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ガラスの靴を拾ったのは男子トイレだった

男子トイレにガラスの靴が落ちていた。


その噂は瞬く間に学校中へ広がる。


――シンデレラは誰だ?


誰もが固唾をのんで見守る中、ガラスの靴の持ち主は意外にもあっさりと見つかった。


二年A組の、ごく普通の女の子。


……つまり、私だ。


校内中の女子が面白半分にガラスの靴を履こうとした。


けれど、誰一人として履くことはできなかった。


そして、ついに私の前へガラスの靴が運ばれてくる。


恐る恐る足を乗せると――


するり。


何の抵抗もなく靴は私の足に収まった。


その瞬間、私は”シンデレラ”になってしまった。


それからが、本当に大変だった。


今度は、


――誰が王子だ?


と、学校中の男子が大騒ぎになった。


「我こそは!」


そう名乗りを上げる男子が何人も現れ、いつの間にか学校公認(?)のイベントになってしまった。


王子役の男子が、シンデレラである私にガラスの靴を履かせる。


履けるかどうかは、私次第。


正直、私はどこにでもいる普通の女子高生だ。


特別美人でもなければ、勉強ができるわけでもない。


本当に普通。


だから、どうして男子たちがこんなにも私の王子になりたがるのか、まるで分からなかった。


きっとガラスの靴の魔法なんだろう。


そして、運命の日。


校内でも人気のイケメン。


サッカー部のエース。


学年一位の秀才。


そうそうたる男子たちが、私の前に並んでいた。


周りは完全にお祭り騒ぎだ。


「○○くんが王子様よ!」


「○○くんなら絶対幸せにしてくれるって!」


好き勝手なことを言って盛り上がっている。


……こんなの、公開処刑と同じじゃない。


どうして学校中に見守られながら、恋人になる瞬間を見せなきゃいけないの?


私は恥ずかしくて、ずっと俯いていた。


寒空の下、靴も履かずに座らされたまま。


最初の男の子が私の前に膝をつく。


優しく私の足を取り、ガラスの靴を履かせようとする。


……入らない。


周囲がざわめいた。


「なんでだよ!」


誰かの声が響く。


目の前の男の子も、


「どうして?」


そう言いたげな目で私を見つめていた。


ごめんなさい。


だって私は、あなたのことをほとんど知らない。


恋人になんて、なれるわけがない。


心の中ではそう思っていても、私は何も言えず俯くことしかできなかった。


次の男の子。


また次の男の子。


結果は、みんな同じだった。


それはそうだ。


私は、誰とも恋人になりたいと思っていないのだから。


最後の一人まで終わると、周りから大きなため息が漏れた。


みんな残念そうな顔をしている。


本当に、ごめんなさい。


私は、この理不尽な状況にも、期待を裏切ってしまったような空気にも耐えきれず、泣きそうになっていた。


その時だった。


「お疲れ様。……寒かったろ?」


一人の男の子が、私に声を掛けてきた。


「これ、ストーブで温めておいたから」


そう言って、彼は私の前に一足の上履きを置いた。


私はそっと足を入れる。


「……暖かい」


足元から伝わる温もりが、そのまま身体中へ広がっていくようだった。


彼は照れくさそうに微笑むと、そのまま歩き去っていく。


その背中を見つめながら、私はようやく気がついた。


そうか。


シンデレラは、こうやって王子様と出会ったんだ。


ガラスの靴じゃない。


私にとって本当に大切だったのは――


いつも履いている、この暖かい上履きだった。

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