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冒険者になるべく

 いや待て決めつけるにはまだ速い。


 何事も決断が速ければいいと言うもんじゃない。


「あれ? ブラック、コルト……どうしたの?」


「え? いや……えっと」


 コルトの言い淀む様子。


 わかる……わかるぞ?


 俺もゴードンには言いたいことが山ほどあるが、それ以上のヤツが来てしまった。


「ああ、えっと……そのよう……なんだ? ゴードンは魔術師? 的な何か?」


 恐る恐る確かめざる負えない。


「何を言ってるんだよブラック。『魔術師的な何か?』じゃなくてほら見てよ!! 僕は魔術師だ!」


 とんでもないキメ顔で杖を右手に左手で魔導書らしきものをさっと構えるゴードン。


「へ、へぇ……すごいな。よ、よく魔術師を選んだな?」


 しかし、成りだけは正真正銘の魔術師。


 悔しいが魔術師以上に魔術師の装いがはまりすぎてて、魔術師以外の何物にも見えない……


 そうだ。


 きっと魔導書で学んで正真正銘の魔術師になったに違いない。


 俺はそんな淡い一筋の希望にすべてを託すことにした。


「杖と魔導書なんて本格的じゃないか。似合ってるよ」


「ふっふっふ、僕のセンスが光る時が来たようだ」


 光ってるのは別のセンスだけどな。


 しかし漁師としての弱点はあるけど船上で吐き散らかしながらもとんでもない重さの網を素手で引き上げるスタミナと剛腕という長所がゴードンにはある。


 むしろコルトより前衛向きだと思っていたんだけどなぁ。


 俺は、そんな本来、脳筋であるようなゴードンに「その本、ちょっと見せてくれないか?」と聞く。


 すると上機嫌なゴードンは快諾してくれた。


「いいよ! 古書店で結構、安く買えたんだ! ブラックに読めるかな?」


 古書店?


 魔道具店じゃなくて?


 いやな予感がした。


 どれどれっと。


 そこに記されていた文言、それは……


 誰でも簡単、1日でなれる魔術師の基礎が詰め込まれた究極の一巻。


 たった1日5分継続するだけで憧れの魔術師に君でもなれる!!


 これを読めばあなたも魔術────


 読むのをやめた。


 1日でなれると書いておきながら1日5分継続するだけでの書き出しに不安しか感じない。


「ちょ、ちょ! 集合……集合!!」


 俺はコルトとゴードンの肩に腕を回して聞く。


「どうしたんだよブラック?」


「これから冒険者になるための気合がけ?! いいよやろう!」


「いや、期待させてごめん。ちょっと違うんだ……」


「「違う?」」


 二人同時に疑問の声を漏らす。


 息はぴったりなんだよなぁ……


 俺からするとどうしてこれから、この状況で冒険者登録できるのか知りたいくらいなのに。


 バランスはいいと思う。


 成りは良い。


 二人とも前衛大剣士と後衛魔術師、そして遊撃の俺の基礎の取れた良いパーティだ。


 ウェイター時代によく冒険者の話を盗み聞きしていた俺にはわかる。


 だが、しかし実態はどうだ……?


