第229話 最後のパーティ申請
このゲームが終わると知った時。
皆で時間を合わせて、最後の最後まで見届けようという話になった。
若い二人は特に問題無く、俺に関しては結構自由の利く職場。
一番忙しそうだったクウリに関してもギリギリの所まで粘って、当日から暫くの間、有給を勝ち取ったらしい。
とはいえ。
「確かに残念ではあるけどさぁ……なんか、ずっと四人で集まって駄弁ってると、本当にお別れみたいで嫌だなぁ」
ダイラのその一言に、“確かに”と思ってしまった。
トトンは少々微妙な反応を示していたものの、クウリに関しても。
「あぁ~まぁそれもそうか。俺等はもう直接連絡先を交換したけど、他の奴等に関してはマジでお別れになる訳だもんなぁ。挨拶回りでもしてくるか?」
「世話になったプレイヤーは、結構居るからな。それも良いかもしれない。時間を決めて、サービス終了間際に皆で集まる形にするか?」
提案を受け入れ、サービス終了当日はそれぞれ別行動を取る事になった俺達。
「俺はあんまり仲良くしてた他のプレイヤーとかいないんだけどなぁ~」
「んな事言ってやるなよトトン。PVPした後、お前だって結構フレンド登録してたじゃんよ」
「ん~まぁ、そうだけど。んじゃ、ちょっとだけ顔見せて来る。皆集合時間ちゃんと守ってよね!?」
渋々だったトトンも、それだけ言って元気よく街中を走り出す。
俺とダイラに関しては、クウリ達と組むまでは他のプレイヤーとつるんでいたからな。
流石に全員と言葉を交わす事は叶わないだろうが、近くに居ると分かるフレンドには声を掛けて回ろう。
という事で、俺もまた街中を歩き始めたのだが……とにかく、人が多かった。
多分、俺達と同じ様な行動を取っているプレイヤーが多いのだろう。
ゲームが終わるその瞬間まで仲間と共に過ごそうとしている者、バタバタと忙しそうに走り回っている者。
更には祭りか何かかと思う程に、そこら中でプレイヤー同士が盛り上がっている。
阿鼻叫喚しているプレイヤーもいれば、涙声で別れを惜しんでいるプレイヤーも。
これを見ただけでも分かる。
皆、このゲームが大好きだったのだろう。
俺だって、今やその内の一人だ。
最初は“見栄えの良い剣術”を探すつもりで、フラッと始めた程度のネットゲーム。
しかし本格的な戦闘システムに、目を見張る程の剣術の数々。
これだけでも凄かったが……やはり、あのパーティに所属してからの思い出が強い。
他の事を目的として、たかが遊びとタカをくくって始めたプレイヤーに、本気の“遊び”を教えてくれたパーティだったから。
なんだか妙に懐かしくなってしまい、思わず口元を緩めながら近くに滞在しているフレンドの元を巡っていく。
誰も彼も、元気にやっていたらしく。
皆が皆、ゲームの終わり残念そうにしながらも……満足そうな表情を浮かべていた。
「久しぶりだな。元気にしていたか?」
そんな中、最終日だというのに酒場に集結しているクランに声を掛けてみれば。
「お、おぉ!? “大豆豆”じゃねぇか! ひっさしぶりだなぁ……そっちこそどうよ? 今やどこのランキング見ても名前が載る、ランカーパーティの“焔の剣”。このゲームはやりつくしたかぁ?」
「ハハッ、その名で呼んでくれるな。しかしそうだな、やり切ったかと言われると……どう、なんだろうな」
ちょっとだけ反応に困りながらも、仲間達に囲まれているフレンドとしばらく話し込んだ。
とはいえ、こんな時なのだ。
あまり俺にばかり時間を取らせては申し訳ない。
という事で、ある程度で酒場を後にした所で。
「ん?」
ピコンッと、システム通知音が響いた。
このタイミングだと、もしかして遠方に居るフレンドから挨拶だろうか?
俺も同じ事をしようとしていたから、特に何も考えずメッセージを開いてみると。
「……パーティ申請? このタイミングで?」
しかも、送り主の名前が。
「まったく、アイツは……最後の瞬間までパーティを組んでおこうという事か? 粋な計らいと言うべきか、恥ずかしい奴めと言ってやるべきか」
送信主、クウリ。
だからこそ、いつも通り苦笑いを零しつつ付属メッセージを確認すれば。
これは……どう言う事だ?
『わりぃイズ、ちと助けてくんね? どうしても、お前が必要でさ。すんげぇ迷惑掛けるかもだし、余計な事に巻き込みやがってって言われるかもしれんけど。すまん、頼む』
こんな時まで、何をやっているんだアイツは。
もしかして、挨拶周り中にPVPでも吹っ掛けられたのだろうか?
