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Episode.11 - お誘い

「曙さん。今度の休みに水族館へ行こう!」

「......え、どしたの急に」


 曙さんと利害関係を結んでから早二週間強が過ぎた、四月第四週の金曜日。いつも通り昼飯を食い、食わせた後に駄弁っている途中、俺が突然話をねじ曲げたからか、曙さんは困惑した様子でジトッとした目線をこちらに寄越す。


「いや、この前曙さんが、俺の夢の味がワンパターンだとかなんとか言うから、その解決策」

「確かにそう言ったけど、どうしてそこに繋がったのかがいまいち分からない......」


 幸いにも昼休みはあと十分程度残っているので、順を追って説明することにした。

 時は数日前にまで遡る。




「蔓見くんの夢はね、味がワンパターンなの!」


 その日の放課後、いつものようにスクールバッグを肩に掛けて俺の席までやってきた曙さんは、開口一番にそんなことを言い放った。どういうことかと聞き返すと、彼女は周りにバレることを忌避しているのか、いつもより三割くらい小さな声で続ける。


「美味しいんだよ? すっっごく美味しいんだよ? でも、あんまり夢にレパートリーがないんだよね。この前も言ったけど、栄養が偏りすぎたら体調崩しちゃうんだよ」

「そう言われてもなあ......」


 確かにその話は以前にも聞いたが、だからといって、俺が自分の夢の内容を一から十まで決められるわけではないということは曙さんも分かっているだろうに。


「というか、君に食べられているせいで、最近見た夢の内容すら覚えていないんだけど」


 加えて、そんな状況で俺にどうしろというのか。すると曙さんは「それもそうだね」と苦笑し、少し考え込む。


「そーだねえ、最近食べた夢で言えば.....蔓見くんがコンビニでアルバイトしてる夢とか、選挙演説してる夢とか、よく分からない物体に殺されそうになってる夢とか、ギロチンに掛けられそうになってる夢とか——」

「もういいもういい。......というかなんか悪夢の割合多いな」


 明晰夢を見るようになってから、なぜか悪夢を見ることも多くなったが、それにしても多すぎないだろうか。......いや、彼女にとって印象的だった夢を挙げているだけかもしれないけど。うん、そういうことにしておこう。


「私は、もっとあまーい夢が食べたいのです」

「あまーい夢、ねえ」


 しかし、そう言われてもなあ。

 俺の呆れ顔から『どうしようもないでしょ』という言葉を読み取ったのか、曙さんもつられて苦めの笑いを浮かべながら続ける。


「まあそこまで自由にできないのも分かるけど、君だって他人事じゃないんだよ?」

「というと?」

「蔓見くんも同じような夢ばかり見てると、体調を崩しちゃうよってこと」


 言っている意味がいまいち分からない。どういうことかと問い返すと、曙さんは少し考え込んでから再び口を開く。


「君たちって、体調が悪かったら悪夢とかよく分からない夢とかを見るでしょ?」

「まあそうだね」

「実はその逆みたいな感じで、『悪夢やよく分からない夢』が不足しているから体調が悪くなって、それを補充しようとする、ということもあり得るんだ」

「......俺たちにも『夢による栄養』があるってこと?」

「平たく言うとそういうことだね。私に合わせて言うなら、君たちは無意識のうちに夢を食べている、ということになるのかな?」


 なるほど、そういう捉え方もできるのか。面白い考え方だなあ。......というか、それが本当ならば。


「放っておいたらだめなのかな。『甘い夢』の栄養が足りなくなったら勝手に見てくれるんじゃないの?」

「そうだね、『過剰に摂取』しようとするね」

「あー......そういうことか」


 結局、健康に悪いことに変わりはないということか。

 そう言われ、少し考えてみる。『あまーい夢』。それはつまり、良い雰囲気の夢。俺が見ることの出来る良い雰囲気の夢といえば、やはり双葉に関する夢だろう。


 だが、結局それが出来るのなら苦労していない。そもこの前見たテーマパークの夢だって、決して『良い雰囲気』とは言いづらい.........いやどうだろうか。もう少しだけ何かがずれたならば、あれだって立派な『甘い夢』になったかもしれない。


 それなら、試してみる価値はあるな。

 どうせ、これから色々なことをしてみなければ前に進めないのだ。やれることは手当たり次第にやっていくのが一番効率が良いだろう。

 ......その時は、それ以上話が広がらなかったけれど。




「俺は手がかりが得られて、曙さんも食べたいものを食べられたら一石二鳥だと思って、それから俺は自室で双葉の『名残』を探したんだ。それで見つけたのが......これ」


 くすんだ透明のクリアファイルから、二枚の短冊形の紙を取り出す。曙さんは少し身を乗り出し、目を細めてその内容を確認した。


「......水族館のチケット? というかそこ、割と新しいところだよね」

「そう。何かの景品で招待券をもらって、オープンしたら双葉と行こうって話してたんだけど、結局使わないまま別れてそのまま忘れてたんだ」


 いや、それとも『忘れようとした』と表現するのが正しいだろうか。というのも、このチケットは相川中学の卒業アルバムに挟まれていたままずっと放置されていた。俺自身も、あまり思い出したくなかったのかもしれない。

 ......でも、捨てずに残していたということは、つまりそういうことだろう。


「ということで、一緒に水族館へ行こう」


 そんなこんなで、話が戻ってくる。曙さんは、先ほどのような呆れ顔を浮かべることはなかったが、それでもすっきりとしない表情を浮かべている。


「まあ、経緯は分かったよ。......でもさ、その『未練』を思い出したんだったら、別に行かなくてもいいんじゃないの?」

「実際に経験した方が、夢の中でも想像しやすいんじゃないかと思ったんだけど」

「あー......確かにそうかもね。じゃあ、半分私のためってこと?」

「まあ、見方によってはそうなるね」

「素直に肯定しても良いのに」


 曙さんはおかしそうに笑う。


「よーし、そういうことだったら、私も張り切って付き合っちゃうぞ!」


 相変わらず夢のためならなんでもやる子だなあ。


「......約束の内容的には、美味しい夢のためじゃなくても付き合ってほしいところだけど」

「え? ああ、そっか。じゃあ、加えてちょっとサービスしたげる」

「サービス......?」


 しかし、曙さんはそれに対して答えることはせず、どこか妖しい笑みを浮かべるだけだった。......まあ、『サービス』と言っているくらいだから、さすがにそこまで変なことはしないだろうけど。


「じゃあ、そういうことでよろしくね」


 そんなこんなで、曙さんとともに水族館へと行くことが決定したのであった。

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