凱旋の宴と、深まる夜の甘い褒美
「ヒロ様に乾杯―――ッ!!」
大魔獣の討伐から数日。王都は勝利の歓喜と、世界を救った「唯一の男の子」への熱狂に包まれていた。
王城の大広間で開催された凱旋パーティーは、まさに国を挙げた大祝宴だった。豪華絢爛な料理や極上のワインがテーブルを埋め尽くし、華やかなドレスを身に纏った貴族や女騎士たちが、主役であるヒロの周りに黒山の人だかりを作っている。
「ヒロ様、一口召し上がってくださいな! このお肉、すごく柔らかいんですよ?」
「まあずるいわ! ヒロ様、私のお届けしたお花はご覧になっていただけましたか!?」
「お声を聞かせてください! お願いです、私の名前を読んでいただけたら一生の宝物にいたします……っ!」
熱狂的な女性たちの視線と情熱的なアプローチに押し潰されそうになりながら、ヒロは冷や汗を流して苦笑いするしかなかった。
「あ、ありがとうみんな……! でも、少し順番に――」
「そこまでです! 無礼者たち!」
凛とした声とともに割って入ったのは、豪華な漆黒のドレスに身を包んだヴァルキリアだった。普段の甲冑姿とは一変し、深く開いた胸元と綺麗な背筋が際立つ艶やかな姿に、周りの女性たちも思わず息を呑む。
「ヒロ殿は我が聖騎士団、そしてこの国の英雄! 軽々しく揉みくちゃにして良い方ではない! 退きなさい!」
ヴァルキリアが鋭い視線で周囲を牽制すると、女性たちは名残惜しそうにしながらも散っていった。
「ふぅ……助かったよ、ヴァルキリアさん。ドレス、すごく似合ってるね」
ヒロが素直な感想を口にすると、ヴァルキリアは「っ!?」と肩を跳ねさせ、手に持っていたグラスを落としそうになった。耳の先端まで真っ赤に染めながら、彼女は視線を泳がせる。
「ひ、ヒロ殿にそう言っていただけると……わざわざルチアに選ばせた甲斐があったというものだ……。その……綺麗、だろうか……?」
上目遣いで感想を求めてくる騎士団長。その可憐すぎる反応にヒロが胸を打たれていると、反対側から腕をぎゅっと抱きしめられた。
「ヒロさん! 私のドレス姿も見てください!」
そこにいたのは、フリルがたっぷりとあしらわれた純白のドレスを着たエリスだった。まるで小さな妖精か花嫁のような愛らしさで、ヒロの腕に自分の胸を押し当てるように抱きついている。
「エリスも……すごく可愛いよ。本当に天使みたいだ」
「へへ……! ヒロさんに一番に褒めてもらいたくて、ずっと鏡の前で練習していたんです……っ!」
エリスは幸せそうに頬を緩め、ヒロの肩にちょこんと頭を預けた。
「ちょっと二人とも、私を忘れてもらっちゃ困るわね」
さらに、シックな紺色のドレスを纏い、メガネを少し持ち上げながら歩み寄ってきたのはルチアだった。彼女は手に持ったグラスを揺らしながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「今日のパーティーの主役はヒロなんだから、私たちが独占して甘やかしてあげないとね。……ねえヒロ、後で二人きりでバルコニーに行かない? 夜風を浴びながら、秘密のお祝いをしてあげる」
「ちょっとルチア! 抜け駆けは許しませんよ!」「私だってヒロ殿と二人きりでお話ししたいことがあるのだ!」
宴の最中でも始まる甘い争奪戦。
そんな賑やかな四人の元へ、静かに歩み寄ってきた人物がいた。煌びやかな王冠と、深い赤のドレスを身に纏った女王ルミナスだ。彼女が近づくと、周囲のざわめきが一瞬で静まり返る。
「皆さん、楽しんでいますね。ですが……ヒロを独占するのは、そろそろ私に譲っていただけますか?」
ルミナスは妖艶な笑みを浮かべると、ヒロの手を優しく取り、己の胸元へと引き寄せた。
「ヒロ。世界を救ってくれたあなたに、私から特別な『褒美』を用意しました。宴の後は……私の寝所へいらっしゃい」
「「「へ……ッ!?」」」
エリス、ヴァルキリア、ルチアの三人が同時に素っ頓狂な声を上げた。
「へ、陛下!? 寝所だなんて……それは一体どういうことですか!?」
「不敬を承知で申し上げます! ヒロ殿を一人で寝所にお連れするなど、断じて許可できません!」
「そうよ! 一体どんな『褒美』をあげるつもりなのよ!?」
顔を真っ赤にして猛抗議する三人に対し、ルミナス女王は可憐にウインクしてみせた。
「ふふ、何をするかは……ヒロと私だけの秘密ですよ? もちろん、あなたたちも指をくわえて見ているだけ……というわけにはいかないでしょうけれど?」
ルミナスの挑発的な言葉に、三人の乙女たちの対抗心が一気に爆発した。
「私だって……ヒロさんにもっと甘えてほしいです! 負けません!」
「我が愛の深さ、今夜こそ証明してみせる……っ!」
「フフン、科学的なアプローチでヒロを一番トロトロにさせてみせるわ!」
夜が深まるにつれ、王城を包む空気はますます甘く、熱を帯びていく。
世界で唯一の『男』であるヒロと、彼を愛して止まない美少女たちの甘く激しい夜の陣が、いま静かに幕を開けようとしていた。




