第63話:春の女の子耐性獲得訓練②
side.城春
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「ここに、第二回『女の子耐性獲得訓練』の開始を宣言します!」
「またやるの…?」
放課後の図書室。
あのデートから3週間。私と不木崎は特に進展がないまま夏休み直前を迎えていた。不木崎は既に夏服の仕様に変わっていて、何とか言い含めて肌着を来てもらっているが、それでもクラスの女子の視線を総なめにしている。
相変わらず図書室はエアコンが稼働しているのにも関わらず、やはり人気が全くないのか人が一人もいない。
まぁ、私としてはすこぶる好都合なんだけど…。
「ふっきーの為なんだよ!そんなんじゃ社会で生きていけないんだから!」
「いや、まぁ、それはそうなんだが…」
もっともらしいことを言って押し切る。
不木崎が何か言いたそうな顔をしているが、それを言わないのが不木崎の優しさである。というか恥ずかしいから言うな。
「……今日は何するの?」
諦めたように肩を落として、不木崎は開いていたノートを閉じる。
何だかんだ付き合いの良いやつだ。
……もしかして、私の体に触れるのが実は嬉しかったりする?
いかんいかん。密室での過度な興奮は控えないと……。
「ズバリ!手押し相撲!」
「そりゃまたわかりやすいなぁ」
そう!古今東西あらゆる地域で親しまれてきた手押し相撲。
ルールは至って簡単で、手のみしか触れることができず、相手の足を一歩もでも動かせたら勝ち。もちろんルールに反して手以外に触れたら反則負けである。
私はこれを思いついた時、改めて私は本物の天才なんだと実感した。
この手押し相撲、私にデメリットが一つもない。
そもそも手に触れる時点で嬉しいのに、不木崎から触ってくるなんて絶頂ものである。さらに言うなら例えば胸とか事故で触られたりするかもしれない…。
この無駄にでかいおっぱいを最大限有効活用できるのだ。
最後にとっておきの駆け引きももちろん考えてある。
ふふふ……今日はどんな声で鳴いてくれるのかなぁ?
「それじゃ、ふっきー立ち上がって」
「はいはい。で、これ罰ゲームとかあるの?」
「もちろんだよ!罰ゲームは負けたら教えてあげる!ちゃんとこの紙に書いたから不正とかはできないし、安心してね」
そう言って不木崎に紙の切れ端を見せる。中身は見せていない。
不木崎が確認したのを見て、私はスカートの右ポケットにそれを入れた。
「罰ゲームわかんないって怖いな……ま、いいやどうせ負けないと思うし」
「へぇ?ふっきー自分が男の子だってこと、いっつも忘れちゃってるよね?」
「別に忘れちゃいないが」
「今日はそのエッチな脳みそに男の子を思い出させてあげるから……!」
「聞けよ」
私と不木崎はそれぞれ真正面に立つ。
こうして正面に立たれると、不木崎の身長の高さが際立つ。
男の子って基本的に小さい子が多くて、大体私と同じくらいなんだよね。
たまーにこうして大きい男の子がいるが、大抵モデルやら俳優やらにでしか見られない。……ふっきーに関して言えば間違いなくスカウトされるだろうな…。今されていないのが不思議なくらいだ。
私たちは両手を突き出す。
私が不木崎の手のひらの上に重ねてすりすりすると、不木崎はサッと手を引いた。
「あれれぇ?始まってもないのに、男の子出ちゃったねぇ?」
「……クソが……!」
「ムフフフ……いいんだよぉ?無理しないで、男の子なんだからぁ」
「絶対に負かす!」
決意に満ちた顔をして不木崎は手を突き出す。
私がすりすりしても眉をピクッと動かして我慢している様子だ。
本当に不木崎は扱いやすい。ちょっと煽っただけでセクハラし放題なのだ。
トラウマからくる頭痛って言うのはわかってるんだけど、こうして少し嫌がっている男の子を屈服させるのもまた乙だ。
「じゃ、はじめーます!スタート!」
そう言って私と不木崎はどちらとも両手を後ろへ持っていく。
定石通り、相手の出方を伺うのは両者ともに同じらしい。
ただ、私は今回《《デバフ魔法》》を用意してきた。まさに魔法の言葉。
不木崎の精神を大いに狂わすであろう事実を今、たたきつける!
私はわざとらしく胸を腕で挟む。
足が動かなければルール違反ではないので、最大限アピールする。
「ふっきー、あのね、私《《ブラつけてない》》んだ」
「……え」
不木崎の視線が一気に胸にいく。
そう、私はこの時の為に、トイレで下着を脱いできたのだ!
前回は肌着を脱ぐ程度だったが、今回は下着も脱いでいるため私自身とても恥ずかしい!
ただ、こうすることによって、不木崎は積極的に私を攻撃できなくなる。
だって間違って私の胸を触ったりなんかしたら……一大事だもんねぇ?
