冒険者になれるかも
堂々と自信満々のコルトが前へ行った。
あいつ……前にもゴブリンを倒したことがあるって実績が自信になっているのか?
ひとたびゴブリンを前にすると中腰になり小声でささやく。
「よし……ゴブリンが見えたぞ」
慎重なのはプロの証。
誰でも見える距離にいるゴブリン見えたよというコルトの報告に俺とゴードン。
「コルトさん。尊敬します」
「コルトさん。一生ついていくっす」
「よせやい。俺らダチだろ? 対等だ」
拳と拳を俺達は軽くぶつけ合った。
そしてコルトは言った。
「全てが終わったら……俺達の冒険が始まる。一緒に……強くなろうぜ?」
あれ……こいつこんな奴だったっけ?
聞いたことがある。
危機に陥った時、人は本性を現すと。
こいつの本性が今、現れているのだとすると、こいつはなんて勇敢で聖人君子な奴なのだろうか。
今まで自分の事ばかり考えて生きていた自分が恥ずかしい。
これが終わったらせめてあの時のお金はなんとかギャンブルで稼いで返そう。
「作戦はさっき言ったとおりだ。やるぞ?」
コルトの意志満ちる言葉。
「おう!」と俺達は答える。
「よし……この掛け声で行くぞ? 3、2、1でゴー!! だ!」
「ごおおおおおおおお!!!」
一瞬だった。
突然の出来事で理解が追い付けていない。
いや、追い付くはずがない。
この四行の間にかかった思考秒数コンマ3秒にも満たなかったに違いない。
「わかったか?」とコルトのどや顔の前に一人叫びゴブリンに突っ込む奴。
俺とコルトは思った。
信じられねえ……
「わかってない奴が一人行ったぞ?!」
「まずい……いくぞおおおお!!」
「おお?! ぉおおおお!!!」
俺もゴードンに続いた。
ゴブリンが俺達に気づいて「ググギャギャギャアア!!」と鳴き声をあげた途端にすべてが連鎖する。
次々と鳴き声は広がり周囲のゴブリン達を引き寄せる地獄の連鎖。
『まずい』という言葉で片付けられるような状況じゃない。
それから俺達がいないことに違和感を覚えたのか勢いのままに突撃したゴードンが帰ってきた。
「だましたね?! 3、2、1でゴー!! って言ったじゃん?! ひどいや!!!」
一人突っ込み帰ってきた時の第一声が『だましたね?』と俺達に言う度胸は恐れ入る。
「確かに言ったけど今じゃなかっただろ?!」
「ええ?! そうだったの?!」
素直すぎる。
瞬間、コルトが雄叫びをあげた。
「うおおおおおおお!!!」
とてつもない迫力が腹の底を突き動かすような叫び。
その叫びは大気をも震わした。
周囲に迫るゴブリン達が動揺しているのがわかるほどに……
コルトの覇気は凄まじく俺達ですら身じろいでしまう程だった。
その姿はまさに気圧される程に圧巻。
「すげぇ……」
言葉が漏れる。
しかし、俺は目を疑った。
「……ん?」
その迫力の正体がまさに今目の前に広がっていることは確かのなのだけれども……
ピクりとも持ちあがらない大剣がプルプルと震えていた。
そして、それを必死に持ち上げようとするコルトの悲しき悲鳴であったことに……驚愕した。
「はぁ、はぁ、はぁ……ぬう? うんのおおおおおおおおお?!!?!?!」
俺とゴードンは、その後ろ姿で悟った。
ダメだこれ……と。
この様子を見て理解したのかゴブリンがそのままコルトへと走ってくる。
「やばい!!」
きらりと光るナイフ。
「グゲガァ!!」っと気合のある鳴き声と共に得物をコルトへと振り下ろそうとしたのだ。
見ている。
俺は友がやられる瞬間を見ている。
だめだった。
俺の足が動かない。
友の危機だと言うのに俺は自分かわいさに足が動かない。
コルト……すまん。
自分の情けなさを呪った。
しかし動けなかった俺に反し即座に動いたのはゴードンだった。
「うりゃああああああああ!!」の掛け声と一緒に、鈍い音が響く。
一瞬、周囲が静まり返った。
「やれ……た?」
俺の声だけが響く。
ゴードンがやったと思われるゴブリンはぴくぴくと痙攣するのみ。
血まみれの太い木の杖はその証だ。
こうして、その杖は魔術を放つためのものでなく今一番、有用な鈍器へと変貌した瞬間だった。
それからは地獄だった。
「僕が? へ? あは?! はは!! あはは?! ……あはははは?! あははははは?!!」
ゴードンがおかしくなった。
杖、もといこん棒を手に持ち掲げぶんぶん振り回す。
魔術師がどこかへ行って狂気の殺人鬼へと変貌を遂げたのだった。
いやこの場合魔物殺し?
