Episode.34 - 微睡みの中の覚醒
上半身全体に車体が強打し、鈍い音が聞こえる。撥ねられながら後ろを振り向くなんて器用なことはできなかったが、彼は今どんな顔しているのだろうか。できれば、絶望に満ちたような顔がいい。......って、それじゃあ私が性悪みたいになるな。でも、実際それくらい感じてくれないと、身体を張った意味がない。
まあ、とはいっても、痛みなんてものは一切感じないのだけれど。
病は気からと言うように、もう少し精神的な部分から痛みを感じるかと思っていたのだが......全くそんなことはない。喩えるならバンジージャンプのようなものだろうか。
だが、平然とした様子で立ち上がったところで違和感しか残らないので、横っ腹を押さえ、呻き声を上げながらよろよろと立ち上がる。......それにしても、もう車にぶつかってから十数秒と経つのに、彼からは何のリアクションも聞こえてこない。
果たしてどんな状況になっているのか、怖さ半分興味半分で、おもむろに回れ右をする。
「...............」
穂月くんのこちらを見る目はどこか虚ろで、何も言葉を発せず、ただ息を荒くしている。
その姿は、あの時と重なるものがあって。
でも、こちらを向いているはずの目線は、おそらく私ではない何かを見ている。
まあ、それも当然かもしれない。自分で言うのは何とも哀しいが、この世界の穂月くんは、私が轢かれたくらいではそもそもここまでの表情は浮かべてくれないだろう。
それが何を示すかというのは、至極単純なことで。
「曙、さん.........」
苦しそうな目線は、やがて私に向けられる。しかしそれは、私を心配するような目線ではなく、どちらかと言えば、お前が恨めしいとでも言いたげな瞳だった。
「こんばんは、穂月くん」
もう『転校生の曙望実』を演じ続ける必要は無いだろうと、現実と同じような口調で、昼日中に夜の挨拶を投げかける。
「......思い出してくれた?」




