第11話 謁見
〜前回のあらすじ〜
貴族に絡まれ、連行される!案内された部屋には1人の天使が座っていた!
『初めまして。ヒデキと申します。こちらこそよろしくお願いします』
『メア・ルーヴィストですわ。ルーヴィスト家の人間とはいえ、今は追放された身。どうか寛大な処置をお願い致します』
先程から似たような挨拶ばかりしているなと思いつつ、今回は苗字を名乗る事は避けた。
『ああ、お嬢様の方はあの伯爵家の方でしたか。別に構いませんよ。確執が無いとは言いませんが、貴重な情報源を私怨で台無しにするような真似は致しません』
それに、と一拍子空けてから続けて、
『勝手に非敵対的な古の者共を殺したとなれば、貴族の恨みを買いますから』
(よく分からないが、メアは意図的に自分は貴族出身だとアピールしていたのか)
なるほど、敵国の情報となれば高く売れそうだ。売り切ったら用済みになりそうだが。
そこは何故か貴族のお陰で何とかなるのかな?後でメアに確認する必要がある。
『お二人共、どうぞ席におかけ下さい』
テーブル越しに向かい合うような形で、木製の白い椅子に腰掛けた。
するとミラルは白磁のティーポットからコップへ紅茶を注ぎ、自分のものに口をつけた。
ミラルがしっかり飲んでいるのを確認して、俺達もコップに手を伸ばす。
『お気に召して下さったでしょうか?この茶葉はカイパードロップ領の特産品なのですよ』
『ええ。芳香な香りでコクの強い、いい茶葉ですわ』
『それは良かった。異国の方に出しても味覚が違うのか、お気に召さない場合も多いので不安だったのです』
『あの、ミラル様。本日はどのような理由があって我々をお呼びになったのですか?』
紅茶の品評会が目的では無いはずだ。こんなに丁重に扱われると、逆に何か悪巧みしてるんじゃないかと勘ぐってしまう。
早く彼女の真意を知りたい。
『確かにもう夕方ですし、さっさと本題に入ってしまいましょうか。単刀直入にお聞きします。貴女方のご入国の目的は何でしょうか?』
俺とメアで今までの出来事、及び人間側へ亡命したいという趣旨を述べる。
俺が記憶喪失だと言う下りで胡散臭い視線を向けられたものの、基本的には信用を得られた。
『ジェリー、聖水晶を持ってきなさい』
隣の部屋から別の天使が水色の水晶を運んでテーブルの上に置いた。
ミラルの護衛が居ないのは不自然だと思っていたが、すぐ近くに潜んでいたみたいだ。
『こちらは善神の1人であるランバルド様の聖遺物です。水晶に手を翳すことで契約を行えます。貴女方には身体の自由を保証する代わりに、教会への敵対行為を行えば神罰が生じる内容で契約して頂きたい。神罰は呪いと異なり、全種族に対して効果があります。下されると免疫力や筋力、思考力等身体能力全般が低下しますので下手な行為は慎むよう、強く主張しておきます』
『それだけなのですか?しかも教会への敵対とは具体的にどのような行為が該当するのでしょう?』
『本当は全ての善神側の種族に危害を加えるな、と要求したいところです。ですが教会も昔ほどの権力は残っていません。更にここまで荒んだ世の中では当然争いに巻き込まれもするでしょう。教会の関係者や所有物に対して意図的に害を加えない限りは何も起こりませんよ。もし反教会的な人間を仕留めれば褒美を渡したい位です』
『反教会的な人間とは貴族達のことを指しておられるのですか?』
神代の戦争後、勝手に神々の代理人を名乗った人々が皇族、王族を含む貴族達の起源だったはず。
未だに恨んでるのかも知れない。
『えーっと。ヒデキ様は神話についての知識は記憶されてますか?』
『一応メアからは教えて貰っています。古き者共がひしめき合う中、善神が宇宙から介入したとか』
間違っても侵略したんでしょ、とは言えない。
『………。本当は先に善神側が暮らしていたのですけどね。魔力の減少で一時的に移住した間に古き者共が住み着いたのですよ』
『それが善神側の言い分なのかしら?……いえ、でしょうか?』
不機嫌そうな顔でメアが答える。
意外にも信心深い彼女からすれば、今の発言は許し難いに違いない。
