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あべこべ世界でも純愛したい  作者: ひらめき
第二章〈トラウマ克服に向けて〉
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第64話:いざ、キャンプへ

side.不木崎ふきざき拓人たくと

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「それじゃ!しゅっぱーつ!」


 椿ちゃんが元気よく拳を突き上げる。

 後部座席の椿ちゃんの隣に座っている城が、額を抑えている姿がミラー越しで見える。何を嫌がっているのだろうか。椿ちゃん元気でいいじゃないか。


「しゅっぱーつ!」


 俺の隣に座ってハンドルを握っている母さんも笑顔でそれに応える。

 こちらも負けず劣らず元気いっぱいだ。

 今日は俺が転生してきた中で一番ご機嫌な様子だ。浮かれているオーラがビンビン伝わってくる。鼻歌も無意識に歌っているくらいだ。

 俺も城に倣って額を抑える。溢れる可愛いに、眩暈が止まらない。


「そう言えば…母さん、運転できたんだね」

「う、運転くらいできます!」


 笑顔から一転して、少し不服そうな様子でこちらに一瞬視線を寄越す。膨らませた頬っぺたをつつきたい衝動を抑える。

 見た目も体型も椿ちゃんとそんなに変わらない美少女が運転している姿は違和感しかない。

 この車はレンタカーのため、借りたときに母さんの小さい体だとブレーキとアクセルに足が届かなくて、店員さんと俺と母さんで何とも言いようのない空気が流れた。結果調整してどうにかなったが。


「キャンプ場ってばあちゃんの家の近くなら、ここから3時間くらいかかるよね?」

「もうちょいかかるけど……多分そのくらいかな?」

「休み休み行こうね」

「ば、馬鹿にしてる!私こう見えて運転得意!」

「そっかそっか」

「まだ馬鹿にしてる!?そんなこと言うならノンストップで行くから!トイレ休憩もしない!」


 そう言って母さんは唇を尖らせる。

 最近はこうして怒りの感情も出してくれるようになった。頬を膨らませた美少女とか目の保養にしかならない。

 俺はお茶のペットボトルを持って軽く振る。


「ま、別にいいよ。その時はこれにするし。あ、もちろん《《ここ》》でね」

「……嘘です。ごめんなさい。ちゃんとサービスエリアに止まります」


 恥ずかしそうに俯く母さん。危ないから前を見て運転してほしい。

 しかし、相変わらず防御力が低い。昔は氷の女王みたいな人だったらしいが、今ではただの美少女である。俺もそうは言ったものの、実際ペットボトルの穴に入りきるとは思えない。下手したら車内は悲惨な末路を迎えるだろう…。


「お、お姉ちゃん……これを毎日してるの……?正気の沙汰じゃないよ……!」

「うん……生き地獄だよね」


 後部座席で城姉妹がひそひそと俺らのやり取りを評価している。

 聞こえてるぞ。


「は、春ちゃんと椿ちゃんはキャンプしたことある?」


 母さんが話題を変えるように二人に声をかける。

 椿ちゃんは母さんのシートに捕まって少し身を乗り出す。待ってました、と言わんばかりの表情は八重歯も相まって小悪魔のようだ。


「私はないけど、お姉ちゃんはありますよ!……ぷぷぷ。まぁ、キャンプというより家出でしたけど」


 椿ちゃんがニヤつきながら答えると、母さんが驚いた顔をする。


「春ちゃん家出したことあるの?」

「いや……まぁ。若気の至りと言いますか…」

「若気の至りって去年の話じゃ……い、いはいいはい!」


 城はバツの悪そうな顔で頭をかきながら、反対の手で椿ちゃんの頬をつねっていた。器用なやつだ。

 にしても、本当にこの姉妹は仲が良いな…。


 すぐに頬を開放された椿ちゃんは、柔らかそうな頬を撫でながら恨めしそうに城を見て続きを話す。


「お姉ちゃん家で本ばっか読んでたから、お母さんから外で遊びなさいって言われて大喧嘩しちゃって、『じゃあ、1週間のうち丸1日外で過ごすから残りの時間は家で過ごす!』って出ていきましたね~」

