表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/10

最後のひと口

屋上のドアを開けると、北風が冬の匂いと共に僕を包み込む。


「寒っ!」


巻いてきたマフラーに顔を埋める。


「彼女は今日も来るだろうか……」


こんな寒さの中、わざわざ屋上でお昼ご飯を食べる変わり者はいない。

明日には雪が降るっていうし……。


だから、今日が最後のチャンス。


僕は今日、彼女に告白すると決めていた。



ギィィ——。


屋上のドアを開けると、外に出るのをためらわせる風の音と冷気が、私の髪を揺らした。


「寒い……」


思わず身体がブルッと震える。


「……彼はもう来てるかな?」


こんな真冬の屋上でお昼ご飯を食べる人なんて、教室に居場所のない人くらいだ。

私と、彼のように……。


空を見上げると、今にも雪が降りそうな曇り空。


「今日しかない……」


私は今日、彼に告白すると決めていた。



「こ、こんにちは……」


彼女が遠慮がちに挨拶してきた。


「こ、こんにちは……」


ドギマギしながら返す。

来てくれたことが嬉しい半面、これからのことを考えて少し硬くなる。


上手くいけばいい……。

でも、断られたら?


強張る顔をなんとか抑え、平静を装う。


「寒いね……」


「うん」


言葉が上手く出てこない。

もともと僕たちは会話が多い方じゃない。部活でもそうだ。


だから今日も——いつも通り、のはずなのに。


彼女が隣に腰を下ろし、弁当を取り出す。

いつも通り、可愛らしい弁当箱。


彼女が食べ終わったら告白しよう。


僕は緊張と一緒に覚悟を決めた。



彼はお弁当箱を抱えて、いつもの場所に座っていた。


ドクン——。

心臓が跳ね上がる。


「こ、こんにちは……」


なんとか振り絞って声を出す。


「こ、こんにちは……」


今日の彼は、いつもより顔が強張っていた。

寒いせい……だけじゃない気がする。


「寒いね……」


勇気を出して声を掛ける。


「うん」


彼は寒そうにしながらも、ニコリと笑ってくれた。


同じ部活で、静かな空間で本を読むのが好きな私たち。

会話は多くないけど、ふとした感想を言い合う時間が心地よくて——私はいつの間にか、その時間を楽しみにするようになっていた。


そんな私がお昼を食べる場所を探して偶然屋上に来た日。

さらにひと気のない場所を探して歩いた先で、彼がひとりでお弁当を食べていた。


それから毎日、2人でお昼を食べるようになった。


……それが今日、終わるかもしれない。


暗い気持ちを振り切るように決意する。

お弁当を食べ終える前に告白しよう。



2人で静かに食べ始める。


彼女はゆっくりと食事をしている。

その時間が今日は、やけに長く感じる。


……早く楽になりたい。


そう思っていたからだろう。

気づけば、僕はとっくに食べ終わっていた。


彼女はといえば、緊張しているのか「最後のひと口」だけ残して箸が止まっている。


もちろんその間、会話はゼロ。

……情けなさに頭を抱えたくなる。


そして、そのひと口が終われば……。



彼は黙々と食べている。

会話は今日はほとんどない。


私は緊張で言葉を忘れてしまっていた。


彼も私のただならぬ雰囲気に気づいているのか、静かに食事を続けていた。

気づけば彼は既に食べ終わっていた。


心拍数がさらに跳ね上がる。

食べ終える前に告白しなきゃ……でも、怖い。


私は心を守るために、「最後のひと口」がどうしても進まなかった。


頭では分かっているのに、この寒空の中待たせるのが申し訳なくて……でも、箸は動かない。



バサッ——。


僕と彼女の間に、何かが降ってきた。


見ると、一羽のカラスが何かを咥えて立っていた。


「あ……」


彼女が息を呑む。


弁当箱を見ると、彼女が残していた“最後のひと口”がなくなっていた。


バサッ。


呆然とする僕たちをよそに、カラスは彼女のひと口を咥えたまま飛び去っていく。


……これ、食べ終わったってことになるよな?


顔に一気に血が昇る。



私は泣きそうだった。


勇気が出ないまま、彼を待たせてしまっていたから……。


そんな時、私と彼の間に何かが飛んで来た。


ガサッ。


カラス?


お弁当箱を見ると、あれほど躊躇っていた“最後のひと口”がなくなっていた。


カラスは私を見て、ふてぶてしい顔つきをしたまま飛び去っていく。


これは……私、まだ食事中ってことにならない?


そう思った瞬間、胸の中で何かが弾けた。



「「あの!」」


2人の声が重なった瞬間——


雪が、ひとひら落ちてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