深夜の訪問者たちと、甘い約束
王城が提供してくれた部屋は、普通の貴族でも滅多に入れないような豪華極まりない一室だった。
ふかふかの巨大な天蓋付きベッドに、洗練された調度品。窓からは月明かりに照らされた美しい城下町を一望できる。
「……はぁ、本当に激しい一日だったな」
一人になり、ベッドの端に腰を下ろして息を吐く。
異世界に転移しただけでも大事件なのに、まさか男が絶滅した世界で「伝説の存在」として崇められ、挙句の果てに女王陛下にまで迫られるなんて。
トントン――。
思考にふけっていると、ドアを優しく叩く控えめな音が響いた。
「ヒロさん……起きていますか……?」
鍵を開けてドアを少しだけ開けると、そこには寝巻き姿のエリスが立っていた。
普段の硬質な甲冑姿とは違い、薄手で柔らかい白いナイトドレスに身を包んでいる。銀色の髪が月光を浴びてしっとりと輝き、普段よりもずっと華奢で可憐に見えた。
「エリス? どうしたの、こんな夜遅くに」
「あの……その、昼間のお話の続きと言いますか……ヒロさんが一人で寂しくないか心配で……入っても、大丈夫ですか……?」
「うん、どうぞ」
部屋に招き入れると、エリスはモジモジと指先を弄びながらベッドの近くへと歩み寄ってきた。彼女の体から、甘くて優しいお花のような香りがふわりと漂ってくる。
「……ヒロさん。女王陛下やヴァルキリア様、ルチアに囲まれて……困惑してしまいましたよね?」
「ううん、みんな僕のことを大切に思ってくれてるんだなって分かったから、嫌な気はしなかったよ」
「……ヒロさんは、本当に優しいですね」
エリスはふっと愛おしそうに目を細めると、意を決したように僕の隣にちょこんと腰を下ろした。二人の距離が一気に縮まり、彼女の体温がダイレクトに伝わってくる。
「私……すごく怖かったんです。ヒロさんが女王陛下に連れて行かれて、二度と私に会えなくなってしまうんじゃないかって……胸がぎゅっと痛くなって……」
上目遣いで僕を見つめるエリスの瞳は、いまにも涙がこぼれ落ちそうだった。
「エリス……」
「私、知っています。騎士としての職務よりも、私個人の独占欲でヒロさんを引き留めようとするなんて、わがままだってこと……。でも……!」
エリスはそっと僕の手を両手で包み込み、自分の胸元へと引き寄せた。ドクドクと速く打つ彼女の鼓動が、僕の手のひらにしっかりと伝わってくる。
「この胸のときめきは、ただの『神話への憧れ』なんかじゃありません。ヒロさん……私、あなたが好きなんです。世界中の誰よりも、一番にあなたの側にいたい……っ」
「……っ」
ストレートで青澄んだ告白。真っ赤な顔でまっすぐに想いを伝えてくる彼女の姿に、僕の心臓も跳ね上がった。
「だから……私を捨てないでくださいね……?」
そう言って甘えるように僕の肩に頭を預けてくるエリス。その柔らかい感触と甘い香りに包まれ、僕がどう返事をしようか迷っていたその時――。
ガチャリ。
「――静かに入らせていただいたぞ、ヒロ殿。夜間の護衛体制の最終確認を……って、なっ!?」
部屋の鍵を開けて入ってきたのは、薄装束の部屋着を纏った騎士団長・ヴァルキリアだった。
彼女は僕とエリスが密着している光景を目にするやいなや、手にした書類をバラバラと床に落とした。
「エ、エリスっ!? お前という奴は、このような深夜に何をしているのだ……っ!?」
「ヴ、ヴァルキリア様!? それはこちらのセリフです! 団長権限で合鍵を使って勝手に入るなんてずるいです!」
「私、私はただ、ヒロ殿の身の安全を確かめにきただけで……っ! 決して、夜這いのような不純な動機では……っ!」
耳まで真っ赤にして狼狽えるヴァルキリア。
「ふふ、二人とも夜遅くまで元気ねぇ」
さらに、窓枠をすんなりと乗り越えて部屋に忍び込んできたのは、シルクのパジャマを着たルチアだった。
「ルチア!? なぜ窓から入ってくるんだ!?」
「天才学者に不可能はないわ。それよりヒロ、夜は脳がリラックスして素の感情が出やすいの。今夜は朝まで二人でお話ししましょう?」
美少女三人が僕のベッドの周りに集まり、それぞれの想いをアピールし合う甘い押し問答が始まった。
全員が女子の世界で、僕を巡る熱い争奪戦は、夜が明けるまで終わる気配を見せなかった。




