第1話 バツ1、異世界で二度目の婚活をはじめます
「まあ、なんて美しいお庭なんでしょう」
扇子で口元を隠しながら微笑んだ。
「きっと、とても優秀な庭師がいらっしゃるのね。うらやましいですわ」
まあ、本当は1ミリもうらやましいなんて思っていないけどね。
庭の手入れが行き届いている=実家の経済力アピールなのよ。本当に庭師がしてるのかどうかも怪しいってもんよ。
こういった家こそ、嫁いだ後に『名もなき家事』を押し付けられる可能性があるわ。
異世界に転生しても、私の心の中には前世の修羅場がしっかりと刻まれていた。
前世の私は、どこにでもいる普通の主婦だった。
脱ぎっぱなしの靴下、休日はソファーと一体化してゲームばかりの夫。
幾度となく「ちょっとは家事を手伝ってよ」と訴えても、「俺の方が稼いでるし」「言われたらやるよ(※言ってもやらない)」の生返事。
そりゃ、パートの私の稼ぎなんてたかがしれてるけど、そんな態度とられたらたまったもんじゃないわ。
耐えかねた私は離婚届を叩きつけ、晴れて自由の身となった。その帰り道。
事故に遭い、気づけばこの異世界で貴族の娘として生まれ変わっていたのだ。
鏡を見てそれはもう大絶叫した。
薄桃色のドレスを完璧に着こなした、誰もが振り返る伯爵家の令嬢(18歳)になっていたのだ。
「ああっ。神様ありがとう! これで前世のダメ男とは縁が切れた! 今度こそ、顔が良くて、優しくて、何より『生活力』のある男と結婚してやる!」
そうして気合十分で臨んだ本日のお茶会。
この国でも有数の高貴な血筋を引くイケメン貴族たちが集まっていた。
「やあ、初めましてレディ。僕の庭園へようこそ」
最初に声をかけてきたのは、第一王子のレオナルド様だった。
金髪碧眼、キラキラとしたオーラを纏う正真正銘の王子様。女子の夢を詰め込んだようなビジュアルである。
「お招きいただき光栄です。レオナルド殿下」
「なんて可愛い人なんだ。……君さえよければ、僕の妃になってほしい」
おおっ! さっそく求婚された!
だけど私のこと何にも知らないくせに、見た目だけでよくプロポーズできるわね。
「君は何もしなくていいんだよ。朝起きてから眠るまで、すべて使用人が世話をする。君はただ、僕の隣で笑ってくれればいいんだ。それが僕の幸せさ」
王子様は甘い声でそう囁き、私の手を取った。
世の乙女なら「きゃあ!」と卒倒する場面だろう。だが、バツ1の私はゾワゾワっと全身鳥肌がたってしまった。
出たっ!
『何もしなくていい』=『お前に家庭の決定権は与えない』でしょ!?
全部の指示を義母や側近に出されて、私はただの置物になる未来が見える。
この人、絶対家事しないわね。
前世のアイツも、家にいても一切しなかったんだから。
私はそっと手を引き、完璧な微笑みを浮かべた。
「まあ、素敵なお心遣い……。ちなみに殿下、将来もし子供が夜泣きをした際、夜中に自ら起きて何時間もあやす覚悟はおありですか?」
「えっ……? いや、それは乳母や侍女の仕事では……?」
「おほほ。さようでございますか。……それでは失礼いたします」
はい落選。
次!
続いて声をかけてきたのは、若くして騎士団長を務める脳筋イケメン、アルフレッド様。
「俺は朝一番の鍛錬を欠かしたことがない。誰よりも強くあるために。俺のとなりにいれば、いかなる脅威からも、君を守ると約束しよう」
出たっ。ストイックアピール。
朝一番で鍛錬ってことは、つまり早朝からドロドロの汗くさい洗濯物が大量に出るってこと!
絶対に自分で洗わないでしょう!? 放置して『洗っておいて』って言うタイプでしょ!?
脱いだ靴下を丸めたまま放置した前世の夫を思い出すわ。
「アルフレッド様、脱いだ服は裏返しのまま洗濯に出しますか? それともきちんともとに戻しますか?」
「そんなことは気にしたことがない。これからも、気にすることはないだろう」
落選。
自分で服も裏返せない男はNG。
ハァ……と溜め息をつく。
どいつもこいつも顔と身分は満点なのに、生活力がマイナス一万点だ。結婚したら私が胃に穴を空けることになる。
もちろん、ここは異世界だし、身分の高い家の家事は使用人がするのが当たり前なのもわかっている。
だけど、それを当たり前だと思っているその態度がイヤなのよ! 感謝の気持ちを持てない人なんて、お断りだわ!
疲れ果てて一息つこうと、自分のテーブルに向かった時のことだった。
私のティーカップの下に、一枚の小さな紙切れが挟まっているのに気づいた。
「あら、手紙……?」
そこに書かれた文字を見た瞬間、私の全身の血が凍りついた。
『次の恋なんてさせてたまるか』
殴り書かれた雑な丸文字。この独特な癖字は……。
嘘でしょ……。この汚い字、元旦那の字じゃないの!?
脳内に激震が走る。
まさか、アイツも異世界に転生しているの!? しかも『させてたまるか』って何!? 邪魔する気!?
私はガタッと立ち上がり、会場にいるイケメンたちを見回した。
この中のどこかに……姿を変えた前世のアイツが混ざっている……!?
疑心暗鬼に囚われる私の横で、小さく「はぁ……」と深いため息をつく人物がいた。
「お姉様、お顔が怖いですわ」
呆れ顔で私に新しい紅茶を差し出してきたのは、我が伯爵家の可憐な妹、ミーナ(14歳)だった。