「なあ……俺達、これから冒険者になるんだよな?」


 ためらいなくコルト。


「ああ、そのつもりだ」


 目を輝かせてゴードン。


「僕もその約束で頑張ったぞ!」


「俺が言うのもおかしいと思うんだけどよ。その装備で大丈夫か?」


「ああ、大丈夫だ」


「問題ない!」


 なんかダメそうだ。


 コルトに続いてゴードンの言葉が信用ならない。


 するとコルトがニヤニヤと。


「もしかして……怖気づいちまったのかぁ?」


 続いてゴードンの追い打ち。


「まさかここへきてビビるのもブラックらしいなぁ」


「び! ビビってなんかねえし! ああわかったよ! よーしビビッてなんかねえって証明してやらぁ!」


 こうして俺達は冒険者登録をするべく適正試験と言う名の試験依頼を受けるのだった。


 にっこに、このギルド職員のお姉さんの下へと男三人向かう。


 新人冒険者だと告げるとにっこにこだった表情が若干陰りを見せ面倒草さが垣間見えた。


 仕事増やしてごめんってと心の中で謝る。


 しかし、とてもかわいいお姉さんだ。


 連絡先と出身や趣味とか聞きたいな。


 そんなことを考えてしまっていたせいで半分話が入ってきてない中。


「それでは、あなた方には最初に町はずれの丘、地図ですとアルメナの森中腹に住み着いたゴブリン10体の討伐をお願いします。彼らの証……牙や体の一部などをそれぞれ10体分集めあちらの素材回収窓口へと納品お願いします」


