Episode.37 - 希望と諦観
それに対して、穂月くんは「うん」と低いトーンで頷くだけだった。......いや、あるいは、それはただ俯いただけなのかもしれない。
再び身体を前に向けた彼は、少しだけ迷うような足取りを見せるものの、すぐにその背中は小さくなっていき、やがて、呟いても声が聞こえないところまで離れていってしまった。
私は、横断歩道の真ん中でぺたりと腰を下ろし、三角座りをした膝に顔を埋める。
「.........はあ」
可能性としては十分にあり得ると考えていたが、実際にその現実を突きつけられると少しキツい。
目を瞑ると、先ほどの穂月くんの顔がありありと思い浮かんでくる。
あの硬い表情は、彼の『もう少し待ってくれないかな』という言葉までをも硬化させてしまっていた。
彼とて嘘をついたつもりではなかったのだろう。そりゃあ、これだけ急に決断を迫られては、言葉を詰まらせてしまうのも無理ない。......だが、きっと彼の中の天秤は、無意識のうちに既に傾いてしまっている。
その原因は、何となく分かっていた。
これに関しては、私の見立てが甘かったと言う他ない。穂月くんが現実についてのことを思い出してくれたら、現実に居たときの彼のままの判断をしてくれるだろうと思っていた。だが、今思えば当たり前の話だが、彼の記憶は上書きされるわけではない。当然、ここで過ごした双葉ちゃんとの記憶だって残っている。
そうなれば、彼がどう判断するかなんて簡単なことだった。
私がもっと現実についてうまくアピールできたら——なんて思ってみたりもするが、あの人に勝るアピールポイントなんて、誇張抜きで存在するのだろうか? ......まあ、それにしても、もう少し押した方が良かったとは思っているけれど。
再び大きく息を吐き、ふらりと立ち上がる。
......なぜだろうか。作戦が失敗したにもかかわらず、不思議と最悪な気分というわけでもない。自分の心の内をさらけ出せたからか......あるいは、心に空いた穴の大きさを、まだ理解し切れていないだけなのかもしれない。
とにかく、こんなところでくよくよしていても無駄なことだ。
良かれ悪かれ、私がここでできることはもう全てやった。まだ私にできることは......強いて言えば、彼を信じて待ち続けることだけ。
それは本当に薄い望みだが、もし彼が双葉ちゃんを『もう一人の自分』だとちゃんと認識すれば、まだ可能性はあるかもしれない。
振られたくせに未練がましいと感じるけれど、私は今から、彼の行く末を最期までここで見届けるのだ。それくらいの希望がないと、精神が持たないというもので。
ふっと諦観にも似た息を漏らし、私は時が止まったままの交差点を後にしたのであった。




