第60話:バトルランチロワイヤル・
side.不木崎拓人
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「へぇ……城さんはこんなところにタクトくんを連れ込んでいたんだね」
「別に連れ込んでたわけじゃありません!ふっきーがどうしてもって言うから仕方なく付いてきてるだけです!」
「嘘はやめろ。嘘は」
冬凪先輩の実家にお邪魔した翌週のお昼。
改造制服に身を包んだ冬凪先輩と城が校舎裏で言い合いをしていた。
事の発端は冬凪先輩が俺をお昼に誘ったところから始まる。
俺としては別に一緒に食べても良かったのだが、案の定城が難色を示した。それを怪しんだ冬凪先輩が強引に後ろからついてきたのだ。
結果、こうして3人で弁当を広げていることになっている。ちなみに冬凪先輩も手作りらしい。意外と食べるらしく、パンとは別に弁当も用意している。こういうところはちゃんと男の子なんですね…。
「……餌付けもしてるし」
「これはふっきーがどうしてもって言うから仕方なく作ってきてるだけです!」
「2度も嘘を吐くな。2度も……え?嘘だよね?」
ジト目で俺と城の弁当を見ている冬凪先輩。
まぁ、弁当に関しては本当にありがたいのだが。
「タクトくんは嫌じゃ……なさそうだなぁ!すっごくモヤモヤするよ!……もう」
俺が城の作った肉じゃがを頬張っている顔を見て、冬凪先輩は項垂れる。
対して城はでかい胸を張って鼻息を荒くさせていた。
「ぼ、ボクが作ってきてあげよっか?弁当」
「え…マジすか?」
「ピーーーーー!!!!!ちょっとそこ!勝手に弁当の約束しないで!冬凪先輩も目に余る行動を取ったら退場させますからね!」
「……ボク先輩なのに」
どこから取り出したのかホイッスルを鳴らして冬凪先輩へ黄色いカードを提示する。イエローカードらしい。
冬凪先輩はすごく不満そうに自分の弁当を食べだした。
「にしても、まさか冬凪先輩の実家がコスプレ店だと思わなかったですよ。しかも店番までするってすごいですね」
「ま、まあね!普通の男の子はレジ打ちさえできないんだろうけど、ボクは将来性のある男の子だからね!」
チラチラっと俺の方を向いて冬凪先輩が褒めて欲しそうに合図を送ってくる。
いや、今褒めてるじゃん。
「ふっきー!私は全国模試で10位だよ!将来性の塊だよね!」
「すっげーな。しかも全国かよ。俺怖くて結果見てねえや」
「でも勉強だけできても意味ないよね?勉強はできるけど働けない人って結構いるし!」
「むむむぅっ!」
謎に張り合っている。
ここは俺も張り合いたいところだが、流石に冬凪先輩に精役で年収2000万は硬いっすとか言えない。俺のちんこデカいっすからね!とか……先輩はあのサイズ感だからなおのこと申し訳が立たない。しかし、そう考えたら今この場で最も将来性のある人とは俺になる。
このくらいしか異世界チートがないことが情けなくて仕方ない…!
「冬凪先輩は実家を継ぐんですか?」
「うーん…まだあんまり深く考えてないんだよね。考えたくないってのもあるんだけど…。ボクって精役の務めをあまり果たせないから、結婚か実家の手伝いかくらいしか生きていける道ないし…」
「うわ……リアル。男の子って何気にハードモードですよね」
「本当だよ……」
落ち込む俺たちを見て、城は不憫に思ったのか冬凪先輩の弁当に卵焼きを1個の乗せる。
「……頑張ってくださいね」
「あ、えっと……ありがとね。城さん」
どうやらちょっと仲良くなったみたいである。
冬凪先輩も城相手には露骨に嫌な対応はしなくなった。何なら男友達よりも気さくに優しい表情を出せている気がする。
「そ、そういえば、タクトくん。ボクとライン交換してくれない?」
「先輩、卵焼き返してください!」
「別にいいですけど……って春。何で俺の卵焼きとった」
快諾すると同時に俺の弁当箱から卵焼きが消える。
またも嫉妬しているらしいが、冬凪先輩は男だぞ…?どこをどう嫉妬できる要素があるんだ…?
