冒険者になる
はぐれ者、やさぐれ者達が集う混沌集団。
それが冒険者だ。
『やれやれ今日も仕事だ』なんて言ってるお役所仕事とはわけが違う。
そんなことを言ってる暇なんて俺達にはないのだから。
明日、食う飯さえ危うい生活。
そして今日、俺は飯屋のウェイターを卒業して冒険者へなりに行った。
向かう先は俺達に仕事を斡旋してくれるギルド。
そこは全世界に点在していて、どうやら異世界からやってきた勇者が作ったという知識しかない。
しごくどうでもいい。
とりあえず俺は今日、明日生きられればそれでいい。
握りしめた拳を見て決心を新たにしギルドの重い扉を開いた。
俺は今日のために貯めに貯め込んだバイト代をつぎ込んだ。
新しい皮鎧、新しいナイフに直剣、その他必要な道具達エトセトラ。
長かった俺の底辺生活もきっと終わると信じて投資を惜しまなかった。
古めかしい建物の中へと入れば、がやがやと賑わう屋内はどこも目新しい。
とうとう俺も冒険者だ。
心が躍る。
この高揚感とわくわく感とは裏腹に、いつものルーティンだと言わんばかりの冒険者達が通り過ぎていく。
朝日が差し込むには足りずランプの仄かな明かりがゆらゆらと周囲を照らした。
依頼表に張り出された掲示板をじっくりと見る哀れな冒険者達も照らしている。
そこで俺は頼りがいがありそうでなさそうな背の高い男の肩を軽くたたいた。
「よ! コルト早いな?」
「おう、ブラック待ってたぜ?」
軽く拳を合わせて挨拶。
コルトの重くなりすぎない程度の鎧と背負っている大剣がこすれ合う。
なかなか本腰を入れているようだ。
妙に場慣れしてる感があるのは、きっと貫禄のある顔のせいだろう。
こいつも俺と同じく今日、冒険者登録をする友達だ。
きっと俺達パーティの前線を張ってくれる頼もしい存在となるだろう。
「何かおいしい依頼はありそうか?」
おもむろにできる冒険者風の台詞を行ってみる。
「いんや? どこをどうみても何見たらいいかさっぱりだ」
「そうか……どれどれ? うん。まったくわからねえ」
俺は、この話をして思うことがあった。
冒険者の資質を問われてしまうようなものなのではないのだろうかと。
しかし、俺達は冒険者ですらないのにもかかわらず依頼表に目を向けてしまうほどに心は高鳴っていた。
そんな中で俺達がずっとこの場にとどまっている理由。
それはもう一人、ここへ来る約束をした友達がいるからだ。
「ゴードンの奴はまだか?」とコルト。
「まだだな。元から朝が弱かったからな? 楽しみだって言ったのにね?」
「ああ、そうだったな。しかし、あいつ漁師の息子なのに、これからの冒険者生活で朝弱いって大丈夫か?」
「さあ? 船酔いがひどいから転職したいってぼやいてたから誘った」
「なるほど……もう、あいつの親父の代で漁師家系は終わりだな?」
「まあな?」
にしし……と俺達は笑う。
けれど、冒険者生活が楽じゃないと言うのは知っている。
魔物との命のやり取り、低賃金なのに受けることができるかわからない低ランククエスト。
最初は泥をすするような努力が必要だろう。
しかし……しかしだ。
これを続け、いずれ頂点へと君臨する時。
きっと!!
俺は……女にモテる!!
この我欲のために俺はウェイターから冒険者になったと言っても過言ではない。
「しかしな。お前の気合の入りようと言ったらすごいな?」
「ん? そうか?」
「だって、そうだろ? なんだよ、その大剣? 自分の背丈と同じくらいの大きさじゃないか?」
すると間を持たせてコルトは、にやつく。
「ああ……高かったんだぜ?」
「いくらぐらいだ?」
「占めて10万ルクスだ」
「じゅ?! 10万ルクス?! 俺の宿代1か月分じゃねえか?!」
「奮発しちまった」
「で?! で?! どうして、そんないかついの選んだんだ?」
「ああ、これはな?」
するとコルトはそのまま語ってくれた。
俺から冒険者にならないかと誘われて「やってみるかぁああ!」
「うっしゃああ!! やったるぞおぉおお!!」と一緒に叫んだ日の翌朝。
早速、鍛冶屋へと足を運んだのだそうだ。
この俺でさえ一週間後くらいに装備品を用意したと言うのになんという熱の入りようだ。
こいつのこういう一度決めたら曲げないまっすぐなところは好きだ。
まあ、今の農家をやめて冒険者に逃げてる辺りは目をつぶるとしよう。
しかし、農家での腕は伊達じゃないのは確かだ。
巷では最速の稲刈り鬼と呼ばれているほどに稲を刈るのだけは本当に上手なのだから。
一人で1面仕上げるのに1日が常識の稲刈り界隈。
しかし、こいつにかかれば半日で2面は終わらせる。
まてよ……その道で食ってった方がいいんじゃないか?
