第15話 行軍
〜前回のあらすじ〜
いよいよ出陣!勇者に絡まれた後、閲兵式に参列した。
何人かのお偉いさんが演説した後、漸く閲兵式も終了した。
あくびを噛みしめながらうつらうつらしていたので内容は殆ど覚えていない。
閲兵式の終了後はすぐ様ウルバヌ村へ行軍する事になった。
重装備の歩兵も多い為、到着するのは1週間程先の事だ。
周囲を黒金色の大砲に白くて巨大なゴーレム、竜騎士用の茶色いワイバーン等に囲まれながらの行軍なので物々しさを強く感じる。
それらの列に吸血鬼や魔人、勇者が加わってるんだからちょっとした百鬼夜行みたいなもんだな。
「おい、あんたら古き者共側の種族何だってな!久しぶりに会ったぜ!」
筋肉質だが背の低い、禿頭の戦士に話しかけられた。
眼孔は鷹のように鋭く、幾つもの死線を潜り抜けてきた事が窺える。
彼もまた教会に雇われた傭兵の1人だ。
「そうだけれど」
「魔人とは昔参加した戦争で殺しあったもんだぜ。懐かしいねぇ」
「どんな容姿だったのかしら?」
「そこの兄ちゃんみたいな黒髪の男だったぞ。殺しちまったからもうこの世にはいねぇが」
「そう」
(薄紫色の髪じゃ無くて良かった……)
「所でさっきの閲兵式での話だがどうして王命が下されたんだ?それにマグラーシュ男爵だって村に篭ってでて来ないらしいし」
慌てて話題を変更する。
「知らないのか?マグラーシュ男爵側についてる兵士だって元は同じ領内の人間だ。お互い交流関係にある人々も多い訳で、辺境伯は国王の支持を取り付けて厭戦機運を鎮めさせたって所だろうよ!男爵側は豊かな大地であるウルバヌ村周辺を男爵領として独立させる事を望んでるからわざわざ向こうからサラゴサに攻撃したりはしねぇと思うぞ。防衛戦の方が主導権を握りやすい上に地形の把握もし易いからな」
「独立ねぇ。随分突拍子も無い事を考えてるんだな。町とかなら兎も角村を独立させるなんて」
「村といってもウルバヌ村は農村地帯が多いってだけで領地自体は広大だぞ。しかも一応領地としての独立どころか完全にとある帝国から独立した国があるぜ。それが俺の故郷だ。但しウルバヌ村と違って侵攻しにくい山岳地帯だけどな。更に多くの傭兵を輩出もしている猛者揃いだ。農民ばかりで平野のウルバヌ村なんか失敗するのは目に見えてるぜ!」
だからこそ、多くの傭兵が参戦したのだろう。彼らにしてみれば鴨がネギ背負って来たようなものだ。
傭兵に話を聞くと、彼の名前はラルフと言い、ミラルの雇った傭兵のまとめ役らしい。ウルバヌ村での戦闘も彼の指示に従う事になるはずだ。大方挨拶回りでもしてるんだろう。
◆❖◇◇❖◆
夜になり夜営をし始める。夜の見張りは交代制で、俺とメアは1番最初の順番になった。
見張りといっても軍隊に攻撃してくるような魔物なんてあまり居ないだろう。
焚き火が周囲をほんわかと赤く照らす中、ジッと立ち竦んでいたものの、沈黙に耐えきれずメアに話しかける事に決めた。
「なぁメア」
綺麗な空色の、やや吊り目の瞳がこちらを伺う。焚き火の光を受けてやや赤みがかっている。
「実は消えてるんだ」
「消えてる?」
「奴隷紋だよ。最初に会った頃に刻んだだろ」
「嘘でしょ⁉︎」
結局俺が逃げ出したりメアに危害を加えなかった為に殆ど使用される事は無かった。だから気付かなかったのも当然だ。
衣服をまくり上げて右の脇腹を見せた。薄赤く発光していた魔法陣は跡形もない。
「魔力も全く感じないわ。折角うまくできたと思ったのにもうダメになってしまうなんて……」
出会った時、隷属魔法を刻んだ事を自慢げに話していただけあって少し落ち込んでいる。
俺としては束縛から解放されたので嬉しいけどな。
「まあ元気出せよ。魔法が解けたからって逃げたりしないしさ」
「本当に?」
「本当だって。行く当て何か無いんだから逃げる訳ないだろ。それに武器を買ってくれたり言語や魔法を教えてくれたりしたしな。流石の俺も恩を仇で返すような真似はしない」
「ヒデキならそう言ってくれるかも知れないと思ってたけれど、ありがとう。実は例の洞窟で貴方と出会って隷属させた時、少し嬉しかったの。ずっと孤独に旅を続けるのかなと思っていたから」
「俺だって似たような事を考えてたよ。気がついたら真っ暗な洞窟内に放り出されてたんだ。そんな中でやっと人と会えたんだから。というより今日はどうしたんだ?やけにしおらしいけど」
「べ、別にどうだって良いでしょ!貴方が話しかけてきたから会話にのってあげただけ――」
「敵襲ーーー!!!」
切羽詰まった叫び声を受けてメイスを構える。
視軸を暗澹とした闇夜に向けていると緑色の小人達が悪臭を携えてやって来た。
所謂ゴブリンだ。
