第17話 メルビン
〜前回のあらすじ〜
ウルバヌ村近くに到着!砦を急襲され、反撃するために敵陣の背後へ転移した!
剣に巻き付いた赤い蛇の旗――恐らくマグラーシュ男爵軍の親衛隊だろう。
敵軍の先頭には3人の貴族がまるで歴戦の強者であるかのような、厳たる態度で佇んでいる。
その中でも長身でドラゴンに似た羽を持ち、鋭い爪で武装した妖艶な女性が指揮官なのだろうか、2人のハーフエルフよりも一歩前に突き出ていた。
赤い鱗状の鎧――スケイルアーマーを装備し、豊満な胸を揺らしながら右手に黒くて四角い立方体の、まるでキューブのような魔道具を持っている。
「まさか背後から襲ってくるなんて思ってなかったわぁ。か弱い乙女が指揮官の軍隊に奇襲をするのは卑怯なんじゃないかしらぁ」
「戦場に卑怯もクソもないと思いますよ。それより貴方は何者でしょうか? 男爵に半龍人の娘が居るなんて聞いたことがないのですが」
ミラルが尋ねると妖艶な女性指揮官は微笑を浮かべる。
「アハハハハ! そりゃそうでしょうねぇ! 私は隠し子だもの! 貴方達はどうせ皆すぐ死ぬのだから関係ないでしょうけど、私の名前はアンナ。覚えておきなさいなぁ」
「ケッ! ゴタゴタうるせえ女郎じゃねぇか! さっさとぶっ殺してやる!」
痺れを切らしたアーリィ子爵がグレートソードを振りかぶりながらアンナに攻撃する。
しかしアーリィ子爵の攻撃は防護術式の一種なのだろうか、薄紫の魔法障壁に阻まれてグレートソード諸共吹き飛ばされた。
物凄い反動だったのか、アーリィ子爵は地面を何度もバウンドしてから木の幹に激突する。
「あら? 勇者と言えどそんなもんなのねぇ。幻滅しちゃうわぁ〜」
「ゲホゲホ。やるじゃねぇか」
激しく咳き込みながらもアーリィ子爵はグレートソードを支えにして再び立ち上がる。
アーリィ子爵が飛びかかる様子を見てアンナの傍に侍っていた2人のハーフエルフが庇うように前に出てきた。
思わず俺たちも武器を構えて警戒する。
「さて、茶番はそろそろ終わりにしてあなた達を片付けましょうかしらぁ」
立方体の中央が割れたかと思うと、中から紫色の丸い結晶が剥き出しになって出てきた。
「魔人の心臓である魔核を加工したものよぉ。魔核には多くの魔力を溜めておけるから便利よねえ」
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」
突如としてメアが駆け出したかと思うと、アンナに短剣でがむしゃらに切りかかる。
しかし2人のハーフエルフに押さえつけられてしまった。
振りほどこうとするもメアの腕力では抜け出せない。
「放せこら!貴様、何故私の母の魔核を持っている!」
「アハハハハ! そういう事!やけに見覚えのある容姿と魔力のある魔人がいると思ったら、もしかしてあの女の娘なのかしらぁ! 彼女が完全に乱心した状態でウルバヌ村に現れた時は嬉しくて飛び跳ねたものよぉ! 実験用のモルモットが自分から迷い込んでくるなんて思わないじゃない♪ 最高なことにギロチンで首を切り下ろそうって段階で正気に返ったのよねぇ。私、他人が絶望した様子を眺めるの大好きなのよねぇ。泣き叫びながら娘の名前を連呼していて滑稽だったわぁ。素晴らしいと思わないかしらぁ。ねえ、メアちゃん♪」
「貴様あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
メアは全身から魔法で炎を吹きあがらせる。
ハーフエルフどもは思わず押さえつけていた腕の力を弱め、その隙に短刀をアンナの腹部に向けて突き立てようとした。
しかし、再び障壁に弾かれメアの小柄な身体は空中に舞い上がる。
よく見ると魔核からアンナの身体に向けて紫色の電流みたいな物が流れている。
恐らくあれで魔力を供給してるんだろう。
俺は慌てて落下予想地点に向かい両腕でメアを受け止めた。
