の出産が近いということで、皇族付の奴隷として養育されることとなった。奴隷と言っても、五年から十年ほど働き、十分な貯金が出来ていれば、後は本人の意思で平民となることが出来る。
だが、私はこの世界しか知らないし知りたくない。
奴隷でいたい。私は一生をかけて殿下、ミロ様の奴隷であり続ける。
馬車襲撃までは順調であった。このまま何事もなく、私と騎士団で片付けられると思っていたからだ。
だが、私の予想とは大きく外れた。あろうことか、護衛が護衛対象を鉄火場に投げ込むという暴挙をしたためだ。結果、身体に傷が多少付き、後遺症もなく、傷も残らないぐらいで済んだ。
だが、精神面は分からない。私が初めて人を殺したのは山賊だ。農民か傭兵かは知らないが、街道で野盗が強盗を行っていると連れて行かれ、その場で切り捨てた。
その時は大いに落ち込み、二日ほど飯を食えず、夜になると殺した相手の死に顔が浮かんできては眠れず、最悪な状況だった。
殿下にも醜態を晒した。殿下もいつも通りの訓練が発揮できていれば、なんの事はなかっただろう。だが、初めて向けられた悪意が入り混じった殺意に、腰が引けていた。
神様と帝国の契約だからしょうがない。それは理解している。だが、もっとやり方があるのではないか。性急すぎるのではないか。
そう考えてしまい、イライラしてしまう。私は主より先に死ぬために、教育されてきた。なのに、盾になれなかった。
護衛として来ていた者たちの思惑も見抜けなかった。もっと早く、相対した奴を倒せていれば。あれやこれやと色々考えてしまう。
内心、苛つく理由も、焦る理由も理解できる。だが、受け入れられない。ずきずきとした手の痛みだけではなく、この心をドス黒い何かが焦がして侵食していく。首の奴隷の証である首輪がなければ、私はどうなってしまうのか……。
主がいない私など……。
あぁ、ミー様。
早く、はやく目を覚まして私に、『ヴィー、おはよう』とお声をかけてください……。
アヴィエラの尻尾気持ちいいのじゃ。カリスティアもお気に入りで、耳もふわふわらしいが我は触らせて貰えない・・・。