ただ、それ以外はポンコツだという噂を聞いたのは意識しないでおこう。
それでだ。
コルトが言うにはこの装備を選んだきっかけがこうだ。
そこはボロくも老舗と名高い武器商店。
「おっちゃん。これから冒険者になろうと思うんだけど何がいいか?」
意気揚々に聞いたコルト。
気さくに返すおっちゃんの顔が目に浮かぶ。
なぜなら俺もその武器商店を利用したらかだ。
「おう、新人かい?」
「今度、冒険者になろうと思ってね? いい奴頼むよ!」
「ああ、それなら……」
おもむろに店主が取り出すはショートソードだったそうだ。
しかし、後ろよりピンク色の声達が大剣を見て言うのだそうだ。
「こんなおっきな剣を振り回せる男性って素敵だよね?」
「うんうん、私魔術師だから後ろからいつも見てるんだけど、その逞しい腕にいつも惚れちゃいそうになるもん」
「だよねぇ?」
コルトに打ち付ける雷の衝動。
俺も、あんな大剣を振り回し戦場を駆ける戦士になれたなら……なんて考えたそうだ。
そこからためらいはなかったそうだ。
今ある、ほぼ全てのお金を散財し昇華させる時が来たのだと心に。
こうして装備を整えた後の心もとない全財産をぶっぱし10万ルクスはする大剣を買ったのだった。
そして、いざ大剣を受け取る。
「軽いな?」
その言葉を決めてから店を後にした……と。
これが……コルトの大剣士へと歩みを進めたきっかけだった。
俺はそれを聞いた時……
開いた口がふさがらなかった。
なぜならこの場で、この状況で……大剣を抜き放ち。
誇らし気に見せるその手は────
プルプルと震えていたからだ。
すると、プルプルしながら言うのだ。
『軽いな?』と……
ちくしょう、こいつ。
期待させやがって。
後ろ姿と面はもう立派な冒険者なのに見栄と我欲しかねえ。
これ見よがしに見せた大剣。
それよりもプルプル震える腕の方が目についてしょうがねえ。
どの口で『軽いな?』だ。
空気があまり読めないと言われる俺でもわかる。
コルトがどや顔を決めた瞬間、周囲が失笑しているのがわかった。
恥ずかしくて離れたい。
でも俺はそうしない。
なぜならこいつはダチだからだ。
そうだ。
昔から、こいつはそう言う所があった。
俺が「今月、金がねえんだよなぁ」なんてぼやいた時だ。
いつも金がねえのはデフォルトの生活困窮者。
しかし、コルトは優しい。
「え? 彼女のために貯め込んでたんじゃないの?」
「いやな? ……その女の誕プレにチャネルってブランドのかばん買ったんだよ」
「ああ、それでか」
「でもな?! それで金がないのはいいんだよ」
「え、どういうこと?」
「いや、その後、振られたんだよ」
「うわ……」
「まあ、ひでえ女だってわかった教育料っての? でも14万ルクスはでかいって……」
その時、あいつはそっと俺の肩に手を置いて一緒に悲しんでくれた。
それから……あいつはわざわざ役場まで行って金を下ろしたんだ。
「少ないけど……足しにしてくれ」
俺のハートど真ん中を貫く、その言葉。
どんなプロポーズの言葉よりも刺さるだろう。
だが、だめだ。
友情をちょん切る真似だけはしたくねえ。
「は? お前の金だろ。受け取れないよ」
手が出そうになる手を引っ込めながら俺は言う。
なぜなら今月の家賃すらままならなかったからだ……
するとコルト様は、こうおっしゃられた。
「いや、いいよ。俺みたいなやつと一緒に付き合ってくれるのお前だけだからな?」
俺は涙した。
女がいなくても俺にはコルトがいると……
そして俺は、その金を涙ながらに受け取り。
「絶対……絶対に返すからな!」
「待ってる! がんばれよ!」
満面の笑みに応援の言葉。
この時、俺はどんなに救われただろうか。
俺にとって、その出来事はコルトの事がより一層、好きになった瞬間だった。
まぁ、その金まだ返してないんだけどな。
こいつは見栄を張ることがある。
自分だってお金がないくせに余裕ぶる。
そして自分が損をする。
捨てがたい馬鹿だ。
すると、この騒動を見つけてか後ろから聞きなれた声。
「よお! ブラック、コルト! 早かったな?」
ゴードンの声だ。
俺とコルトは振り向いて身じろぐ。
いつものコルトと違い服装や成りは周囲に溶け込んでいて俺の無駄な初心者装備感ある身なりやコルトの身の丈に合わない装備を身にまとう初心者感とは一線を画していた。
しかし俺と、ゴードンは別の意味で一戦を画しているように見えた。
なぜなら……ゴードンは漁師の息子でありながら船に弱く朝にも弱い。
その上……頭も弱い。
俺達ですら出来が悪いのを自覚する程に頭は弱いがそれ以上に弱い。
なのに……それなのにだ。
身に着けている装いがローブ。
頭には魔術師のそれなのか、つばの広い変な帽子をかぶっている。
ドスっと構えた杖と抱える魔導書はまるでいくつもの戦場を超えた魔術師のよう。
しかし……俺達は疑問に思う。
漁師の息子がどうあがいても、この10日ちょっとで魔術など使えるようになるものなのだろうかと。
お読みいただきありがとうございます!
数話で終わる短編の予定です。
もし続きを読みたい方がいらしたら続きを書きます。




