第16話 ウルバヌ村
~前回のあらすじ~
行軍中、カイパードロップ辺境伯の思惑をしる。夜になりゴブリンの大群と遭遇、戦闘になった!
ゴブリンとの戦闘から約2週間後。やっとウルバヌ村手前まで進軍することができた。
あの夜は偶然ゴブリンロードが複数いる大群と接敵してしまったらしい。
犠牲者は10人前後ですんだが彼らの目的は軍事用物資の略奪にあったようで一部の食料等を奪われた。
俺やアーリィ子爵がゴブリンロードを倒したので奴らは途中で撤退し、被害は最小限に抑えられたものの、数日物資の補充に時間をとられた。
その上重装な歩兵も多いので進軍にかなりの時間が掛かってしまったというわけだ。
進軍して疲労が溜まっているのでいきなり攻撃を仕掛けるようなへまはしない。
ウルバヌ村の2キロほど手前――南門近くにて陣地を築く。
手始めに地面を平らに変形、その上に鉄や石材で骨格を作り土魔法で覆っていった。
最初に鉄の棒を一定間隔で地面に突き立てていく。
魔法で地中に埋め込ませる形なので楽っちゃ楽だが、鉄の棒を指定の位置まで運ぶ必要があるため人手は必要だ。
石材に関しては魔術師達が付近の土塊から生成した。
「ヒデキ、この鉄の棒の上と間に石のブロックを並べなさい。溶接するから」
「こんな感じか?」
「ええ。ありがとう」
棒の上に置かれたブロックには棒を突き刺し、その後他のブロックと連結させる。
こうすれば外部から強い衝撃を加えられても崩壊し辛くなるそうだ。
なるほど、確かにブロックをそのまま積み上げるよりも土台がしっかりするだろう。
結果として黒みを帯びた立派な要塞が一晩で出来上がった。
ウルバヌ村の街門に平行になるよう建設された細長い長方形の建物で、監視用の高台が至る所に設置されている。
軽く叩いてみたがびくともしない。これだけ丈夫なら早々崩壊する事はないだろう。
ウルバヌ村は30メートルはあるであろう巨大な白い壁に囲まれた広大な土地だった。
村の入り口から約2キロ離れているが、視界の端から端まで見渡す限り壁に覆われている。
村だと聞いていたが下手したらサラゴサよりも面積自体はあるんじゃないだろうか。
要塞建設中に攻撃される事は無かったが壁の前には陣地が築かれ、幾つもの人影が映っている。
しかし今日は見張り番が休みなので早々に寝てしまう事にした。いつ戦闘が起きてもいいよう今のうちに睡眠をしっかりとっておきたい。
従軍中は流石に夢の世界には行っていない。残念だが魔力や気力は温存すべきである。
肉体労働をして少しばかり疲れていたのか、瞼を閉じると幾ばくの時間もたたずに深い眠りへと誘われていった。
◆❖◇◇❖◆
カンッ!カンッ!カンッ!
金属同士を強く打ち付けたような、けたたましい騒音により眠りから目覚める。
空を見上げると朝日が黄色く優し気な光を地上に向けて放射していた。
ウルバヌ村の上空は薄い緑色の膜に覆われている。
バァンッ!バァンッ!
砲音も時折聴こえてくる。
花火の火薬が燃えたときのような、硝煙の匂いも漂ってきた。
「きっと敵襲だわ」
「おそらくな。ラルフの下に向かおう!」
急いで指定された集合場所に行く。本来であれば直ぐに隊列を組めるよう指揮官の傍にて待機するはずが、部屋が満員になったせいで少し離れた場所で寝ていたからだ。
『傭兵団鋼鉄の蛇、並びに破邪の剣は全員揃っているな!』
「おうよ!さっさと奴らをぶち殺しに行こうぜ!」
「ぐずぐずしてたら貴族共に手柄を取られちまう!」
10代後半と思われる若い傭兵達が急き立てる。
鋼鉄の蛇、及び破邪の剣はどちらもラルフの指揮下にある傭兵団の名前だ。
『馬鹿野郎!隊伍を整えずに突撃する奴がいるか!てめえらは戦場を何だと思ってやがる!』
「すまない。遅れてしまったか」
『おうヒデキにメアお嬢さんも来たか。それではお前たちに任務を与える』
姦しく喋っていた傭兵たちもようやく静かになった。
『現在、敵兵力は砦の正面を弓矢、魔法、大砲などで散発的に攻撃し続けている。こちらを消耗させる事が目的ならば砦建設時から襲撃が始まっているはずだ。陽動か、それとも他の目的があるのかは分からん。よってプラン4の作戦を断行する』
作戦の内容は割とシンプルだ。今攻撃を受けている前線――砦前へ大砲や魔法などの飛び道具を使って反撃。砦内部へ侵攻されるのを防ぐ。
続いてウルバヌ村の上空に展開している薄い膜――あれはどうやら町を囲う壁の上にある複数の尖塔が起点となっている防護術式らしい。
なのでいくつかの尖塔を破壊し機能不全となった時点で上空、及びウルバヌ村の左斜め後方――北門及び西門に回りこんで挟撃し包囲殲滅する計画だ。