だとすると相当マヌケだが……まぁ、何でも良いか。
「俺がお前からの頼みを断ると思うか? 馬鹿者め。余計な事を言わず、申請だけ送れば良いと言ってやらないとな」
ククッと笑ってから、迷いなくパーティ参加のボタンをタップした。
少し待っていろ、リーダー。
すぐに行ってやるから。
※※※
「ほへぇ……なんか内部分裂多発してるねぇ」
「まぁ、俺等はとにかく仲間増やして大規模クラン謳ってるだけだったからなぁ。最後まで固定メンバーでやれたお前等が、正直羨ましいよ」
昔しばらくの間お世話になったクランへと顔を出してみると、随分と人数が減っていた。
というか、俺が知っている顔の方が少ないくらい。
実際俺も、戦闘補助ならいくら居ても良いだろ~って感じで誘われたし。
新人歓迎! けどあんまり全体の繋がりはありません! みたいな集まりだったのは記憶している。
前にココのクランに居た時は、あっちでもこっちでもってパーティを移っていたし。
色んな人と組んでも、固定と言える仲間達に出会えなかったのも確か。
まぁ、俺のコミュ力が問題なんだけどね。
「しっかし、もうランキング見る度にお前のふざけた名前を見る事もなくなるのかぁ……ある意味風物詩っていうか、ズラァっと並んでるランカーの中に、“大淫乱お姉さま”なんて書いてあるのを見て、思いっきり笑ったもんだけどなぁ」
「あ、あはは……キャラネーム変更機能があったら、変えたかったんだけどねぇ」
「それこそ、“たった一人のプレイヤー”ってのになる為には、そういう条件も必須だったんじゃねぇか? 現実でも、名前なんて簡単には変えらんねぇし」
「だねぇ……」
思わず溜息を零してしまう。
そうだよねぇ、自分じゃ変えられない事ばっかりだよねぇ。
現実は余計に、変えらんない事ばっかりだ。
いつか言おうって思ってた秘密だって打ち明けられないまま、こうしてゲームが終わっちゃう所まで来ちゃったし。
なんともまぁ、“たった一人”になるって難しいねぇ。
仮想世界でも見栄を張って、上手くやろうと気を張って、こんな風に距離を取っちゃう訳だし。
これが現実となれば、距離の詰め方なんてもっと難しい。
だからこそ、何度目か分からないため息を零していると。
「ん? なんかメッセージ来た」
「だははっ、サービス最終日だからな。お別れメッセージでも届いたんじゃねぇか? 感極まって泣くなよぉ? スケベな格好の性女様」
「うっさいなぁ……」
ぶつくさ言いながらもソレを開いてみると、そこには。
『すまんダイラ、助けてくれ。普段から迷惑掛けるだろうし、怒られる事ばっかりかもしれんけど。それでも、我儘言わせてくれ。お前が必要だ』
クウリからのメッセージを見て、思わずフフッと笑みが零れた。
何この文章、改まって。
そんなの、わざわざ言葉にしなくても分かってるって。
だって、あのパーティの皆は。
ちゃんと俺を、“仲間の一人”として見てくれていたのだから。
だからこそ、すぐさまパーティ参加のボタンをタップしてから立ち上がり。
「もう行くね、大変お世話になりました」
「ん? あぁ、おう。随分とあっさりだな?」
「まぁね。ウチの寂しがり屋のリーダーから、呼び出し掛かっちゃった」
「ダハハッ、そりゃ大変だ。“魔王”様からのお呼び出しじゃ、無視する訳にいかねぇもんなぁ?」
軽く手を振ってから昔の仲間と別れを済ませ、街中を一直線に走りだす。
もぉぉ、こんな時に。
最後の瞬間、それこそゲームが終わるその時に皆と居たら。
俺、泣くかもしんないじゃん。
そんな情けない所を見せるのが嫌で、別行動を提案したというのに。
「呼ばれちゃったら、行くしかないよね!」
何だかんだ言っても、必要とされるのが嬉しくて。
こんな俺を頼ってくれる仲間達が待っているんだと思うと、思わず顔が綻んだ。
待っててね、すぐ行くから。
だから、ちゃんと言おう。
このゲームが終わってしまっても、やっぱり皆と一緒にまた遊びたいって。
この先もずっとずっと、それこそリアルでだって。
パーティ揃って、四人揃って笑いたいって。
あの場所は、あのパーティは。
これまで俺が経験して来たどんなモノよりも、暖かい場所だったのだから。