そう思ってスマホを取り出して恥ずかしそうにQRコードを見せてくる冬凪先輩を観察する。うむ。完全100%女の子だ。これはしょうがないね。
「あ、先輩そういえば生徒会長と何かあったんですか?」
ライン交換を終えて談笑していると、城が思い出したように言う。
冬凪先輩は食べていたものが気管に入ってしまったのか盛大にむせた。
あー、あの美人で胸のデカいエッチな子か…。
「な、何かって……何でそう思ったの?」
「だって、生徒会長最近ずっと休んでるって噂聞くから、一番つるんでた先輩なら知ってるかもーって思って」
生徒会長ってずっと休んでるの…?病気とか?
一度しか見たことがないため彼女のことはよくわからない。
「う、うん……それも多分ボクが原因なんだけど。その……彼女はちょっと、というか大分苦手で……謝りたいんだけど、怖くて謝れないんだ」
「怖い…?」
確かに美人は怒らせると怖いらしいが。
「ボクが今まで見てきた女の子の中で一番女の子らしいというか……」
「例えば?」
「ボクがお願いしたことやったら、代わりに脇を舐めて欲しいとか…裸足で顔を踏んで欲しいとか…だからボクもかなりキツめにあたってたから、それを謝りたいんだ」
「うわぁ……」
脇かぁ……思った以上に強烈である。
流石この世界の女子。興奮する箇所がニッチである。
対して城は驚愕の表情をしていた。
「脇……ダメなの?」
この世界の脇に対する許容範囲は緩めらしい。
別にダメじゃないんだろうけど、付き合ってもない異性に脇舐めを提案してくるのがすごいと思う。
「ね、ねぇふっきー!脇ダメなの?」
「えぇい!止めろ!すがるな!あと、ノーコメント!」
「え……脇……私かなり綺麗にしてるんだけど……ダメなの?」
どうやら城も脇は舐めて欲しいらしい。
この驚愕のしようだと、やはりこの世界では通常性癖に当たるのか。
「冬凪先輩は生徒会長のこと好きなんですか?」
「な、なんでそうなるの!?好きなわけないじゃん!すっごく気持ち悪いって思ってたし」
「脇……すっごく気持ち悪い……嘘……」
城は一人別世界へ旅立ってしまった。
まぁ、確かにこの質問はおかしいのだろう。
一応可能性として聞いたのだが、こうなっては生徒会長が報われる可能性はなさそうだ。生徒会長の行動がどうも城のように本当に恋をしてしまった女子のような行動だったため聞いたのだが…。
まぁ、しかし話聞いてる感じガッツリ性的な目でも見ているし判断が難しい。
「でも仲直りはしたいんですよね?」
「うーん、仲直りって言うか…酷いことを言ってごめんなさいって謝りたいのが強いかな…?」
「なるほど……確かにその場合は生徒会長に会いに行くのが怖いって気持ちもわかります」
「でしょ……?まぁでもこれはボクが撒いた種だしね。頑張って償うよ」
先輩のこういうところはすごく変わったと思う。
今までなら、女の子に頭を下げるなんて考えすら出てこなかっただろう。それが城に謝罪をし、果てには気持ち悪いと思っていた生徒会長にまで謝ろうとしている。
この世界の男の子からしたらあり得ないことだ。
――それこそ、もしも先輩から謝られたら、自分のことが好きなんじゃないかと生徒会長が勘違いするほどに。
「念のため、危険を感じたら俺を呼んでくださいよ?ちょっと嫌な予感もするんで」
「た、タクトくんに迷惑はかけられないよ!……で、でももしそうなったら、た、助けてもらっちゃおうかな…えへへ」
「ピーーーーー!!!!!はい!先輩、イエローカードが2枚溜まったんで退場です!」
いつの間に復活したのかホイッスルを鳴らす城。
そんな城に冬凪先輩は無視を決め込んでいた。




