どなどな準備!
蒸し暑く、今にも雨が降りそうな中、馬車が二台止められた第五騎士団駐屯地。会議室では中堅の貴族が着るような貴族服を纏った俺とヴィー、七名の護衛隊員が一同に会している。
「殿下ようこそいらっしゃいました。あーしは第五騎士団副団長のラクトーシャ・ファティマとゆうます。今回の任務だけでなく今後お会いする機会もあると思いますが末永くよろしくっす。あ、任務終了後婚約からの結婚コースでも問題ないっすよー。」
と軽く挨拶をしてくるおかげか、堅苦しい空気が少し和らいだ。羊獣人と聞いていたが、癖っ毛の髪が暑くないのかとふと思う。身長はアヴィエラと同じくらいで、体格は少し大きく、年齢も二十代前半といったところだ。
「えーっと、ファティマ家と言うことは確か侯爵家の縁者で間違えないか?」
「そーっすよ!って言ってもあーしは三女なんで爵位を継げないし仕事もないのでコネと実力で騎士団入りして仕事させて貰ってるっすよ。副官なのは若いものこそ苦労をするべし!と第三位の騎士なので任官されてるっす。」
そう言って今回の護衛班を紹介してくれる。一応ヴィーにも挨拶をさせるが、こういった場では彼女はほとんど喋らない。
「あぁ第五騎士団諸君今回はよろしく頼むよ。諸君は護衛では近衛騎士にも劣らず何なら条件さえ揃えば勝てるほどだと聞いているよ。そして、今回の任務が早く終われば早い分だけ金銭以外の褒美を取らせる事が決まっているから気張ってくれ。」
おぉと小さく歓声があがる中、ラクトーシャが作戦の説明をしていく。真面目な顔もできるんだなと思っていると。
「今回の任務は、東南辺境で起きている誘拐・違法奴隷特に男性を狙った者共を根切作戦である。下手人は捕まえており手口も判明しているが、売り飛ばした先や買い手が不明のため隊所属の男性使用人を餌とし誘いだし、その後ゴミクズ共を辿り全員下から上まで根切にする。
売り飛ばされた者の保護を第一優先とする。人間は取り逃したとしても暗部が短剣をくれてやるから最悪後回しでもいい。回収された情報は情報要員達が分析してくれるから何一つ逃すな。
また、情報の漏洩を警戒し現地の官憲とは一切連携せず独自に動く。貴族の次男が遊行と狩りで来ている事は知らせるがそれだけだ。相手の規模、販路、汚染度、他国の関与が未だ不明な点は多くあるので、本隊は馬車で一日、馬なら二、三時間の距離にある領都の方で合同演習をしつつ救援として待機させているので安心せよ。」
さすが副官をするだけある。緩んだ空気を締める時はよく締めると。そう思い見ていると。
「そして我々に同行させる皇太子殿下もとい、伯爵家次男のミケ様も捜査に加わる。ある程度護身もできると伺っているが見ての通り可愛いらしい。そんな可愛らしい男性に手をかけさせ心配させる事なんて事はしないように。
特にあーしがデートしたり手を繋いだり膝の上に乗せて頭ナデナデと濃ゆい事を一日と言わず一生するん!あーしが率いるこの護衛隊のご褒美を売り渡してでもせめてチューをぶちかまっすよ!!」
一斉に大ブーイングが巻き起こる。やれラクトーシャは下がっとけ私がお守りするんだ、いや私が暴女から守るのだ、怖がる殿下を抱きしめるのだ、キスをいただくのだ、貴様ら渡さんっす、と色々聞こえる。聞こえるがきこえなーい。
ラクトーシャに目配せをし一旦締めて動き出そう。
よく通る声が響き渡る。
「総員傾聴!!これより皇太子殿下からお言葉を賜る!!!」
「ありがとう。この場にはおられないが団長閣下に感謝を。この若輩者を信じ君たち百戦錬磨の騎士を託してくれた。そして何より諸君らに感謝を伝えたい。陛下のそばで仕事を見て学び仕事を一部任せて貰ってきた。
公務として初めてで正直に言えば怖い、市民もいきなり誘拐されたと思ったら奴隷に落とされ涙していると思うと胸が痛む。彼らをそんな地獄から救い出し下手人達に短剣を下す事それは皇族としての義務である。
怖いが君たちの顔を見て安心を覚えた、なぜか!必ずこの場にいる全員誰一人欠ける事なく、やり遂げる力を貸してくれると信頼しているからだっ。
この若輩者の身からご褒美が欲しいか?ならば与えようではないか。神と帝国に仇なす愚か者共を地獄行きの船に乗せたら必ず!!」
しーんとした中。ラクトーシャの元気な声と手振りで手をあげながら質問をしてくる。
「はいはーい!一番活躍したら、今度あーしと帝都で一日デートして夜の最後はおでこで良いのでチューをしてもらってもええんでしょうか!!約束っすよ!!」
諦めてないのね、俺の左後ろにいるヴィーの殺気も気にせずよく言えると思うが士気を上げるためだ。
ヤリモクや男を餌扱いする肉食獣が多いこの世界で、清い男性趣味と考えればまだ可愛いものだ。仕方ない許可するかね先着一名、それと団長を倒したらという条件で。
「分かった、許可しようじゃないか。ちなみに同じような事をヴァリラ閣下が言っていたのでブッキングしている。先着一名様だけだよ?この体は毎日デート出来るほど空いていない。デートなんて特別にだからこそだ。」
わーわーと色々内輪揉めの様相を呈しているが士気も高まっている。金銭よりもこういった特別感の方がまだ良さそうかなと思ったがその通りだった。
「わっかりましたー。全員誰一人欠けることなく、神と帝国に仇なす者共に鉄槌を加えてあーしがデート券をいただくっすよ!そして殿下をめろめろにしたるっすよ!!」
ヴィーがしょうがないなぁという顔しながらこちらを見てくるが、第一関門は突破かな。
次の関門はいつも使っている馬車と違ってそれなりの貴族の馬車で俺の尻がどこまで我慢できるかだ。
帝都から領都は街道が綺麗に整備されている。が公爵領から辺境間の街道あれどそこまで商売が活発ではなくそこそこと聞いている。別の辺境街なら商売街道もしっかりしているのだが……しかたない。馬乗っちゃダメかな。
隊員達がぐぬぬとしている中、呆れた声で従騎士から馬車と馬の準備が出来たと声がかかる。
「それじゃあ、あーしの隊員達よ仕事の時間っすよーきりきりうごーく!」
最後はそう締めるのねブレないと言うか緊張させないと言うか……。
そうして馬車は騎馬の護衛を伴って出立するのであった。
ミロよ征くのじゃ!お尻は我が慰めてやろう!




