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Episode.28 - 溜息

 決して彼らのせいではないけれど、正直、この場の居心地はあまりよろしくない。......まあ、そりゃそうか。見知らぬ男女の間に入り込むだなんて、向こうがどれだけ優しくても気まずくなるに決まっている。それも、意図的にしていることとなればなおのこと。

 早足で自席へと向かう。そこが本当に私の席なのか知らないが、どうせ穂月くんにとっては意識外のことだろうし別に良いだろう。


 ぼうっと虚空を眺めて授業が始まるのを待った。彼らの会話は連想ゲームかのように止めどなく続き、その時間は永遠にも感じられた。でもって、授業が始まるとその時間はまるで倍速の動画のように駆け抜けていく。まあ、学生なんてそんなものなのかもしれない。私の場合は......ちょっと違ったけれど。


 そんなこんなで、現代文、数学、生物基礎、日本史Aと、あっという間に授業時間が過ぎていった。案の定内容はめちゃくちゃだったが、果たしてそれはここが夢であるせいか、彼に学習内容が身についていないのか。身の上話を聞いた限り後者のような気もする。

 ......そんなくだらないことを考えていると、机の天板に突然横から影が伸びてきた。振り向く間もなく、その影の主から声がかかる。


「望実ちゃん、お昼一緒にどうかな」


 予想通りというべきか、それは双葉ちゃんのものだった。淡い赤色の弁当包みを片手に、柔らかな表情をこちらに向けてくれている。さらに奥の方を見てみると、穂月くんがこちらを見て軽く手を振っていた。


「ありがとう、でも......」

「?」

「......いや、ごめんなんでもない」


 一瞬断ろうかとも考えたが、昼休みともなれば彼らの会話は大いに盛り上がることだろう。そんなものを傍観者として延々と聞かされるなんて、まっぴらごめんだ。

 双葉ちゃんは私が立ち上がったのを確認すると、踵を返して穂月くんの下へと向かい始めた。......が、当の私は重大なことに気がつく。


「あ、でもちょっと待って」

「うん、どうしたの?」


 彼女は再びこちらを向く。


「いや、その......今日、お弁当忘れちゃって」


 危ない危ない。いつもの癖で、手ぶらで彼らの下へと向かうところだった。少なくとも今は普通の人間だというのに。

 それに、きっとこの先も私の特性について話したりはしないだろう。この世界において、そうするメリットなど高が知れている。だから、あまり迂闊な行動はしないようにしなくては。


「そっかあ......まあ、転校初日ってバタバタするもんね。じゃあ、学食にする?」


 念じながらカバンを漁ればパンくらいは出てくるかもしれないと考えたが、それでは言動に矛盾が生じてしまうので、素直に双葉ちゃんの言うことに従っておこう。

 ......というか、穂月くんはほぼ毎日パンを登校中に買ってきていたと思うが、食堂は正しく描写されているのだろうか。まあ、かくいう私も一度も行ったことはないのだけれど。

 そんなよく分からない心配を胸に、私たちは体育館近くにある学食に出向いたのだった。

 相変わらず溢れかえるNPCの波をかき分け、五分程度で学食に到着する。今度は穂月くんと双葉ちゃんが会話相手としていてくれたからマシだが、やはりこの『作り物感』は気持ちが悪い。


 大きな倉庫のような外観の建物に足を踏み入れると、座席数が明らかに少なかったり、無駄に食券機が三台あったり、かなり雑なディティールをしている食堂が広がっていたが、なんとか食事は取れそうだ。


 各々食事を持参している彼らが席を取ってくれるというので、私は一人食券機に向かう。元々料理の名前はあまり詳しくないのだが、そんなことがどうでもよく思えるくらいに、パネルに表示されている商品名が滅茶苦茶だった。

 考えるのも馬鹿らしくなり、どうせ何を食べても同じなのだからと三百円の『けナ身焼き』を注文。出てきたのはただのきつねうどんだったが、もはやツッコむ気も失せ、そそくさと二人の下へと向かう。

 私が着席すると、三人揃って合掌し、早速食事を始めた。


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