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Episode.25 - 回想①

 再び出くわしてもお互いに気まずいだろうと、穂月くんがトイレに行っている間に帰宅することにした。......とは言っても、行き先は私の家ではない。そもそも、私の家なんか、とっくの昔に彼の夢から消失してしまっている。


 さすがは穂月くんの夢だ。ふと辺りを見渡すと、現実と何ら遜色ない景色が広がっている。でもそれは、あくまで彼の認知している範囲でしか働かない。即ち、名前と声と影しか覚えられていない私の家なんてなくなって当然なのだ。


 というわけで、仕方がなく校舎へと入り込み、最近寝泊まりしている保健室を目指す。

 彼が転校してまだ一月しか経っていないが、この高埜宮高校はそれなりにちゃんと映し出されている。......だからこそ、もう少し希望のある返答が貰えるかと思っていたのだが、現実はそこまで甘くなかった。......いや、ここは現実じゃなくて夢なのだけれど。


 そんなモノローグも、くすりとも笑えない。むしろ、小さな溜息がこみ上げてきた。我慢せずに、わざとそれを強めて吐き出す。

 完全に明かりがなくなった校舎は少し気味が悪かったが、思考は心の傷を庇うようにぼうっと霞んでおり、そのおかげでそこまで大きなダメージはなかった。


 保健室に入り込むと、念のため鍵をかけてから、数歩足を進めてシーツの皺すら正されていない窓側のベッドへと飛び乗る。辛うじてベッドがあるだけの、ディティールが雑な保健室を数秒間無心で見続けると、小さく息を吐いておもむろに身体をベッドに預けた。

 頭の後ろに手を組んで、硬い枕に沈める。普段ならこんな行儀の悪い格好はしないけれど、夢の中だし、誰も見てないし、少しくらい良いよね。


「......さて、と」


 少し落ち着いたところで、今後の行動を決定するために、改めて今までの流れを振り返る。

 まずは、穂月くんが倒れてしまった日のこと。......いや、その言い方は少しおかしいかもしれない。正確には、『彼が目を覚まさなくなった日』のこと。

 はじめは、風邪でも引いているのかと思った。そろそろ夏が近づいてくる時期だから違和感はあったけど、別に不思議なことでもないし。そんなこともあって、邪魔しちゃ悪いだろうと思いお昼ご飯も我慢していたんだ。けれど、五限でどうしても眠くなって瞼が落ち、図らずとも他人の夢を覗き見してしまった。その時彼が見ていた夢は、前日の夜、彼が見ていた夢と一致していた。


 推測でしかなかったが、とてつもなく嫌な予感がした。たとえ穂月くんでも、狙って同じ夢を見るというのは不可能に近いだろう。熱にうなされてずっと寝続けているという可能性もあるが、それにしては輪郭がはっきりとしていた。


 そして何より、最近見ていた夢の傾向的に、過剰摂取の恐れがあると睨んだ。

 彼は、少し前に悪夢を見続けていた代償に、『幸せな夢』を多く摂取するようになっていたのだ。明晰夢を見ない人間なら、それだって何の問題もないこと。しかし、こと穂月くんにおいてはその限りではない。夢をちゃんと把握できて、なおかつ不安定な精神状態の彼においては。


 そう考えると、居ても立ってもいられなくなって、五限の途中に仮病を使って早退した。同時に穂月くんの家の住所を教えてもらったので、そのままの足で彼の家まで向かった。

 突然の来訪にも関わらず親御さん——母親の理恵さんは温かく迎えてくれた。だが、その柔らかい口調とは裏腹に、表情はどこか青ざめている。自己紹介がてら、事情聴取を始めた。


 簡単にまとめると、やはり穂月くんは、昨日眠ったきり目を覚ましていないらしい。熱があるわけでもなくうなされているわけでもないが、揺すっても、声を掛けても目を開けることはなく。


 さすがに不審がった彼女は、七一一九に指示を仰いですぐに救急車を呼んだ。そしてそのまま、CTスキャンや血液検査、レントゲンなどを行ってもらったそうだが、その結果に異常はなし。......まあ、ただ寝ているだけだから当たり前のことなのだが、お医者さんや理恵さんはさぞ驚き、不安になったことだろう。


 そして、彼は今なお入院して、様々な検査を受け続けているそう。

 その話を聞いた後、ダメ元で面会を試みたのだが、やはり拒否されてしまった。まあ、別にそれはいい。なんと言ったって、私たちは夢の中で逢うことができるのだから。

 理恵さんに、「必ず穂月くんを連れ戻してきます」と意気込んで彼の夢の中に入り込んできたのだが......結果はこのざまだ。

 あまり思い出したくもないのだが、今後のために今日までの道程も振り返る。

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