 あ、やばい。


 ほとんど話を聞いていなかった。


 けれど内容は普通の冒険者の誰もが通る道である小鬼狩り。


 もちろん腕がなるぜ。


 それから俺は簡易的な地図をメモし大体の場所を把握してからギルドを出た。


「ギルドのお姉さん可愛かったなぁ」


「ギルド職員は高給職だ。俺達じゃ相手にされないだろうな」


 コルトが現実を叩きつけてくれる。


「それはわかってるからいいんだよ。まあゴブリン相手だ」


「ふっふっふ、ゴブリン如き。この大海をまたにかけた大魔術師となる俺にはかなうまい」


「おいおい調子に乗るなよ? お前もゴブリンとなんて戦ったことないだろ?」


「っく、思えばそうだよな?」


「俺はあるぞ?」


「え? 本当?」


「すごいコルト! 頼もしい!」


「ああ、あいつら度々農地にでて作物を荒らすんだ。その度に鎌で殺してたな」


「へぇ……ん? まてよ。なぁ……コルト」


「なんだ?」


「今からでも遅くない。農具の鎌、持ってこないか?」


「いやいやいや、勝手に持ってったら怒られるし、それになにより俺には相棒がいるからな?」


 にやりと相棒と呼ぶ大剣に親指をぐっと立てて指すコルトのどや顔。


 出会って9日の相棒とは……


 それから俺達は買い込んだ装備を背負っていざ、ゴブリン退治へと赴くのだった。


 町の防壁門を潜り抜けて外の大地を踏みしめる。


 ウェイター生活じゃ味わえない歩み。


 行きかう人達は行商人やら兵士やら、冒険者やらと様々。


 そのまま歩みを進めて俺達はアルメナの森の手前まで来ることに成功した。


「ここまでの段取りは順調だ」


「ここがアルメナの森……」


 ごくりと生唾を飲み込むコルト。


 わかる。


 わかるぞ。


 このうっそうした森を前にたじろいでしまう感じ。


 一寸先は闇か光かもわからない。


「なんか暗くね?」


 緊張感のないゴードンの言葉を置いといて「入るぞ……」と俺は剣を抜いて足音を殺しながら進んだ。


 かすかな獣臭。


 良い匂いとは言えない中緊張の走る一歩を進めていくと木々の緑、一色の奥に何かが動いているのが見えた。


「待て」


 俺が小声でそうささやくとコルトもゴードンも止まってくれた。


「ゴブリンだ」


「え? 本当?」


「よく見えたなブラック」


 緑色の肌と浅黒い布きれを腰に巻いた魔物がそこにいた。


 まだこちらには気づいていない。


 さて……


「なあ……一つ聞いていいか?」


「ん? なんだ」


「どうしよ。俺達まずは何をしたらいいんだ?」


「いや、俺に聞かれても……襲われた時に襲い返すくらいしかわからないよ」


「そういえば俺達ゴブリンの事って外見ぐらいしか知らなくね?」


「ああ、知らない」


 とんだ誤算だった。


 ゴブリンという魔物が冒険者の誰もが通る弱い存在とばかりの認識でいたけれど、ここで対面してわかる。


 どうしていいかわからないどうしよもなさ。


「ゴードン、魔術師なんだよな?」


「ああ、魔術師だ!」


「声! 声! でかい! 気づかれるだろ」


 俺は急いでゴードンを制してゴブリンを見る。


 どうやらまだ気づかれていないようだ。


「す、すまん。ついテンションが」


「ああ、気を付けろよ? それで魔術師なら魔術は使えないのか?」


「ん? ああ使えるとも!」


「おぉ」

「おお」


 一瞬、こいつの事を見直し俺はやってほしいことを要求する。


「それで魔術ってさ。何か決め台詞言って魔法がびゅん! って飛んでドン! みたいなかんじじゃん。それいける?」


「まあ、落ち着けって」


 するとゴードンは余裕の笑みを見せながら杖を立ててその場に座り込んだ。


 止まる時。


 さっきより静かになった場。


 「ウギギ」だったり「ウゴウ」といったゴブリン達の声が薄っすらと聞こえる。


 しばらく経っても何も起こらない。


「おい、かなり落ち着いたぞ?」


「まあまあ、魔法って言うのは瞑想が大事なんだ」


 するとコルトはどこかわかった風に「何事も基礎が大事だって言うしな?」


「コルトはよくわかっているな?」


 基礎が大事なのはわかるんだけどさ……


「それで……魔法はいつ撃てるようになるんだ?」

 

「……この魔術書」


「ハウツー本な?」


「によると……瞑想によって魔力を高めてなんやかんやして台詞を言ったら出るらしい」


「……」


「……」


「……」


「えっと……そのなんやかんやが大事なんじゃないのか?」


「おかしいな……魔法を感じない」


「おかしいな……じゃないだろ?! というか魔法なんて感じたこともないだろ! つまり魔術師なのに魔術一個も使えないって事か?!」


「だってだって!! なんか難しいこと書いてあるんだよ? 瞑想したら出せるって言う所まではわかったのに何も出ないんだ!」


 瞬間、「グギギアアア!!」とゴブリンの鳴き声か聞こえた途端俺達の方へとガサガサと向かってくる影が見えた。


「やべえ! 見つかった」


「ブラックが大声を出すから!」


 このやろう……


 そんなことを考えているときらりと光るものが見えた。


 ナイフだ。


 ゴブリンは武器を手にして俺達を殺そうとしている。


「くそぉ。言い合ってる場合じゃない逃げるぞ!」


 俺達は急いでメルニアの森から必死の思いで逃げた。


 ちくしょう二人とも逃げ足は俺より速い。


 ゴブリン達が追うのをやめたとわかったところで息を切らしながら俺はゴードンを問いただした。


「お前……はぁ、はぁ、さっき撃てるって……はぁ、言ったよな? はぁ、はぁ」


「はぁ、はぁ……言った!! 言ったさ!」


「誇らしげに言うなよぉ。なんで撃てないのに嘘をついたんだよ」


「ごめんって……嘘をつく気はなかったんだ」


「じゃあなんで?」


「今ならいけると思ったんだよ!」


 いけると思う要素どこにあったんだよぉ。


「まあまあ、二人とも魔法は後でなんとかすればいいだろ?」


「ああ、そうだけどさ。はぁ……今は駆け出しだからな。仕方ないか……俺も何もできなかったし、すまないな」


「僕も撃てると思っててごめん」


「よし! ここは俺に任せておけ!!」


 するとコルトは俺達の前に立ち背を見せにこやかに笑った。


 そんな神々しい姿を見て俺とゴードンは「おぉ」と感嘆の声を漏らす。


 コルトが頼もしい。


 あのコルトの背中がこんなにも頼もしいと思える日が来るとは思いもよらなかった。


 するとコルトはキメ顔をする。


 それはさながら歴戦の猛者のよう。


「俺があいつらの注意を引きつける」


「うんうん。それで?!」


「ブラックはその間にゴブリンの首に剣を刺すんだ。弱点は俺達人間と同じだと思う」


「おお! コルトさんぱねえっす……」


「なんだかいつものコルトじゃない」

 

「ふふ、よせよ。これが終わったらみんなで祝杯と行こうぜ?」


「おう!!」


「なんか冒険者らしい!」


 俺達は態勢を立て直していざ再び森の中へと足を踏み入れるのだった。

 

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