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幕間1 郷愁

今回は第4話~第6話のお話となっております。

 ある日の夜、燦然と星空の煌く夢の中にてメアから疑問を持ちかけられる。


『前から気になっていたのだけれど、貴方は何故リマニラ語を話せないの?』


『何の事だ?』


『初めて会った時、吸血鬼の共通語を話しても全く通じてなかったじゃない。念話を使ったから問題無かったけれど』


(異世界転移した何て言っても信じて貰えるか分からないな)


『えーっと。実は記憶喪失気味でさ。言葉に関して殆ど覚えてないんだよね。気づいたら例の洞窟に居たんだよ』


『記憶喪失で言語まで分からなくなるなんて珍しいわね。元々地方出身者で方言しか話せなかったのかしら?』


『ごめん。それすら分からない』


『少しは覚えている事は無いの?』


『覚えている事ねぇ』


 そこで俺は閃いた。夢の中でなら故郷の文化や技術を楽しめるんじゃないかと。


 勿論、食べ物何かは自分の記憶に基づいた味付けになり、機械に至っては細部の再現は不可能だろう。


 だとしても20年住んできた世界での生活を疑似体験できるなら喜ばしい事だ。


 試しに頭の中で寿司を思い浮かべ、テーブルの上に出てくるように念じた。


 何度も失敗したが、メアにコツを教えて貰いながら練習する。


 視覚情報以外の、味や香りまで追加で想起する事でようやく10巻程の寿司が載った皿を召喚できた。


『何よそれ?』


『多分、俺の地元でよく食されてる食べ物だよ』


 醤油も出して大トロを浸すと口に頬張る。


 口の中で身がとろけた。


(ウマい!お口の中が宝石箱や〜!)


 ここ最近、固めの黒パンやら干し肉しか食べていなかったのもあり、格別上手く感じる。


 しかしメアはドン引きした顔で俺を見つめていた。


『ウソでしょ……。魚の切り身を生で食べるなんて……』


 魔族に生食の文化はあまり無いようだ。


『ま、まあ、夢の中何だし食べて見ろよ。メアが考えてるより美味しいと思うぞ』


 メアはサーモンを手に取り、醤油を付けると恐る恐る口の中に放り込んで咀嚼する。


『見かけに反して味は悪くないわね』


 だが顔は引き攣っていた。魔族を含め、邪神側の眷属には毒に対する耐性が強い。


 食中毒を恐れる必要はない筈だ。


『どうして生食を禁忌するんだ?』


『だって肉や魚には寄生虫が溢れてるじゃない』


『しっかり冷凍すれば問題ないだろ』


『だとしても生はねぇ』


 アルバン王国だと食材は熱を通すのが文化的な習慣として根付いてるのだろう。


 もしかしたら異世界の寄生虫はアニサキスより凶悪な種ばかりなのかも知れない。


 寿司は不評なのでハンバーガーやピザ、ラーメンなんかを次々と召喚する。


『お、美味しい…。ルーヴィスト家の食事より断然上だわ。貴方って貴族だった可能性が高いわね』


 今回はメアも舌づつみを打つ。夢中で豪勢な食事を満喫した後、何かを召喚する事に嵌まってしまった俺は、10式戦車を顕現させた。


 10式戦車は自衛隊保有の第3.5世代主力戦車だ。


(日本を出国する前日、テレビ番組で超人気お笑い芸人、カスレーサーが搭乗してるのを見て、俺もいつか乗りたいと思ってたんだよな)


