第54話:爆弾発言
side.不木崎拓人
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俺を呼びに来た城の目元は真っ赤だった。
泣き声とか聞こえてきたし……ひょっとして母さんから何か怒られたのか、とも思ったが、二人の様子を見て、それは違うなという結論に至った。
「春ちゃん、今日はもう家でご飯食べていく?」
「えー!いいんですか!私夕食づくり手伝います!」
「ふふふ。まずはお家の人に連絡してね。そしたらお手伝いお願いするね」
「はーい!」
……あれ?姉妹?
先ほど貴女のお母さんじゃないとガチ泣きしてた人はどこへ行ったのだろう。
拓人くんのクラスメイトですっ!とガチガチに緊張していた人はどこへ行ったのだろう。
「家に連絡しましたー!お手伝いさせてください!私、家ではよく料理するんです」
「そうなの?すごく助かる。今日は唐揚げにするから、先にご飯炊いててくれる?」
「わー!唐揚げ!楽しみです。わかりました!」
完全に姉妹だよね?
何あの女の子空間。
全く入れる余地がないんだけど。
すっごい疎外感なんだけど、この1時間くらいで何があったの…?
ちょっと寂しくなって俺もお手伝いしようか?と言ったら、二人から声を揃えて「座ってて!」と言われた。……あれ、泣きそう。
出来立ての料理が机に並べられる。
城は母さんの隣に座って、笑顔で話をしていた。
お、俺の母さんなんだけど…?ていうか、どうして二人は隣同士なの?春もいつもだったら俺の隣にくるじゃん……!何なの……!
そんな俺の不本意な気持ちを察したのか、城はニヤっと笑みを浮かべる。
「霞さん……拓人くんが私たちの仲の良さに嫉妬してるみたいです」
「え、そうなの?……わ、私と春ちゃんはすっごく仲が良いからねっ」
城に乗せられてか、母さんが慣れない様子で俺にアピールしてくる。
……母さんが春に染められてしまった……だと……?
「二人とも、こ、これはさっきの仕返しと取って相違ないかな…?」
「仕返しってなんのことー?」
「あ、えっと、拓人そういうんじゃ」
「霞さん!」
「あ、し、仕返しってなんのことー?」
「母さんっ!!!!?」
指を顎に当てて、明後日の方向を向く母さん。
城に完全に洗脳されてしまっている。
そんな母さんも可愛い……!!
心に言いようのないモヤモヤを感じながら、食事が始まる。
からかうのは好きだが、からかわれるのは苦手なんだよっ……!
どうやって仕返しの仕返しをしてやろうかと、考えていると、城と話をしていた母さんが思い出したように俺の方を向いた。
「拓人、そう言えばキャンプの件なんだけど、春ちゃんも誘って大丈夫?」
「……え?春も来んの?」
「……なんか嫌そう」
俺の反応に、城がムスッとした表情で俺の皿から唐揚げをかっさらっていく。
返しなさい。
ただ、仕返しするならここでした方がいいな。
ニタァと笑みを浮かべた後、恥ずかしそうな表情を作る。
「か、母さんと二人きりの旅行だったから、その……ねぇ母さん?」
「たたた拓人!!!その顔ダメッ!さっきの謝るからその顔しちゃダメ!」
「それに、母さんと同じテントで寝るって約束もしたし…」
「ちちちちちがっ!違うの春ちゃん!そういうのじゃないの!誤解なの!」
わたわた手を振る母さんを見てほくそ笑む。
まずは一人……!
「それに春が来るのは嫌じゃないんだけど、春とは誕生日会の時にちょっと……」
「ふっきーごめんなさいっ!謝るからもうダメっ!ここではダメ!」
「手をギュってされたし」
「あああああああー!ち、違うんです霞さん!別に変なことはしてないですっ!本当です!」
「変なことも……」
「ふっきーお願い許して!それは駄目じゃん!ズルいじゃん!」
二人の取り乱し具合に俺はにっこりとする。
「さて、仕返しの仕返し、いつでもどうぞ?」
「「……ハァハァ」」
真っ赤な顔でこちらを見る二人。
こちとらイケメン男子だぞ…?女の子二人を手玉に取るなんて造作もないんだ……!