『ゴホンッ!話を戻しますが、貴族はそこまで問題では無いのですよ。神々の代理人を名乗る以上、表面上は教会を無下にはできませんから。基本長命である彼らは保守的でもありますしね。問題は最近になって神々の存在を全く信じないか、信仰心はあっても神々の存在証明は不可能であると考える愚か者が増えている事です』
『あら、こちらでも問題になっているのですわね。アルバン王国でも若い世代を中心にその手の思想が広まってしまい、<敵は外にあらず、内にあり>をスローガンに弾圧してましたわ』
無神論者とか不可知論者といわれる人々か。
この世界の神々はおよそ5千年も休眠状態に陥ってるらしい。
でも短命な種族や新しく生まれた世代からすればそんな奴居るの?笑みたく考えるのも当然だな。
『他にご質問はございますか?』
『俺はありません』
『私も同じく』
『それでは水晶に手を翳して頂きたく思います』
果たして天使が信用できるのかは不明だが、リスクを負ってでも敵対の意思が無いのを示すべきだ。
俺達は順に水晶に手を向ける。水晶と体全体が淡い光に包まれた瞬間、体内の魔力が水晶内に流れ込むのを感じた。
『これにて完了です。旅をするとの事ですので、貴女方の情報は天使独自のスキル「精神感応」にて他の天使達と共有しておきます。それと契約期間は100年程度です。その時点でも善神側の領域に留まるようであれば、教会にて更新してくださいね』
流石は不老の種族、100年越しの契約なんて元の世界じゃそうそうお目にかかれないだろう。
『話はこれで終わりですか?』
『いえ、もう少し待ってください』
『アルバン王国の情報についてなら、分かる範囲で売り渡す準備はありますわよ』
『それも重要ですがもう一つ、取引したいことがあります』
『取引?』
(嫌な予感しかしないぞ)
『旅をするなら資金が必要ではありませんか?』
『どのような仕事なのか是非お聞かせして頂きたいですわ』
『仕事内容としては傭兵ですね』
『戦争に参加しろと?』
メアが怪訝な声で尋ねる。
『もし引き受けて頂けるなら、1日大銀貨3枚出しますよ。勿論1人あたりです』
『少し少ないですわ。せめて大銀貨4枚にしてくださらないと』
『こちらも潤沢な資金があるわけでは無いんですけどねぇ。サラゴサに入町してからの貴方方を監視していましたが、第2外壁で門前払いにされたそうではないですか。代りに貴族街への通行許可証を発行する事で手を打ってくれませんか?』
『それなら考えても良いかも知れませんわね。ヒデキはどう思う?』
『追加で教会の戦力の方々と軍事訓練する権利も欲しいです。対人戦や集団での戦闘経験が無いので必須だと思います』
『良いですね。最近は小競り合いすら無く、聖騎士達も吸血鬼や魔人との戦闘経験が不足してますから、我々としても歓迎します』
『然るに依頼の詳細は何なのですか?』
『サラゴサ近くのウルバヌ村が反乱を起こしたので、なるべく多くの兵士を出兵させたいのです』
『領主では無く、教会が鎮圧する必要があるのですね』
『ええ。正確には教会も参戦する必要があると言った方が適切でしょう。ウルバヌ村は向心薬の原料であるベックの実の生産地ですから。混乱が続けばアルバン王国への密輸が出来なくなり、教会の収入が途絶えます』
『あら、それなら海峡トンネルの密輸には教会が一枚噛んでいたのでしょうか?』
『はい。海路で運びたくとも港は水の勇者アーリィ・スワントマン子爵の縄張りですから。彼は別口から向心薬を仕入れて輸出してるので、競合関係にあります』
勇者は精霊等の高位種族から加護を得て武勲を挙げた人物の総称だ。
水の勇者なら多分ウンディーネの加護を得たのだろう。
ウンディーネって湖に生息してるイメージだけど、この世界じゃ海でも生活してるみたいなんだよな。
念話で翻訳される際に俺の知識内で最も近似な存在だからウンディーネって変換されるだけで、実際はヨーロッパの民間伝承とは全く別の種族なのかも知れない。
『他にもベックの実の生産地は存在するのですが、ウルバヌ村の教会農園はサラゴサ周辺だと最大なんです。例年多くの実が向心薬へ加工され、教会の財政を潤してきました。しかしマグラーシュ男爵が反旗を翻したのです』
