第59話:椿ちゃんは不機嫌・
side.城春
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「つーん」
妹が私の前でふくれっ面をするのもかれこれ10回は超えてきた。
金曜日に不木崎の家に泊まり、今日は夕方くらいまで不木崎とデートをした。その間、妹は一人で過ごしていたんだけど……。
「まだ機嫌直ってないの?」
「機嫌って何ー?」
不機嫌そうな顔で妹はそっぽを向く。
私が移動する度に目の前まで来てふくれっ面をするものだから、いい加減疲れてきた。
まぁ、妹をおざなりにしたのは私だから我慢するしかないんだけど…。
「だからごめんって。ふっきーのお母さんに腕をコアラみたいに掴まれて断るに断れなかったし……」
事実である。
正直、振りほどこうと思えば振りほどけたが、あんな可愛いの権化を邪険にはできなかった。家に持って帰りたいと思ったくらい可愛かった。
「じゃあ私もコアラになろっかな!お姉ちゃんは妹よりもコアラが好きみたいだし!」
不貞腐れた様子で妹が腕に抱き着いてくる。
私が学校の行事以外で、一人で外泊することなんて今までなかったので妹も戸惑っているのだろう。
頭を撫でてもまだ膨らませた頬を解除する様子はない。
結構重症だな……これ。
「ふっきーの家で何したの?」
「べ、別に……何も……?」
「むむむぅ!」
私の返答がお気に召さなかったのか、抱き着く力を強めてくる。
ちょっとだけ痛い。
「じゃあ今日持って帰ってきたあのドスケベバニーの衣装はどういうことなの?」
「ま、また勝手に見た!」
「教えてくれないならお母さんに言うもん!」
「あ、それは……ちょっと勘弁して欲しい……です」
あのエッチな衣装がお母さんにバレたらすごく気まずい。
私だって思春期の女子だ。それなりにエッチなことに興味だってある。
今までは活字でそれを消化していたから、我が家で私は思春期(発情期)が来ていないことになっている。そう、私は勉強のできる文学少女を通せているのだ。
しかしバニー衣装……あれは駄目だ。
あれは完全な物的証拠。日の目を浴びたら私は家で強制ファッションショーの餌食にされてしまうだろう。わが家のお母さんはそういうのに目がない。
「わ、わかったって!言う!言うから!」
「最初からそう言えばいいの」
そう言って妹は抱き着く力を少し緩める。
離してはくれないらしい。
「……ふっきーが見たいって言うから一緒に買いにいったの」
「……………は?」
随分間抜けな声だ。
まぁ、気持ちはわかるぞ妹よ。そんな創作でも書かないようなドスケベシチュエーションに慄いているのだろう。私も耳を疑ったから気持ちは本当にわかる。
「…………マジ?」
「マジです」
「ふっきードスケベって思ってたけど、ヤバすぎない?痴男じゃん」
「……否定はできないよね」
驚いていると思ったら、今度は焦った表情になり、
「ど、どこで買ったの?」
「え…?確か高島病院の近くのめっちゃ古いビルだけど…」
「私も買いにいかなくちゃ!」
私を開放して今にも飛び出そうとしている妹の首根っこを掴む。
この子の思考回路が全く読めない…。
「何で椿が買いに行くことになるの?」
「え?ふっきー悩殺するために決まってるじゃん!背中のジッパーとか上げてもらいたいし、うさ耳もつけてもらいたいし!」
「私がそれを許すとでも……?」
しかもそれは全部私がやった。
DNAはこういったところにも如実に現れる。悲しき血の定めなのか。
だが、こいつは放っておくと本当に買いにいきかねない。
行動力だけはずば抜けて高い女だ。マジで買いに行って不木崎を悩殺しに家まで押しかけるだろう。
何とか気を逸らさせなければならない。
何か、こうバニーよりも衝撃的な情報……。
あ、キッスの下りは絶対に言うつもりはない。妹は基本的に何でも私と御揃いにしたがる節があるため、キスも躊躇いなくしに行くだろう。それは許されない。
他に何か…!
あ!
あった。妹に言わないといけないこと。
しかもきっと妹も喜ぶであろう内容。私は気乗りしないが、この際仕方ない。
……椿は虫とかかなり苦手だから、もしかしたら来ないかもしれないし。
「つ、椿?ふっきーのお母さんから、夏休みキャンプ誘われたんだけど……」
「行く!」
「まだ全部言ってないのに……。でも虫とか出ると思うよ?」
「虫……」
少し表情に陰りが見える。しめしめ……やはり虫は嫌らしいな妹よ…!
かく言う私も大の苦手である。そんな苦手な虫を乗り越えられるのが愛の力よ……。妹のような性欲でしか不木崎を見れていない小童には厳しい試練だよね……!
「……虫怖いって言ってふっきーに抱き着ける……か……うん!やっぱ行く!」
「嫌!やっぱ連れて行きたくなくなった!ダメ!」
「明日日曜だしキャンプ道具買いに行こっか!」
「無理!それやっちゃダメ!ふっきーに抱き着くの禁止だから!」
「うん?お姉ちゃん、抱き着くって何のこと?」
すっごく澄んだ瞳で首を傾げる妹。
こいつ本当に恐ろしい。数秒前に自分で言ったことを一瞬で頭から消去しやがった…!
「あ、川とかあるかもだし、水着も新調しちゃおっと」
「み、水着…!」
迂闊だった。水着が必要な可能性があるのか!
私は体にはあまり自信がない。おっぱいは無駄にでかいし、太ももも妹みたいに細くない……。そんな自信のなさから、私はここ数年水着を着用したことがない。
男の子が見たらきっと鼻で笑われるような体型なのだ。着れるわけがない。
妹の水着姿を見たらきっとふっきーも………あれ?
いや、そうだ。不木崎は普通の男の子ではないのだった。
日ごろから私のおっぱいをこれでもかと見てくる不木崎のことだ。
バニーの時もすっごくエッチな顔をしていたから、これが水着となると……!
思わず鼻の穴が広がる。
水着を着ていた頃も妹が注目を浴びるから私はパーカーとかを羽織って隠していたが、今回はもしかして私の独壇場……?
喜ぶ妹を見て私は気づかれないようにほくそ笑む。
この子は不憫にもいつも通り自分が脚光を浴びると思い込んでいるのだろう。
ああ、可哀そうな椿……。
これは今回私も本気で水着を選ぶ必要があるようだ。
来年の誕生日を前借して、不木崎を悩殺する水着を新調してしまおう…!
ルンルンと妹は自室へ戻っていく。
それと同時に家の玄関が開く音がした。
どうやらお母さんが帰ってきたらしい。霞さんにもお世話になるし、お母さんにも伝えておこう。
私が立ち上がると、玄関で話し声が聞こえてくる。
妹とお母さんが話しているらしい。
「あ、お母さん。お姉ちゃんがすっげーエッチなバニーちゃんの衣装買ってた」
「つばきぃいいいいいいいいいいい!!!!!」




