第57話:嫉妬深い女の子・
side.不木崎拓人
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「霞さん、泊めて頂いてありがとうございます!」
城が母さんに頭を下げる。
そんな城を母さんは微笑ましい顔で見て、手を振っていた。
「いえいえ。春ちゃんと色々お話できてとっても楽しかった。またいつでも泊りに来てね」
「は、はい!」
まあ嬉しそうにしちゃって。
母さんも少し名残惜しそうな顔である。
俺の知らない所でどんどん二人は仲良くなっていっている。
チラリと城を見る。
昨日は一瞬で意識が刈り取られた。余韻もクソもない。
やはり陽乃ちゃんにされたときよりも、速度もキツさも段違いだった。翌朝起きたときに城から真っ赤な顔で隙が多いだの何だの怒られたが、その隙をついてキスしたの貴女ですよね…?
にしても、あんないじけた子どもみたいな顔されたら頬っぺたのキスくらい別にどうってことない。あいつ案外根に持つタイプだし…。
にしてもここ最近、城は嫉妬深くなっている気がする…。まぁ、城以外に仲のいい女の子があまりいないから別に問題ないと思うが。
「それじゃ、母さん行ってくる」
「拓斗も気を付けて。春ちゃん。拓斗のことよろしくね」
「はいっ!私が全力で守ります!」
……その人昨日ハァハァしながら発情してましたよ?
家を出て、病院へ向かう。
道すがら、城はバツが悪そうに俺の顔を見たり見なかったりしていた。
すごく気になる。
「なんだ、何かあるんだろ。言ってみろ」
「あっ……いやぁ……その、昨日キスしちゃってごめんねって言おうと思って」
「俺から言ったんだ。気にすんな。……にしてもあんな息荒くさせて興奮しすぎだって」
「き、昨日のこと茶化すのだめ!私だって色々切羽詰まってたんだからっ!」
「へいへい」
「むぅううううう!」
むくれた城と病院の中へ入る。
と言ってもケースを受付に預けるだけだからそんなにはかからない。
城の効果かはわからないが、襲われるようなことはなかったみたいだ。
「あの、精役の提出に来たんですけど……って池田さん」
「な、名前を憶えて頂いたんですね……!ありがとうございますッ!あれから毎日家の鍵は開けっ放しで何ならいつでも来られてもいいように部屋も私も清潔にしてますので、本当にいつでもお好きなときにお越しください!」
「あ……はい」
一気にまくし立てる池田さんのおっぱいが興奮のあまりブルンと揺れる。
どうやら前回渡された情報通りのサイズらしい。
「……」
おっぱいを見ていると、城が俺の手をギュッと握ってきた。
一瞬頭痛が走るが堪える。
城の顔を見ると不機嫌そうに唇を尖らせていた。
「あの、これお渡ししますね」
そう言って池田さんにケースを預ける。
池田さんはまるで赤ちゃんを抱きかかえるかのように恭しくそれを受け取った。
「当病院で丁重にお預かりいたします…!ところで、一度中身を拝見したいので指紋認証をして頂きたいのですが…」
そう言って液晶の画面を俺に差し出してくる池田さん。
そうなのか…?そんなこと講習でも聞かれなかったぞ……?
「また貴女は職務範囲外の……というか普通に犯罪行為に手を染めようとしてない、池田さん?」
「い、院長!?」
またしても横からにゅっと手が伸びてきて、ケースをかっさらわれる。
「あ、院長先生」
「こんにちは。拓斗くん。早速提出してくれて助かるわ。……っとその女の子は……?」
院長先生は俺と城の手を凝視する。
その目は鋭く、警戒しているような雰囲気だ。
「あ、大丈夫ですよ。こいつは学校のクラスメイトです」
「……城です」
いつもの元気はどこへやら、借りてきた猫のように尖らせた唇で返答する城。
院長先生は、品定めをするような顔で城を観察する。
「拓斗くんは今大丈夫?助けがいるとかじゃない…?」
院長先生の言葉に城の手を握る力を強める。
俺は安心させるように城の手を握りしめると、少し驚いた顔でこちらを向いた城に笑いかける。
「大丈夫ですよ。別に嫌じゃないですし。こいついいやつですし」
そう言うと、城が手をさらに絡ませて恋人つなぎにしてくる。
嬉しくなって調子に乗ってるな……?
「……そう。本当に貴方は変わったのね。ごめんなさい城さん警戒してしまって。後、ありがとう。拓斗くんを変えてくれて」
「……私が変えたわけじゃないです」
「そういうことにしておきましょうか」
一転表情を柔らかくした院長先生に城は恥ずかしそうに返事をした。
池田さんの断末魔を聞きながら病院を出る。こってり院長先生に絞られているらしい。
「で、いつまで握ってるの?」
「……嫌じゃないって言った」
言ったけど……ずっとはちょっと辛いって言うか、汗とか頭痛とかでせっかくのお出かけ楽しめないっていうか…。
「……また手繋いでもいい?」
「いつも勝手に繋いでくるだろ。何を今さら」
そう答えると、城は最後手に少し力を込めてから、ようやく離した。
「じゃあ、離してあげる……今日は私と出かけてるんだからあんまりキョロキョロしないで」
「……善処します」
やはり嫉妬らしい。まだ少し不機嫌そうだ。
池田さんのおっぱいを見てたのがよくなかったのか、それとも仲良さそうに話してたのが良くなかったのか…。
「というか、さっきのどうした?いつもの調子じゃなかったじゃん」
「…いつもはあんな感じ……と言うか」
「え?全然違うじゃん」
「ふ、ふっきーの前では素の私なの!何で最後まで言わせるの!バカ!」
「怒ることないじゃん?」
どうやら、あれが城の外面らしい。
元気のないというか、クールな感じだった。真逆じゃん…。
「それじゃ、罰ゲームしに行きますか!」
気を取り直して言うと、城は真っ赤な顔で俯いた。
「そんなに嬉しそうに言わないでよ……」
コスプレ専門店の場所はしっかり調べてある。
ドンキとかで買ってもよかったが、やはりクオリティは高いものにしたい。
その店はたくさんの種類のコスプレやニッチな衣装が置かれているらしい。
「ここだ」
「え、ここなの?」
雑居ビルの5階。
正直見た目は絶対に一人では入りたくない今にも取り壊されそうな雰囲気だ。
ファンシーな店内の画像が掲載されていたから、外観もそういうもんだと思っていたが全く違うらしい。
エレベーターに乗り込み、5階に到着する。
入り口はHPで見たおしゃれなものだったため、やはりここで間違いないみたいだ。
「やっぱりここっぽい。っしゃ!行くか!」
「……もう」
店内へ入る。一気に甘い香りに包まれた。
ピンク色の内装におしゃれな形でたくさんの服がディスプレイされている。
これは期待できそうだ…!
「いらっしゃ―――た、タクトくん!?」
「……冬凪先輩?」
俺らを出迎えてくれたのは、メイド服姿の冬凪先輩だった。