上空からは竜騎士達が、そして北門及び西門へはミラルを中心とした教会騎士団、さらに俺とメアを含む一部の傭兵やアーリィ子爵を始めとする貴族の混成団で侵攻する。
北門及び西門への攻撃は転移石と呼ばれる聖遺物を使用するのと、敵に勘付かれないよう注意しながら奇襲しなければならないので少数精鋭だ。
「私は本隊の後衛としてウルバヌ村の南門側に残ると思っていたのだけれど違うのかしら?」
メアの魔力は魔人だけあってかなり高い上、使用する魔法の技術力も秀でている。
そこらの魔術師と違い、単騎で遠距離から尖塔を攻撃する事も可能なはずだ。
どうしてウルバヌ村後方への部隊に回されたんだろう。
『最初はその予定だったんだがよぉ。結局後方へ回り込んだとしても一時的に敵の意表を突けるだけで反撃されるかもしれねぇ。そこで汎用性の高い魔術師も連れて行きたい訳だが、ハーフエルフでも無い只人の魔術師で迅速に動けるような人材は少なくてな。メアお嬢さんに白羽の矢が立ったわけよ』
「そういう事。確かに後方へ素早く展開する必要があるわね。そこらの魔術師には荷が重いに違いないわ」
◆❖◇◇❖◆
砦の外、正確にはウルバヌ村とは正反対の位置に再度移動する。
『結局こいつらと組むのか……』
アーリィ子爵がぶつぶつと嫌味を言ってくるが今回はメアも無視している。
『それでは転移を開始致します』
巨大な魔法陣が描かれた地面に集まると、ミラルが懐から白く輝いている宝石を取り出す。
あれがおそらく転移石だ。
その宝石が魔法陣の中心へと運ばれた途端に視界を眩い光に遮られ、気づくと森の中に突っ立っていた。
はるか遠くから戦闘音が微かに聞こえる。
『ここはウルバヌ村北西にある森の中です。転移した際の誤差は10メートル程度に抑えられました。各自作戦を続行してください』
『おし! 傭兵部隊は俺に続けー!』
『おいラルフ! 抜け駆けするんじゃねえ! おいテメェら! 傭兵に手柄とられないようさっさと行くぞ!』
半円状にウルバヌ村を取り囲むようにして広がる。
左翼がアーリィ子爵を始めとした貴族の騎士団、中央をミラル率いる教会騎士団、そして右翼がラルフ麾下の傭兵団だ。
予定ではアーリィ子爵軍は北門、教会騎士団は外壁の破壊、傭兵団は西門から侵入する。
2時間程経過した頃、大きな爆音と共に外壁にある尖塔の1つが吹き飛んだ。
そしてウルバヌ村上空を覆っていた膜が消滅する。
更に1時間程経過し、向かい側の前線から絶え間ない戦いの喧騒が響き渡り続ける中、天使達の陣営上空に大きな魔法陣が浮かび上がったかと思うと、光の光線が外壁及び2つの門へ向けて放たれる。
ドガシャァァァァァッッッ!
外壁は激しい音を立てて崩壊する。天使の魔法がこれほど強力だったとは……。
人間は魔族や吸血鬼に比べて弱いと思っていたが、その分エルフや天使が強力だからこそ互角に渡り合えたんじゃないだろうか。
「「「突撃ーーー!!!」」」
爆音が轟く中を一斉に西門へ突き進む。
おびただしい量の土煙が舞っているものの、傭兵達の多くは精鋭だけあって風魔法で散らしていく。
「くそ! 西門に敵襲!」
「馬鹿な⁉︎」
視界が開けると同時に周囲から敵兵が群がってきた。
しかし思わぬ奇襲を受けたせいか、兵士の数はかなり少ない。
おまけにかなり動揺している。
「おりゃあ!」
ラルフが大剣を上段の構えから垂直に振り上げ、敵兵に近づくと頭を切り裂くというより、押し潰すようにかち割る。
『サンダーボルト!』
メアの魔法により兵士の胴体を雷が貫く。
しかし俺は更に前方の兵士達がこちらへ向けて大砲を発射しようとしているのを目撃してしまった。
危ない!そう声を掛けようとした刹那、ドサリッと音をたてながら飛竜が地面に着地、砲弾を装填しようとした兵士に業火のブレスを浴びせる。
(辺境伯軍の竜騎士がもうこんな後方まで飛んできたのか!?いや、あらかじめ障壁が外れるまで上空を飛んでいたのか)
竜騎士隊によって壊滅した部隊の屍を超え、残党を蹴散らしながらウルバヌ村中央へ進撃する。
大した抵抗もなかったため、マグラーシュ男爵の邸宅へ向かう。
領主の邸宅前にあるちょっとした広場へ到着すると、ミラルやアーリィ子爵達、それにマグラーシュ男爵軍が睨み合っていた。
ゴブリン 上位種を中心に群れを作るが稀に複数のゴブリンロードが結託、数百数千の大群に膨れ上がる。
この世界における町と村の違い 有力な貴族の牙城が存在、またはなんらかの理由により職人が多く過度に発達していれば町。土地が広大であっても農村地帯が多ければ村である。地球の町や村の概念とは異なる。
転移石 白く輝く宝石で名前の通り転移用の聖遺物。単体では使用出来ず、天使秘伝の魔法陣と連動させる必要がある。