『メア、一緒に乗り込むぞ!』


『分かったわ。これはゴーレムの一種か何かかしら?通常、強度が下がる為に人が入れる隙間は作らないから、珍しいわね』


 流石魔術師。技術体系が異なっても物事の性質を見抜けるようだ。


 戦車内部は国家機密なのか、放送されていなかった。


 だから内部は俺が以前遊んでいた戦車ゲームと同じにしている。


 1人でも操縦できる、簡素で親切な設計だ。


 車載カメラをオンにし、周囲の森を切り拓く事で広場を拡大させる。


 地平線の彼方まで草原になったのを確認すると、標的を用意した。


 動きの緩慢なゾンビの大群だ。


『メア戦車隊長殿、御指示を!』


『え、ええ…………。発進しなさい』


『パンツァーフォー!!!』


 叫びながらゾンビの群れに突っ込み、轢き殺していく。


『何この速度!こんなに早いゴーレムが存在するなんて…。夢だから?それにしては機体の動作に不自然さが見られない…』


 ハッチから身を乗り出したメアが驚く。


 戦車の走行シーンは動画サイトで何度も視聴した事があるからか、予想以上に上手く再現できたようだ。


 ゾンビを粗方轢き終えると残党に向けて機銃を掃射、一匹残らず駆逐する。


 次に一台の戦車を出現させた。


 次々と砲弾を撃ってくる為、俺は操縦に集中する。


『メア!モニターで照準を合わせながらレバーを引いて主砲を撃ってくれ!操作方法はそこのマニュアルに描いてある』


 日本語では無く絵だから伝わるだろう。


 雷鳴の如き大きな砲声が響き渡ったかと思うと、50メートル前方の敵戦車に着弾、大破させた。


『す、凄すぎるわ!高い機動力に連射式の銃、更に一発で分厚い金属の装甲を貫く主砲の威力!リマニラ帝国はこれ程の技術力を有しているというの⁉︎ヒデキ、貴方は国の中枢から追われてきたんじゃないかしら?皇帝の不興を買って脳を弄られた後、誰かが逃してくれたとか』


『もしかしたら、そうなのかもな』


(本当の事を言えないのは心苦しいが仕方が無い。もし異世界から来たのを証明できるようなら、その時に打ち明けよう)


『他には何か面白そうな物は無いの?』


『少し待ってくれ』


 意識を集中させて世界を作り変えていく。


 空に浮かぶ巨大ガス惑星を恒星にして明るくし、地面を海に変更する。


 俺たちはまばらに白雲の広がる上空に転移した。夢だから何でもありだ。


 転移先には2機の戦闘機が鎮座している。こちらは恐らく現実には存在しない、ゲームオリジナルの機体だ。


 それぞれ操縦席に乗り込むと、俺は無線でメアに声を掛ける。


『操作マニュアルがどこにあるか分かったか?』


『勿論。少し練習させて』


 滑らかな飛行ができるまで練習する。上手く飛行できるようになって、巨大な空母と戦闘、搭載されたミサイルで轟沈させた。


 装備もゲーム仕様で、クールタイム後に再装填される仕組みだ。


『そろそろドックファイトしよう』


『ドックファイト?』


『航空機同士の戦闘をそう呼ぶんだよ』


 十分な距離を取って向かい合う。視界には映らないが、レーダー上では真正面にメアの機体がある。


 エンジンを入れ数分間飛行していると、正面から飛んで来た戦闘機にミサイルを撃ち込まれたので回避、こちらも撃ち返す。


 すれ違った所で互いに急旋回、背後を取ろうとするが、メアの方が少し早めに旋回した為、後ろを取られてしまった。


 ミサイルを撃たれたので、慌ててフレアを発射、背面飛行しながら白雲の中に逃げ出す。


 やり慣れたゲームだけあって、背後を取られたのはわざとだ。


 雲の形が縦長なのを利用して、俺はほぼ垂直に落下するような飛行を行う。


 その後雲から脱出、上空を見上げると焦った様子の機体を発見、ミサイルで撃破した。


『まさか下に居るなんて思わなかったわ』


『こうしたんだよ』


 先程の落下飛行を再現する。


『もう一回よ!』


『えっ?』


『もう一回!』



 ◇


 俺は目を覚ます。


『おはよう』


『ああ、おはよう』


 空色の瞳に見つめられて、恥ずかしさの余り僅かに目を逸らしてしまう。


 メアには恥じらいという物が無いのか、何故か無表情だ。


 因みに寝る時は必ず俺が下側で、メアが覆いかぶさってくる。


 恐らく、異性に組み敷かれるのはプライド的に許せないのだろう。


 結局、俺達は15回も空中戦を繰り返した。戦果は8勝7敗だ。


 後半はメアの腕前が上達して負け続けてしまった。長くプレイしていたゲームだけあってかなり悔しい。


 遊び過ぎたせいで起きる時間が遅くなった為、メアから血と向心薬をさっさと貰って朝食にする。


『そうだ。貴方のリュックの中を見せなさい』


『どうして?』


『良いから。《命令よ》』


 途端に身体の自由を奪われ、リュックをメアに手渡してしまう。


 リュックには


 着替え用の衣服(長時間洞窟に居たせいで全てボロボロ)水筒、コンパス、チェルノブイリ近郊の地図、スマホ、腕時計、筆記用具、ライター、タオル、手ぬぐい、ティッシュ、ビニール袋、充電器、3種のハンティングナイフ(ダガー型、カービングナイフ、折りたたみ式ナイフ)

 ロープ、パスポート、フリヴニャ(ウクライナ通貨)、エマージェンシーシート何かが入っている。


 防水機能が高い特殊なリュックなので、川に飛び込んだ時も荷物が駄目にならずに済んだ。


 非常食もあったが、もう既に全て食べてしまっている。


 メアはスマホや充電器、腕時計を取り出すと使い方や仕組みを知ろうと質問を繰り返す。




 おかげでその日は前日の半分程の距離しか歩けず、再び夜になっても腕時計以外は返却される事は無かった。


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