そんなくだらない名称を考えているとゴードン。
「死にたい奴からかかってこいやああああああ!!! ごらあああああああ!!!! 僕は無敵だぞおおおおおおおお!!!」
どこか精神的な一線を越えてしまった様子。
もうゴードンの目から光は失われている。
何故ならどっかあらぬ方向に目玉が向いてしまっているんだもの……
常軌を逸したゴードンは次々とゴブリンを襲っては鈍器で叩きつけていく。
可哀そうなゴブリン達。
泣き叫び殴られるがままに一方的な虐殺がそこにあった。
そして死んだゴブリンですら武器に振り回す狂気を見せ始めるゴードン。
気が付くとまるで俺達が悪魔になったかのような地獄な光景が広がっていた。
そして俺は必死に走った。
「正気にもどれゴードン!! 待て!! 一旦落ち着くんだ!!」
「あはへ?! はははえ?! ははへえ!!! 俺は無敵だああああ!! うぉりゃああああ!!!」
つぎつぎと潰れる肉の音。
言葉にならない声を発しながらぶんぶん振り回される棒。
飛び散るゴブリンの血。
追われてるゴブリンは皆一様に血の気もひくような表情となり恐怖を浮かべていた。
そして……どうして俺が必死に走っているかって疑問に思うだろう。
なぜなら……
「待って?! 待って!! 俺も!! 俺も追われてるから!! 追われてるからあああ?! ゴードン!!! ちょっと待って!!! ちょっと待てって言ってんだろごらああ?!」
ゴードンに追われるゴブリン、それから逃げようと必死に俺を追いかけようとするゴブリン。
どうしてこうなったのかはわからない。
「死ねええ!! ゴブリン!! 死ねええ!!!」
「聞く耳もたねええええ!!!! そうだ。コルト?! コルトおおおおお!! 助けて!! 助けてくれえええ!!!」
俺がコルトに必死に助けを求むべく叫び視線を送るとゴブリンにガン無視されながら奴はさっきと1ミリも変わらない姿勢でいることに狂気を感じた。
「ふうんぬおおおおおおおおおお?!?!?!」
まだ大剣を持ち上げようと奮闘していた。
「もう、いっそ大剣捨てろやああああああ?!!! 一生のお願いだ。捨てて!!! 何とかしてくれ!!! じゃなきゃ本当の一生のお願いになるぞおおおおおお!!!!!」
そして奇跡が起きた。
なんと……なんと、コルトの大剣が振り上げられたのだった。
「コルト!! マグナムううううううう!!!」
一生持ち上がらなかった大剣の技に名前つけてんじゃねえええ!!
振りあがる大剣。
その影が何故か俺に迫る。
「え?……まじ?! まじか?! まじかよ?! うぉおおおおおおお!!!」
俺は思いっきり前に飛んだ。
そして、まとまったゴブリン達に大剣がぶち当たるのだった。
「はぁ、はぁ……よっしゃああああ!」
そう叫ぶコルトのさわやかな笑顔。
俺は何発か殴りたくてたまらなかった。
後ろから来たゴブリン達は次々と大剣とゴブリンにつまずいて転んでいく。
「あひゃ!! ひゃああああ!! 死ね!! 死ね死ね死ねええええ!!!」
そして意図せず発せられた大剣の罠にゴブリン達は、次々と後ろから迫りくる狂気にかち割られていくことで逃走劇に幕を閉じるのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……ここは?」
杖も捨てゴブリンの死体を両手に鷲掴みにしている魔術師ゴードン。
いや狂人ゴードン。
「よう、気が付いたかよ狂人」
「狂人? ゴブリンは……っは?!」
我に返ったゴードンは周囲の惨状を見て驚く。
「ブラックが?」
「違うに決まってんだろ?! 本当に覚えてないのか?」
「え……? うん。コルトが危なかったのだけは何か覚えてるんだけど……」
「はぁ……これ全部お前がやったんだぞ?」
木に叩きつけられ哀れになってるゴブリン。
地面にも何体か死骸が転がっている。
ギルドから言われた10体なんてとっくに片付いているほどにゴロゴロと転がっていた。
「俺が?! これが……魔法?!」
「なわけあるかぼけ!!!」
コツンと俺はゴードンの頭を軽く小突く。
「いて!! 何するんだよ」
「お前のせいで死にかけたわ!!」
「え?! わからないけど……ごめん!」
「まあいいけどさ……うまくいったし」
「よっこらしょっと。俺のコルトマグナムで一瞬で片付いたな?!」
「お前ずっと隅っこで踏ん張ってただけだろ?! ゴードンにも殺されかけたけどお前が一番、俺を殺しかけたんだからな?!」
「そうだったか?」
「そうだった!!!」
「まあでも、ブラックならなんとかなるって信じてたぜ?」
拳を前に出したコルト。
「コルト……」
こんなことで納得しているわけじゃないけど……俺は笑顔でコルトの右頬にストレートを一発かました。




