表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/10

消えた放課後のチャイム

やっと暑さが抜け、短すぎる秋の匂いを感じ始めた。

今度の土日は、私たちの学校の文化祭だ。


私のクラスの出し物は「演劇」。

今日は本番前、最後の予行演習だった。


みんな本番と同じ気持ちで舞台に立つ。

放課後の教室には簡易的な舞台が組まれ、クラスメイト全員が真剣な面持ちで準備していた。


「ふぅ……」


私は、わずかな緊張と疲れからため息を吐いた。


私の役は、王子とダンスを踊る役。

はっきり言ってしまえば、“ヒロイン”だ。


何で私が?

そう思わないでもないけれど、くじ引きで決まったのだから仕方がない。


私が緊張している理由は、役がヒロインだからではなかった。


役自体は素人舞台なので、それほど難しくない。


問題は――ダンス。


王子役が彼じゃなかったら、ここまで緊張はしなかっただろう。


彼のダンスは、お世辞抜きに上手かった。

見惚れてしまうほどに。


私は彼の足を引っ張らないよう、必死に練習した。


彼とは同じクラスだけど、あまり話したことはなかった。

けれど一緒に練習するうちに、彼の人となりが分かってきた。


彼は本当に優しかった。

ダンスなんて出来ない私に、根気強く教えてくれたり、励ましてくれたり。


そりゃあ、女子から人気が出るわけだ……。


そして、ようやく私のダンスも形になり、最後の予行演習が始まる。


私は、彼との時間が終わりかけていることに、少し寂しさを感じていた。

けれど、その気持ちに負けないくらい、彼のダンスに皆が度肝を抜かれるのが楽しみだった。


きっと、みんな彼のダンスの“魔法”にかかってしまう。


帰宅時間が迫っていた。

準備に少し手間取り、帰宅のチャイムが鳴るまでに終わるかどうか、ギリギリの時間だった。


時間を過ぎてしまえば、クラス全員が怒られてしまう。


それでも私たちは舞台を始め、皆、本番さながらに真剣に役を演じる。

私も負けないように役に集中する。


そして、いよいよクライマックスのダンスシーン。


ダンスのためのスペースが空けられ、音楽が教室に鳴り響く。


――ダンスが始まった。


ドレス姿の私と、王子姿の彼。

二人きりのダンス。


クラスメイトから、感嘆の声が漏れる。


皆、彼のダンスに見惚れていた。


(ほら、皆、魔法にかかった)


その時だった。


キンコンカンコン。


ダンスが中盤に差しかかった頃、

時間切れを告げるチャイムが鳴った。


(あーあ、間に合わなかったか)


私がダンスをやめようと足を止めた瞬間、

彼が私の手を引き、そのまま踊り続ける。


(え?)


驚いて彼を見ると、彼は薄く微笑み、クラスメイトたちへと目線を送った。


つられて私もクラスメイトを見る。


――誰も、チャイムに気がついていない。


皆が、彼のダンスの魔法にかかっていた。


私たちは、その期待に応えるように、最後まで踊り切った。


(ふぅ……やっぱり彼は凄いな)


そう思いながら、最後の挨拶をしようとスカートの裾を摘もうとした、その時。


彼が、おもむろに私の前に跪いた。


(え? こんなの、台本にない……)


慌てる私の手を、彼はそっと持ち上げる。

そして、手の甲に優しく唇を重ねる“フリ”をした。


「……っ!」


クラスメイトは呆然としている。

まだ、彼の魔法にかかったままだ。


脚本を書いた男の子だけが、顔を真っ赤にして立ち上がっていた。


彼は何事もなかったかのように、皆に挨拶をする。


ガラッ。


「こらぁ! お前ら、いつまでやってるんだ!」


担任が怒鳴り込んできた。


クラスメイトは、ようやく我に返り、慌てて片付けを始める。


私は頭の中が真っ白で、その後のことをあまり覚えていない。


ただ――

あの時の、彼の照れくさそうな微笑みだけは、はっきりと覚えていた。


彼は私にだけかかる、

とっておきの魔法をかけたのだと、分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