抹茶コーラ
人影も見当たらない午前2時。
街灯もまばらなこの通りで、ひときわ存在感を放つものがある。
──それが、この自動販売機だ。
最近の俺は、毎晩この時間帯にここに立つようになった。
理由は一つ。
「抹茶コーラ」
……誰が買うんだ、こんな物。
最初は興味本位だった。
お金を入れようとした、そのとき。
背後に“気配”を感じてビクッとなる。
振り向くと、パーカーのフードを目深にかぶった小柄な少女が立っていた。
少女は、ただじっと、無言で立っている。
「自販機待ち……なのか?」
気まずくなって、俺は急いで抹茶コーラを買った。
ガコン。
「あ……」
少女から、小さな声が漏れた。
見ると、抹茶コーラのランプには“売切”の文字。
少女は名残惜しそうにうつむくと、トボトボと去っていった。
プシュッ。
ゴクリ。
「……うまっ!」
気づけば俺は、抹茶コーラの虜になっていた。
※
翌日も、深夜2時に自販機の前へ向かった。
「なんでそんな時間に来るのかって?
──昼間は、この自販機動かないんだ。不思議だろ?」
そんなわけで、その夜も抹茶コーラを求めて自販機へ。
ガコン。
「ん?」
先客がいた。
あのパーカーの少女だった。
少女は飲み物を美味しそうに飲み、俺に気づくとニヤリと笑って去っていく。
「?」
見ると、また抹茶コーラのランプは“売切”。
「くそっ、やられた!」
※
その翌日。
「ふぅ、間に合った……」
俺は走って自販機に到着した。
あの子には悪いが、今日は先に着いた。悪く思わないでくれ!
ガコン。
無事に抹茶コーラをゲット。
すると──
背後に、絶望した顔の少女が立っていた。
けれどその後、少女は驚く。
「……え。売切、じゃない……」
抹茶コーラのランプには、まだ光がついていなかった。
少女は小さな声で、
「やった……」
と喜び、抹茶コーラを買った。
ピッ。ガコン。
ランプが“売切”に変わった。
こうして俺たちは、毎晩深夜2時に自販機へ通い、顔を合わせるようになった。
──限定2本の抹茶コーラ。
まるで、俺たちのためにだけ置かれているようだった。
※
ある夜。
俺はいつものように自販機の前に立つ。
「……なんで?」
抹茶コーラが、すでに売切になっていた。
「あの子が……2本?」
周りを見渡すが、少女の姿はない。
「くそ……!
2人で1本ずつっていう“暗黙のルール”があっただろ……!
いや、言ってないけどさ……!」
悪態をつきつつ、もう一度自販機を見る。
「あれ……?」
取り出し口に、何かが入っていた。
手を伸ばす。
「手紙……?」
封を開けると、近くの公園の地図、そして一文。
『抹茶コーラはここで販売しています。
料金は、あなたの名前です。』
──その瞬間何かが始まる予感がした。