「ニップレスはつけてるけどね」
「ニップレスって……なんだ?」
「乳首を隠すシールだよ」
「乳首にシールをつけてる……だと!?」
雷が落ちたような表情でのけ反る不木崎。
そのまま倒れそうである。
というか、ニップレスとかは男の子の方がつける人多いって聞くんだけど、やっぱり不木崎はつけてないらしい。本当にスケベな男である。
私は仕掛けるために、両手を胸の前にだして構える。
そのままのけ反ってる不木崎に対して状態を前に倒す。
「ほら、どうしたの?手押し相撲なんだから、押し合いしないと試合にならないよ?」
「……卑劣な!」
「え?卑劣?何が~?熱いから下着脱いだだけじゃーん?あ、ルール的にはNGなんだけど、別に間違って触っても怒らないから安心してねふっきー!」
「……」
少し赤い顔で私の胸を見る不木崎。その角度からだと、おそらく私の谷間を見ているのだろう。抜かりなく首元のリボンもとって、少しシャツをはだけさせている。前傾姿勢にはこういうデバフ効果もあるんだよ…?
「やってやらぁ!」
意を決したように不木崎も上体を起こして、手を私の胸の前にある手を目掛けて突き出してくる。
私は咄嗟に手を横へ回避させる。
「おぉおお!ふんぬ!!!!」
謎の奇声を上げながら、不木崎の手は私の胸の直前で止まる。
あと少しで触れるかどうかの位置だった。
「あ~惜しかったねふっきー。あとちょっとで触れたのにねぇ?」
私の手なのか、それともおっぱいなのかの言及はあえてしない。
恐らく不木崎にはダブルミーニングで伝わってるはずだけど。
「色々イライラするやつだ……!」
不木崎もダブルミーニングでこちらに揺さぶりをかけてきた。
私がちょっとだけ目線を下げると、股間にはわずかに凹凸が確認できる。
……それを毎回無意識にするのは本当にやめて欲しい。
しばらく胸が触れるか触れないかの攻防を楽しんでいたが、不木崎の体力はみるみる消費されていき、少し肩で息をしていた。まぁ、私受けしかしてないし、こうなるよね。
ふっきーがいじけて止める前に、そろそろ最後のしかけを発動しよう。
私は顔を不木崎の体へ近づける。
不木崎は慌てて顔をのけ反らせる。
すぐ近くに、もう少し頑張れば届きそうな不木崎の胸がある。
若干、シャツが汗で肌に張り付いている箇所もあり、なんとも芳醇な香りがする。
ただ、これを楽しむためのしかけではない。
「なかなか試合が終わらないので特別ルールを設けます。手を後ろに回していいのは3秒間だけ。手は前に出して10秒しないと後ろには回せません」
「な、なんだよその特別ルール!?」
「はい!スタート!」
そう言うと不木崎は慌てて手を前に突き出す。
私の手も肩の横にセットしている。
そう、最後のしかけとは――キッスである。
私は今前傾姿勢。不木崎はのけ反っている姿勢である。
私を押すには不木崎も前傾姿勢を取らないと体勢的に辛いだろう。
しかし、私はこの姿勢から1ミリも後ろへ動かすつもりはない。
つまり、不木崎が前のめりになった瞬間、私は不木崎の胸にキッスすることになるのだ。こいつの身長が高いせいで唇は狙えないが、今回はしょうがない。
私の意図を理解したのか、不木崎は非難するような目をこちらに向けてくる。
「どうしたの~ふっきー?」
私はペロッと舌なめずりをしてけん制する。
不木崎は悔しそうに顔を歪め、意を決したように表情を一転させて微笑んだ。
柔らかく、不木崎の手が私の手に絡んでくる。
包み込むように握られた手は強弱をつけて握られ、一瞬にして全身の力が抜けていく。
その様子を見て、不木崎はにやりと笑った。
……マズイ!あの表情は!
「春が勝負を降りてこのまま手を繋いで帰るのと、俺が勝負を受けて罰ゲームを受けるの……どっちがいい?」
その意地悪な表情に一気に腰から力が抜けて、私は不木崎の胸に倒れこんでしまう。
顔面が不木崎の胸に埋もれて、少し呼吸をするだけで昇天しそうになる。
恐る恐る顔を上げると、ニヤケ面の不木崎と目が合う。
「やっぱりこっちがいいんだねぇ?春ちゃん?」
血液が一気に顔に集まる。
不木崎のむせかえるような匂いと相まって、最近がばがばになった涙腺が少し緩む。
「……ムカつく」
「あれぇ?足が動いてるみたいだね。負けてもなお、手を繋いで歩くって言うのに、その態度は頂けないなぁ」
不木崎はそう言って、優しく握ってくれている手を離そうとする。
私は咄嗟に逃がさまいと手をギュッと掴み、不木崎を睨みつけた。
「……手を繋いで帰りたいです」
「しょうがないなぁ」
どや顔で言う不木崎に……心臓が耐えられそうにない。
ちなみに、紙に書かれた罰ゲームは『手を繋いで帰る』だった。




