第2話 なんで俺、妹になってんだ!?
鏡に映る自分を見るたび、俺は未だに頭を抱えたくなる。
繊細な金髪に、くりっくりした大きな瞳。桃色の小ぶりな唇に、華奢な肩。
どこからどう見ても、可憐で愛らしい伯爵家の14歳美少女――ミーナだ。
だが、中身はだらしないアラサー男である。
「クソッ……なんで俺が妹になってんだよ!!」
現実世界で離婚届を出された直後、ショックのあまりふらふらして事故に遭った俺は、気づけば異世界で転生していた。
しかも最悪なことに、愛する元妻(※現・お姉様)も同じ家に転生していたのだ。
最初は歓喜した。
異世界で、今度こそ男らしくなってやり直してやる、と。
だが神様の手違いか、俺に与えられた身体は『元妻の妹』という、男としてアプローチするのが絶対に不可能なポジションだったのだ。
アイツと仲良くなりたいと願ったはずなのに、なぜなんだ!
「冗談じゃねえぞ! アイツが『今度こそ勝ち組のイケメンと結婚する!』とか息巻いてお茶会に行くのを、許せるわけねえだろ!」
男の姿で口説けないなら、せめて妨害するしかない。
そう決意した俺は、お茶会に参加しているアイツのティーカップの下に、こっそり脅迫状(置き手紙)を忍ばせておいた。
『次の恋なんてさせてたまるか』と。
ふはは、どうだ! 恐怖で婚活どころじゃなくなっただろ!
……と、裏でドヤ顔を決めていたのだが。
「……ねえ、ミーナ」
手紙を読んだ元妻が、会場にいるイケメン騎士アルフレッドを睨みつけながら、ひそひそ声で囁いてきた。
「あの騎士様の立ち姿、見て。片足に体重をかけて、ここにいる女性を値踏みするような目つき。なんだか横柄だわ。デリカシーのなさそうなあの態度……」
「は、はあ……」
「間違いないわ。あの騎士様が、姿を変えた私の元旦那よ!」
「…………は???」
思わず素の低い声が出そうになった。
「あっ……、やだ私ったらっ。ミーナは何も知らないのに……。ごめんなさい! 今のは忘れて!」
元妻は慌てて訂正する。
いや、俺じゃねえよ!!
俺は靴下は脱ぎ散らかしたけど、人前で横柄な態度なんてとってねえよ! っていうか、目の前にいる妹が元旦那だって微塵も疑ってねえなコイツ。
斜め上の勘違いをして、騎士を敵意むき出しの目で見つめる元妻。
……まあいい。正体がバレて「キモい!」と絶縁されるよりはマシだ。
このままコイツの勘違いを利用して、あのイケメンとの仲をぶち壊してやればいい。
「お姉様、あの騎士様は少し乱暴な方かもしれませんわ。またこちらに来る前に、一度控室で休まれてはどうですか?」
「……そうね。あんな元旦那の生まれ変わりみたいな男とはもう話したくないわ。少し席を外すわね」
プリプリと怒って席を立つ元妻。よし、作戦成功だ!
俺はニヤリとすると、一人突っ立っている騎士のもとへ可憐に歩み寄った。
「アルフレッド様。妹のミーナです。姉は席を外しております。もしお時間ありましたら、姉が戻るまで、私とお話しませんか? おいしい紅茶をご用意しますわ」
可憐な妹の笑みを浮かべ、丁寧におじぎをする。
元妻の悪いところをそれとなくアピールして、コイツが金輪際近寄らないようにしてやる。
「なんて……、なんて可愛らしい気配りなんだ」
だが騎士がなぜか少し顔を赤らめ、俺の華奢な両手をぎゅっと握りしめてきた。
「えっ……? あ、ハイ……?」
「美しいだけでなく、相手の立場に立った細やかな配慮……! 姉君も気品あるお方だが、君のような聡明で温かい女性と同席できる幸運に、私は今、深く感動している……」
「は……? い、いや、俺はただ……」
「ミーナ殿。よければ、次の週末、私と出かけないか?」
「……へっ?」
……待て待て待て。なんで手を握られて、熱い視線送られてんだ?
求婚並みの熱量で迫ってくる騎士と、それを見ている取り巻きたちの「おおっ」というどよめき。
俺が仕掛けようとした妨害工作が、予期せぬ方向へと着火した瞬間だった。