(練習用の的には持って来いだな。聖騎士相手じゃ手加減せざるを得なかったし)
複数の矢や魔法が飛来してくる。アーチャーやゴブリンメイジも紛れ込んでいるみたいだ。
「ファイアウォール!」
メアが魔法で全て防ぐ。飛び道具を気にする必要はなさそうだな。
片っ端から近づいてきたゴブリンをメイスで殴りつけていく。
頭をかち割れば脳漿が迸り、棍棒や錆びた剣と剣戟を交わそうにも武器諸共スクラップにしてやる。
余裕のでてきた俺はメイスにゴブリンのお腹を引っ掛けてから吹き飛ばし始めた。
「1匹~」
石斧を振りかざしたゴブリンの脇腹へ向けてメイスを打ち込む。上手く力加減を調整しないと肉を叩き潰すだけで飛んでいかない為、案外難易度が高かったりする。
「2匹~」
原始的な重装鎧で身を固めたゴブリンを吹き飛ばした。
落下先にいた他の押しつぶしながら痛みに悶えている。鎧に身を守られているとは言え鈍器で衝撃を加えられれば内出血や骨折はする。
その内生き絶えるだろう。
1人のゴブリンの肩を背負って必死で逃げているゴブリンを見つけた。
背負われているゴブリンの頭からは血が流れている。
負傷したゴブリンを後方へ運ぼうとしているようだ。
2人仲良く空中に吹き飛ばす。
「グギャア!グギャア!」
今度の落下先にはメアの仕掛けたファイアーウォールの上だった。
涙を流し、憎悪の混じった視線をこちらに向けながら消炭になっていく。
「3匹〜。4匹!」
さて、次の獲物はどれにしようか。
心をドス黒い嗜虐心に支配されていると、群れの中から一際大きな個体が周囲のゴブリンを掻き分けて近づいてきた。
ゴブリンの癖して上等な戦闘斧を携えている。
「グギャッ!グギャッ!」
鳴き声に合わせて雑魚ゴブリン共が退く。
(群れを統率できる能力にもひでているのか)
ホブゴブリン並みの身長にゴブリンウォリアーのように筋肉質な風貌。
極め付けは真っ赤に染まった冷酷な瞳。
間違えようが無い。こいつはゴブリンロードだ。
以前魔物の図鑑を教会から借りて読んだので知っている。
俺とゴブリンロードは暫し見つめ合い、互いの様子を伺った。
刻一刻と時間が過ぎてゆく。
「グギャアァァァ!!!」
痺れを切らしたゴブリンロードが戦闘斧を右上方から左下へと、斜めに振り下ろそうとする。
ゴブリンと言えどこの攻撃をまともに受ければ少しの間戦闘不能に陥ってしまう。
「はぁっ!」
瞬きをせず、斧の切っ先が首を狙っているのを確認し、魔力を込めたメイスに勢いをつけて斧の刃に合わせた。
斧はガキンッ!と鈍い音をたてながら粉々に割れ、メイスは勢いを失わずにゴブリンロードの首筋にヒットする。
鉄製の戦闘斧には魔力が流れていた為、成功するかは賭けだった。
けれども武器の性能や魔力の質が上だったので武器破壊からの追撃が上手くきまった。
「グゲェッ……」
首の骨がぐにゃりと曲がっている。突然の出来事に防護術式を発動する余裕も無かったのだろう。
まだ息はあるようだが、何となく楽に死なせてやりたくなった。
俺は頭にメイスを下ろし、頭蓋骨を粉砕する。
「おーい!そっちは大丈夫か〜!応援に来たぞ!って何だこれ⁉︎」
周囲は死体で埋め尽くされ、真紅の血が水溜りになっていた。
屍山血河とはまさにこの事だろう。
俺自身も血で全身真っ赤っかだ。
プロの軍人は返り血を浴びないと言うが、まともな訓練を2ヶ月程度しか経験して無い俺には無理な相談だな。
しかし内臓が飛び出るほど派手に嬲る事は只人には難しいはずだ。
勇者でも無い限りは。
「あなたが1人でやったのですか……吸血鬼がこれ程強いとは……」
増援の聖騎士は若干引いていた。
一緒に訓練を重ねてきた顔見知りの1人である。自分達がどれだけ手加減されてきたかを思い知ったのだろう。
「いや、そこら辺で消し炭になってるのはメアがやったんだぞ」
「だとしても。幾ら雑魚とは言え、ゴブリンをこんな文字通り肉塊にする何て芸当は見事です」
「そう言ってくれると嬉しいよ。他の方面に応援に行くべきか?」
「ええ。お願いします。こちらの方から大量のゴブリンが攻めてきたので」
ゴブリンロードが指示を出した際、邪魔だからと別方面へ向かわせたのか。
「了解した。蹴散らしてくる」
こうしてゴブリンとの戦闘は夜明けまで続いた。
大砲 : 砲身に車輪のついた、原始的な作りだが通常弾以外にも榴弾――砲弾の破片が広範囲に散らばる弾を打ち出せる。
ゴーレム : 大抵はストーンゴーレム。ヒデキが見たゴーレムは花崗岩製なので白い。金属での製造は高コストな為、基本花崗岩や玄武岩等の丈夫な岩で作られる場合が多い。
ワイバーン : 茶色い小型の竜。一般的に竜騎士の騎乗する竜はワイバーンのような小型な種族である。