「うわ……意味わからんけど春ならやりそう」

「ふっきーどういう意味かな?」


 城が張り付けたような笑みを浮かべて首を傾げてる顔がミラーに写る。

 少しだけ背中から蹴られているような衝撃を感じる。


 にしても、城ならその謎理論を本当に言いだしそうだ。

 城のお母さんもまさか本当に出ていって1日野宿するとは思わなかっただろう。


「夜、私とお母さんで探し回って、結局近くの公園の草陰に寝袋にくるまってちょっぴり泣いているお姉ちゃんを発見!そこからお姉ちゃんにはGPSを義務付けられたのでした!ぷぷぷ…あの時の顔……心細かったんだねぇ………いはいいはい!」

「あぁ、だからGPSつけてるのか……」


 再度城が椿ちゃんの頬をつねったところで、母さんが小さく噴き出す。


「理由は違うけど私も家出したことあるの」

「え。母さんも?」

「うん。お祖母ちゃんが私にすごくお見合いを進めてきてね。強い遺伝子を残さなければならないって。私はお見合いとか嫌だったから、家出しちゃったの」

「お見合い……?その相手はとはどうなったの?」

「えっと……」


 母さんと結婚しそうな男がいたとは驚きだ。

 決して嫉妬とかではないが、どんな相手だったか非常に気になる。決して嫉妬とかではないが。


 しかし、母さんは言いにくそうに言葉を濁す。

 あれ……。


「じ、実は母さん既婚者……?」

「ち、違います!……えっと、その相手は…………倒しちゃったの」


 一瞬車内の空気が凍る。

 言葉を上手く呑み込めていない俺らは3人ともアホ面で母さんを見ていた。


 一方母さんは注目されて恥ずかしいのか、耳を真っ赤にさせている。


「霞さん……倒すって何ですか?」


 椿ちゃんが恐る恐る尋ねる。

 俺も全く同じ疑問が思い浮かんだ。


「……えっと、その男性がかなり強いって評判の方でね、私より弱いなら結婚する意味がないって言って勝負を持ちかけて……倒しちゃったの」


 声の音量が尻すぼみになっていく母さんに、またしても車内が困惑の空気に包まれる。

 暁さんの言う通りじゃないか…。考え方がすっごく脳筋だし、実際それでどうにかできる力を持っているところにも驚きである。ばあちゃんが母さんはセンスがあると言っていたのは本当らしい。


「……そういえば!き、今日は晴れでよかったね!」


 母さんが目をぐるぐるさせながら軌道修正を試みる。若干涙目である。


「そ、そうですねー!ちょっと暑いですけどキャンプ地は森らしいから涼しいといいですねー!」

「ほんとそうだね!いやーすごく楽しみ!」


 城が全力で乗っかりフォローを入れる。

 シンパシーを感じているらしい。というより、先ほどの城の痴態を流してくれたお礼ともとれる。


「ふっきー、ふっきー」


 椿ちゃんが手をこまねいて呼んでくる。

 俺が耳を近づけると、椿ちゃんはニヤリと笑いながら、


「霞さん虐めたくなる気持ちすっごくわかる」

「なんだ椿ちゃん。趣味がいいな。俺も城を虐めたくなる気持ちがわかるぞ」

「流石ふっきーだよね。最高の趣味だと思う」

「まぁ、二人ともすぐにお腹丸出しになるから」

「そうそう、そんなことされたら撫でたくなるよね~!」


 二人でぐふぐふ笑っていると、無言の圧力を感じる。

 視線を向けると、母さんも城も横目で俺らを凝視していた。

 二人とも恨めしそうな表情で顔は赤い。


 まぁ、そうだよね。いくら耳打ちしても車内狭いし、内緒話は無理だよね。


「「聞こえてるっ!」」


 二人の非難の声が車内に響いた。


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