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Episode.4 - 現実の中の少女

「——ッ!?」


 ゆっくりと夢の中を揺蕩っていたところを、急にハエ叩きではたき落とされたような、そんな感覚が俺を襲った。ドクドクと脈打つ心臓の音と、急に覚醒したせいで頭が微妙に痛むのを感じながら、数回瞬きをする。


 俺を現実に呼び起こすに至ったそれは、大声というレベルではない。それはまさに、俺の耳元で叫んだかのような——


「あ、やっと気づいた。おはよ、蔓見くん」


 ——そんな感じ。そう考えながら左右を見ると、自席の右側にしゃがみ込んでこちらを見つめるとある女子生徒と目が合った。明るく赤みがかった焦げ茶色の髪に、大きな瞳。間違いない。夢で見たあの子と一致していた。ええと、名前は確か......


「......曙望実さん、でしたっけ」

「大正解っ! よく覚えてたね。それじゃあ、これで信じてくれる?」


 彼女はすくっと立ち上がり、相変わらずの陽気な声で告げた。

 まだ頭が起きていないのか、彼女の言っていることがいまいち分からない。しかし、意識して数秒間考え込むと、先ほどまで見ていた夢の詳細が頭に浮かんできた。

 そういえばこの子、俺の夢の中に入ってきた、とか言っていたな。


「確かに、言っていたことは本当になったけど......」


 夢の中に突然現れては妙なことを言い、そのまま消えていった曙さん。そして、宣言通り目を覚ますと眼前に彼女の姿がある。何でもありな夢の中だといっても、さすがにこれで彼女の言うことを否定するというのも無理がある気がした。


 しかしそうなってくると、今度は様々な疑問点が湧いてくるもので。

 どういう原理で夢の中に入っているのか、なぜそんなことをするのか、なぜわざわざ俺の夢へと入ってきたのか。ああ、考え始めたらきりがない。


「あ、あはは。ごめん、これだけじゃあ説明が足りないか」


 何から質問しようかと悩んでいると、俺の様子を見てか、曙さんは苦笑いを浮かべた。


「でも、今は答えてる時間もないだろうし、また放課後にってことで」


 そう言うと、彼女は身を翻し俺の席を去ろうとする。時間がない? まあ、そりゃあ今は数学の時間......ん? いや、それだと曙さんが立ち歩いているのもおかしくないか?

 俺は、ちょっと待ってと彼女を呼び止めた。


「ごめん、これ今何の時間?」

「え、ショートホームルーム前の休み時間だけど」


 それだけを言うと、小さく手を振りながら「じゃね」と残して今度こそ彼女の自席へと戻っていく。

 その背中を見送ると、辺りを見渡した。確かに、見える範囲では数学の教科書を机の上に出している生徒は一人たりともいない。むしろ、リュックなどに教材を詰め、帰り支度をしている生徒が多く見られた。


 ......え、ということは、俺、数学の時間の半分以上寝てしまっていたということ?

 今日はガイダンスだけとはいえ、さすがにそれだけの時間居眠りをしてしまっては、次の授業でどのような小言を言われるか想像に難くなかった。背中を伝う数滴の冷や汗を感じながら、俺も周りに倣って帰り支度を始めるのであった。


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