再び飛び出しそうなメアを羽交い締めにして押さえつける。
「クソ野郎がぁ! ……! ちょっと! 離しなさい!」
「落ち着け」
「落ち着けるわけ無いじゃない! あいつは……あいつは絶対に許さない!」
「良いから落ち着けよ!!!」
俺が怒鳴りつけたことに驚いたのかメアは抵抗するのを止めた。
普段感情的にならない俺が怒った事に驚いたんだろう。
「いいか、よく聞け。今のまま攻撃したとしてもまた障壁に弾かれるだけだ。だから騎士団や傭兵と協力して戦いながらあいつが隙をみせた瞬間を狙おう。そういうのは頭の固い俺よりメアの方が得意だろ? いつものメアなら考えつくと思うんだが」
頭を左右に振りながら逡巡を巡らせた後、メアは感情を押し殺したかのような声で呟いた。
「そ、そうね。冷静さを失っていたわ。もう大丈夫だから離して」
メアを解放し、アンナ達と向かい合う。
「はぁ。折角いい表情だったのに余計な事しちゃってぇ。随分と目障りな蝙蝠ねぇ。今度こそ本当に茶番は終わりよぉ!」
アンナがキューブを胸の前に翳した刹那――紫色の閃光が周囲を眩しいくらいに照らし、視界を遮られた。
思わず目を瞑り右腕で瞼を覆い、目がやられないようにする。
数秒間で閃光は止んだため、恐る恐る瞳を開けると、そこにはおぞましい怪物が今にも俺たちを喰らおうとしていた。
全長は20メートルはあるだろうか。
草食恐竜のような身体にぶよぶよした球状の肉塊が大量にこびりついている。
頭はドラゴンで、尻尾はハンマーのような形状だ。
おでこの部分にはアンナの顔が皮膚にめり込みながらも見えている。
「キシャアァァァァァァァァァァッッッッ!」
耳障りの悪い声で笑いながら、爬虫類特有の細く黄色い瞳孔で俺たちを睨みつけ、口を大きく開けて近づいてきた。
俺はメアを抱えながら翼で飛んで回避する。
「うわぁぁぁぁ!」
「あ、脚が! 脚が動かねぇ! 助けてくれ!」
傍にいた多くの兵士達は逃げ遅れ死傷している。
「アンナ様に逆らうからこんな事になるでふ。大人しく殺された方が苦しまずにすむでふ」
「グランの言う通りであるな!」
そんな悲惨な状況を見ながら、2人のハーフエルフが虎の威を借る狐の如くドラゴンになったアンナの横でわめきたてた。
腹が立つのでスローイングナイフを投げつけてやる。
「おもちゃを投げられても困るでふ」
ぽっちゃり体型のハーフエルフ――グランへ放ったナイフは右脇腹に当たるも鎧によって弾かれてしまった。
「ぐふふふ。お返し――」
ベチャッ!
ハーフエルフが言葉を発しようと口を動かす
――と同時に彼は空から降ってきた巨足に踏み潰される。
「グラン!? ア、アンナ様! これはいったいどういうおつもりであるか!」
生き残った武人風のハーフエルフが問いただす。
「キシャアアァァァァァァ!!!」
しかし、全く聞こえていないのか額にあるアンナは何も声を発さず上の空だ。
代わりにドラゴンの方が口を開き、大きな腔内を武人にあてがおうとした。
ガキィィン!
武人風の男はしっかり鍛えてあるのか緑色の防護術式を発動、突き立てられた牙と拮抗する。
「話が違うである! アンナ殿は竜化魔法を使いこなせるのでは無かったのか!」
武人の必死な叫びにも関わらず、ドラゴンはミシミシと音をたてながら防護術式を噛み砕き武人に噛み付く。
「痛い! 痛いであるぅ!」
お腹の部分を口に咥えられた後、武人は空高く放り投げられ落下しながらドラゴンの口に呑み込まれた。
ふむふむ。魔核を用いて竜化したアンナは予想以上の魔力に耐えられず暴走してるのか。
呑気に考察していると、醜いドラゴンは再び俺に向かって前足を繰り出そうとしてきた。
「キシャア!」
転移石 白く輝く宝石で名前の通り転移用の聖遺物。単体では使用出来ず、天使秘伝の魔法陣と連動させる必要がある。魔術に関して深い造詣が無ければ使いこなせない。