ミラルの話は続いていく。
要約すると約20年前、現領主が前領主の地位を事実上簒奪、前領主派を粛清した。
しかし魔力保有量が多く、教養も高い貴族の粛清は領主にとって基本的に悪手だ。
粛清すればするほど都市や村の支配、防衛等をできる人材が減るのだから。
だから新たな領主となったアレクシス・カイパードロップ辺境伯と取り巻きは、中立のニールベン家や清廉潔白なマグラーシュ男爵は罰せず、その地位や権益を保障した。
ギクシャクしながらもアレクシス辺境伯とマグラーシュ男爵の関係は暫くは上手くいっていたが、長くは持たなかった。
ある日マリューシャン王国で正体不明の疫病が流行り始める。
発熱や嘔吐を訴える民衆が病院に殺到するが、治癒術師に為す術はない。
金さえ払われれば手足の欠損すら治療する彼らも、伝染病を癒す力は持っていなかった。
医者にできることと言えば、精々香辛料を詰めた嘴状のマスクを被って患者を隔離する位だ。
1年後、疫病は王国中の墓場を満杯にした所で収束する。
だが王室が感染源を調査すると、最初の感染者はおそらくサラゴサの住人である事が発覚した。
人災とは言い難いが、何もしないと他貴族から疎まれかねない。
そう考えたアレクシス辺境伯は最初の感染者が発病する直前、ウルバヌ村に赴いていたのを理由にマグラーシュ男爵に責任を擦り付けた。
ウルバヌ村は法律上カイパードロップ領であるが、代官としてマグラーシュ男爵が経営していたからだ。
当然、マグラーシュ男爵は激怒した。元々は前領主の息子の1人でありながら辺境伯と和解したにも関わらず、このような酷い仕打ちをされたのだから。
男爵は極めて平凡な才覚の人物だ。
けれども人望は厚く、サラゴサ商人に税以外のベックの実を含む、多くの作物を安く買い叩かれていた村人達を味方につけて反乱を起こした。
ただ反乱を起こしただけなら教会が関わる必要は無い。
しかし村に立て籠った彼らは、ベックの実を割高な価格で売却しだした。
下級貴族や教会所有の農園から収穫した分も含めてだ。
財政力の高い貴族や商人、教会等は買い戻せたが、一部の弱小貴族や商人にそんな余力は無い。
男爵は何と金の無い人々が買い戻せないと知ると、売れ残りのベックの実を向心薬へ加工し、闇市にて安値で売り払ってしまう。
結果、向心薬の末端価格は下落した。
その上向心薬の販売には協定が存在し、マリューシャン王国では医療や軍事、他国への輸出目的以外での薬の販売は制限されている。
領民が健康状態を損ない、労働力が減少しないようにする為だ。
ただしスラムに関しては黙認されているが。
男爵は即金を手に入れようと、一般層にも向心薬を売却、中毒者が続出した。
男爵の余りに独擅的な態度に辺境伯を中心にウルバヌ村に利権を持つ貴族や教会が結託、討伐軍を結成しようと言う事になったらしい。
そこで少しでも多くの戦力を用意して貴族に恩を売るため、俺達を雇いたいようだ。
『どうでしょう?引き受けて頂けますか?』
『私としては問題ありませんわ。気になる点は村を制圧した時、略奪品は誰の所有になるのでしょうか?』
『他国との戦争であれば先に略奪した者勝ちですが、今回は謀反です。基本ウルバヌ村の財産は制圧後、別の貴族に引き継がれます。ただし兵士の士気を上げる為、民家の物品は早い者勝ちになります』
『向心薬を分けては下さらないのでしょうか?』
『良いですよ。今後とも何かあれば教会を手助けして下さるという条件なら』
『了解しましたわ。取引成立ですわね』
ミラルとメアは固く握手を結ぶ。
話は終わったので宿を探しに行こうとしたが、戦争に向かうまでの約1ヶ月間、教会に隣接した司祭の家に泊まって良いと言われた。
飯と風呂付きでだ。
早い段階で後ろ盾を得られたのは僥倖と言えるのかも知れない。
精神感応 天使固有のスキル。短距離でしか会話できない念話と異なり、どれほど距離が離れていようと通信が可能。距離が離れれば離れるほど消費魔力も当然大きくなる。




