Episode.6 - 懇願
「——夢を、食べるの」
「......夢を?」
今更その告白に驚くことはなかったが、それでも意味が分かるわけでもなく、そんな風にオウム返しをしてしまう。
「そう、君たちが白ご飯を食べて、お肉を食べて、お野菜を食べるように、私は夢を食べて栄養を得るの」
なんとまあメルヘンチックな話だこと。
しかし、それを紡ぐ曙さんの表情は真剣そのもので、当たり前だが冗談を言っているようには思えない。『夢の中に入り込める』ことを信じた以上、これも信じるしかないのだろうが......何故だろうか、先ほどよりもその吸収度は低い。
だが、少し考えたら、その理由はすぐに分かった。『夢に入り込める』のは実際に俺が見て聞いたことだからであって、要するに、具体的なことが何一つ分からないからだろう。
「なんかイメージ湧かないなあ、どういう風に食べるの?」
「.........夢を食べるっていうのは信じてくれるんだ」
「え? ああ、まあ、まだ完全に信じてる訳じゃないけど、夢に入れるなら、それくらいできてもおかしくないんじゃないかなあって」
すると、曙さんは小さく笑った。
「そっか、ありがと」
目を伏せて、少し低いトーンの声で続ける。
「生まれてこの方、私の体質は親以外の誰にも理解されなかったから、ちょっと怖くて。......疑ったりしてごめんね」
ああ、だからさっきあんな顔を。
そりゃあ、自分がマイノリティだと分かっていながら、それを告白するのは怖かろう。
曙さんが謝ることじゃない、などと言葉を返すも、それ以上どのように話を展開して良いか分からず、もはや俺たち以外の生徒がいなくなった教室には静寂が漂う。
それを嫌がったのか、曙さんは動いた。
「——え、ええと、それで、どういう風に食べるのか、だったね?」
「あ、うん、そうそう。どうにも想像が付かなくて」
「まあ、そうだよね。えーとね......どちらかと言えば飲み物に近いかな? 思いっきり吸い込んだら夢が私の頭に入ってくるから、それをもぐもぐと咀嚼して、ごっくん」
いや『ごっくん』、と言われても......
「頭に入ってきた情報を、口で咀嚼するの?」
「あー、それは昔っからの癖でねえ......お母さんたちがご飯食べてるところを真似してたのが今でも続いてるって感じで、摂取自体は頭だけでやるよ。それでも、歯ごたえ? みたいなのは感じるけどね」
ふうん、なるほど......というか、ご両親は普通にご飯食べるんだ。まあ、その辺は追々聞くとして。なんだか聞いてる感じは俺たちの『食事』とあまり変わりない気がする。
「じゃあ、味とかもあるの?」
そう問うと、彼女は表情をぱあっと明るくさせた。
「さっすが蔓見くん、察しが良いね!」
冗談半分で聞いてみたのだが、まさか本当にあるとは思わなかった。曙さんはノリノリで言葉を続ける。
「楽しい——というか面白い夢はしょっぱかったり、良い雰囲気の夢はスイーツのように甘かったり、悪夢は大人のビターな味だったり」
「ほんとに普通の食べ物みたいだ」
「そうそう、特に私はにがーい悪夢が大好物で——」
楽しそうに語る曙さんの方から、突然、ぐう、と先ほどよりも大きな腹の音が鳴った。
「ご、ごめん。美味しい夢のことを考えたらつい......」
そう言いながら、やはり恥ずかしそうに俯く。そういえば、いつもお昼ご飯はどうしているのだろうか。次はそれを聞こうと口を開いた時、曙さんはそれを意図せず遮るように続けた。
「ねえ、蔓見くん。ちょっといいかな」
「改まってどうしたの?」
「えっと、その......」
彼女らしくないもじもじとした態度に違和感を覚える。本当に、今から何を言われるのだろうか。そう思ったのも束の間、曙さんはその小さな手のひらを重ね合わせると、口元まで持って行き、告げる。
「一生のお願い! ......蔓見くんの夢、食べさせてもらえないかなあ?」




