Episode.20 - 確認、懸念
放課後。俺はいつものように曙さんと二人きりになったタイミングで切り出した。
「曙さん、聞きたいことがあるんだけど」
「うん? なにかな」
「......曙さんに夢を食べてもらうようになってから、俺の現実感覚がおかしくなってる気がするんだ」
さきほどまで餅のように柔らかかった曙さんの表情が、一瞬にして固まった。
彼女はしばらくの間、何も言わない。手元のスクールバッグの紐を無意識にきつく握り締めているのが見えた。
「これって、何か関係あるのかな」
「.........」
「......曙さん?」
俺が重ねて問うと、彼女はようやく小さく口を開いた。
「分からない。......本当に、分からないの」
声が、明らかに震えていた。
「こんなことは今まで起きたことがなくて。お父さんやお母さんの夢を食べてて、そんな症状が出たことは一度もなかった」
「......でも、可能性はあるんだね」
「......ないとは、言い切れない」
目を逸らし、小さく頷く曙さんの顔は、今にも泣きだしてしまいそうだった。
「ごめん。もしかしたら、って思ったことはあったの。水族館の帰り、穂月くんがデジャヴュみたいなことを言った時。......でも、確証がなかったし」
彼女はそこで一度言葉を切り、唇を噛む。
「穂月くんの夢が、本当に美味しくて。穂月くんが未練を消したいって言ってくれたから。だから——甘えてしまった。大丈夫だって、自分に言い聞かせてた」
その言葉には、俺を騙そうという悪意は微塵も感じられなかった。ただ、不安から目を逸らしてしまった——そんな弱さが、痛いほどに伝わってくる。
怒りは、不思議と湧いてこなかった。だって、目を逸らしていたのは俺も同じだ。異変に気づきながら「ストレスのせいだ」と自分を誤魔化していたのは、他でもない俺自身じゃないか。
ただ、このまま何もしないわけにはいかない。
「......少し、食べるの止めてみよう」
「え」
「それで症状が治まるなら原因が分かるし、治まらないなら別の理由を探さないといけない」
「......うん、わかった」
曙さんは俯いたまま、小さく頷いた。
「ごめんね、穂月くん。私——」
「曙さんが謝ることじゃない。......俺だって、もっと早く気づくべきだった」
それだけを告げると、俺は席を立った。これ以上ここにいたら、彼女の沈んだ顔を見て、つい「やっぱり食べてくれ」と言ってしまいそうだったから。