「ま、でも春がキャンプ来るのは全然いいんじゃない?なんか、母さんと春仲良くなってるし。人数多い方が楽しいでしょ?ただし、テントは母さんと俺で、春は別のテントな」
「た、拓人!」
非難するような声だが、顔は真っ赤で滅茶苦茶嬉しそうである。
対して、城は不満そうだが、唇を尖らせて納得していた。
流石にあの誕生日のことがあるから、一緒のテントはマズイ。
何度も言うが、俺が我慢できなくなる。
「ていうか、椿ちゃんも誘ったら?置いてったら可哀そうでしょ」
「椿ちゃん?」
母さんが首を傾げる。
「ああ、春の妹で中学生の子だよ」
「そうなの。私もいいと思う。拓人の言う通り、多い方が楽しいし」
「つ、椿か……」
俺と母さんの反応とは裏腹に、城は微妙そうな顔をする。
あの子はいざという時に頼りになるから、助かるってのもある。
「……ま、まぁ一応声掛けとく」
渋い表情で城は言って、唐揚げを食べた。
それは俺から奪った最後の唐揚げだった。
「そういえば、春は今日泊まるの?」
「ブフォッ!」
何気なく尋ねると、城は白米を盛大に吹いた。
無事茶碗の中に納まったようだ。
「さ、さすがに男の子の家に女の子が泊まるのはちょっとお母さん感心しないなー。……拓人は泊まって欲しかったの?」
母さんがチラチラと城を見ながら答える。
まぁ、確かにもう俺ら高校生だし。
母さんの答えに城は残念そうな顔をする。
どうやら泊まりたかったみたいだ。
「あ、いや特にそういうんじゃないんだけど、明日《《精役の提出》》する予定だからさ、今日泊まるんだったら《《少しの間部屋に入って来ないで》》って言おうと思って」
その瞬間、食卓が凍り付く。
母さんも城も箸を落として、カランカランと乾いた音がリビングに響き渡る。
あれ、もしかして言っちゃまずかったか…?
だけど、やってる最中に部屋に入られた方が気まずいだろうし…。
「ななななななんでそんなこと言うの!!!!お母さん《《今日どうすればいいの》》!!!!……って春ちゃん鼻血鼻血!!!!」
母さんが席を立って大声を出すが、すぐ横で城が鼻血と涙を流しているのを見て、慌ててティッシュを差し出す。
城は差し出されたティッシュを受け取る余裕もないようで、上の空で俺を見ていた。
「ほ、ホラ!女の子にそんなこと言ったらこうなっちゃうの!春ちゃんだからこれくらいで済んでるけど、普通の子に言ったらもっと大変なことになるんだから!!」
少し怒りながら母さんは春の鼻にティッシュを当てる。
とうやら刺激が強かったらしい。
「えーと、ごめんね」
「そ、その顔ズルい!可愛い顔で許されようとしてる!」
「あ、母さんも入りたければ別に部屋に入ってもいいけど、ちょっと匂うかもよ。どうせバレるから先に言っちゃうけど」
「ににににに匂う!?」
いつもはお風呂とかで済ませていたから何とか誤魔化せていたが、部屋でするとなると匂い問題がついてくる。
ネット注文して届いた試験管に入れて、上手い感じに平均値を測ったりする作業があるため、風呂場でするのは諦めた。
「お、お母さん今日どうすればいいの!?」
「え?別に部屋で寝てればいいんじゃない?」
「寝れないに決まってるじゃん!」
むむ。やはりこういう話はデリケートにすべきだったらしい。
ただ、講習では親に手伝ってもらいましょう、ってのもあったし、そこまで変なことでもないと思うんだが…?
ハッと意識の戻った春は、追加でティッシュを取り鼻を綺麗にふき取る。
が、白い肌に若干赤い轍が残っている。
「わ、私ご飯食べたら家に帰ります!無理です!」
「待って春ちゃん!一人にしないで!今日泊まって?お願い!」
「さっきは男の子の家に泊まるのはって言ってたじゃないですか…!」
「言ってない!そんなこと言ってないもん!」
「あ、駄々こね母さんだ。気をつけろ春。こうなるとテコでも動かないぞ」
えー……、と母さんを見る城。
母さんは頬を膨らまして、春の腕にコアラみたいにしがみついていた。
「ま、別にすぐ終わるから」
そう言うと、春は真っ赤な顔で俺を恨めしそうに睨んだ後、諦めたようにがっくりと肩を落とした。




