秘密の夜会と、乙女たちの誓い
「全員の愛を受け入れる」――ルミナス女王の放ったその一言は、王城に集まった少女たちの心に、静かだが決定的な旋風を巻き起こした。
その日の夜、僕に与えられた広い客室には、昼間のガーデンパーティー以上の重苦しくも甘い緊張感が漂っていた。
「……コホン。夜分遅くにすまない、ヒロ殿」
そう言って部屋を訪れたのは、いつになく真剣な表情を浮かべたヴァルキリアだった。
甲冑を脱ぎ捨て、上品な深紅のロングドレスを身に纏った彼女は、普段の厳格な騎士団長というよりも、一人の高貴な貴族の令嬢のような雰囲気を醸し出している。
「ヴァルキリアさん、どうしたの? こんな夜遅くに……」
「昼間の陛下の言葉について、ヒロ殿と二人きりで話をしておきたくてな」
彼女は頬をほんのりと赤らめながら、ソファーに座る僕の隣へとゆっくり腰を下ろした。普段の凛々しい立ち振る舞いが嘘のように、彼女の指先は膝の上で固く握りしめられている。
「私は……聖騎士団長として、この国と国民を守ることだけを考えて生きてきた。恋だの愛だのといった感情は、自分には縁のないものだと思っていたのだ」
ヴァルキリアはサファイア色の瞳を揺らし、まっすぐに僕を見つめてきた。
「だが、森から現れたヒロ殿の姿を目にし、その低く優しい声を聞いた瞬間……私の中で何かが弾けたのだ。胸が苦しくなり、四六時中あなたのことばかり考えてしまう。……これが『恋』なのだと、ルチアに指摘されるまで気づけなかった」
「ヴァルキリアさん……」
「私は不器用だ。エリスのように素直に甘えることも、ルチアのように器用にアプローチすることもできん。……だが、ヒロ殿を愛おしく思い、生涯をかけて守り抜きたいという情熱だけは、誰にも負けないつもりだ」
ヴァルキリアは意を決したように、僕の手を両手で強く包み込んだ。彼女の手は少しだけ震えていたが、握る力には強い決意が込められていた。
「もし……ヒロ殿が私を選んでくれるのなら、この命も、私の捧げる愛のすべてをも、あなたに誓おう。……どうか、頭の片隅に留めておいてほしい」
「――ズルいですよ、ヴァルキリア様!」
部屋の扉が不意に開き、可愛い怒り声をあげて入ってきたのはエリスだった。
彼女はエプロン姿で、焼きたての甘いクッキーが載ったお盆を手にしていた。
「ヒロさんがお腹を空かせていると思ってクッキーを焼いてきたのに……ヴァルキリア様が一番乗りなんて卑怯です!」
「むっ……! エ、エリス!? 鍵はかけておいたはずだが……」
「ルチアに仕掛けを教えてもらって開けました! 団長閣下だけズルい真似はさせません!」
エリスはお盆をテーブルに置くと、反対側から僕の腕にぎゅっと抱きついてきた。
「ヒロさん、私……女王陛下やヴァルキリア様には立場も力も敵わないかもしれません。でも、ヒロさんを大好きな気持ちだけは絶対に負けません! 私の全部で、ヒロさんを幸せにしてみせます!」
「エリス……っ」
「ちょっとちょっと〜、二人とも抜け駆けは感心しないわねぇ」
さらに、部屋の影からひょっこりと顔を出したのはルチアだった。彼女は手に怪しげな(しかしとても甘い香りのする)ハーブティーのポットを持っている。
「ヒロ。私は頭脳であなたをサポートするわ。あなたの元の世界のこと、この世界の構造、全部一緒に研究して、あなたが快適に過ごせる最高の環境を作る。……だから、私のこともちゃんと『一人の女の子』として見てほしいの」
ルチアはメガネを少しずらし、普段見せないような悪戯っぽく可憐な笑顔を僕に向けた。
「みんな……」
部屋に充満する、美少女たちのまっすぐで情熱的な想い。
『男』という神話の存在としてではなく、ただの『僕』という人間を心から愛そうとしてくれる彼女たちの温もりに、僕の胸も深く打たれていた。
「ありがとう、みんな。いきなり異世界に来て不安だったけど……君たちがいてくれて、本当に良かったと思ってる。すぐには答えを出せないかもしれないけど、僕もみんなと真剣に向き合いたい」
僕がそう言って素直に微笑むと、三人の乙女たちは同時に顔を真っ赤にして息を呑んだ。
「〜〜〜〜っ! 本当に……ずるいお人だ……っ」(ヴァルキリア)
「ヒロさん……大好きです……っ!」(エリス)
「……あーあ、もう完全に降参ね。一生研究対象兼、最愛の人として側にいさせて」(ルチア)
夜空に浮かぶ二つの月が優しく部屋を照らす中、美少女たちに囲まれた僕の甘くて温かい異世界生活は、より一層深い絆とともに続いていくのだった。




