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第10話 教会

~前回のあらすじ~

おっさん発狂!ヒデキに殺される!監視された挙句、貴族らしい優男に包囲された。


『貴方様のような高貴なお方が下賤な我々へご丁寧にお声がけしてくださるとは、大変な光栄にございます。然るに、どのような御用件でしょうか?』


 俺は失礼の無いよう、考えつく範囲で敬意を表する。


 メアの境遇を聞く限り、貴族と敵対すればどんな陰湿な嫌がらせを受けるか分かったものでは無い。


『ハハハッ。それほど警戒なさらずとも、取って食うような真似は致しませんよ。ただ私は権天使様であらせられるミラル様より、貴公らを教会へお連れするよう仰せつかっただけです。少しお時間を戴けないでしょうか?』


『どうする?』


『どうするも私達に拒否権なんて無いでしょうね。腹を括って付いていきましょう』


 周囲は完全に兵士によって包囲されている。ここで歯向かっては人間側も敵に回すだけだ。


 この場で殺そうとしないで、わざわざ教会に連行するのは何かしらの理由があるのだろう。


 まだ敵対すると決まった訳では無いのだから、ここは大人しく彼らに従うべきだ。


『ニールベン卿、僭越ながらご案内して頂けないでしょうか?』


 ニールベンは気さくな笑みを浮かべる。


『当然です。貴君らはクラフティー家の名にかけて必ずミラル様のお膝元へお連れ致します。話は変わりますが、貴君らは何とお呼びすれば宜しいでしょうか?』


 ここで俺たちは相手が名乗ったというのに、名前を明かしていない事実に気づく。貴族に対して無礼だろう。


『名乗りが遅れたしまい、大変失礼しました。ヒデキ・スギハラと申します』


『メア・ルーヴィストですわ。苗字持ちですが私は愛妾の子であり、今は一族とは縁を切られた身。そこらの平民と同様の扱いで構いません』


 両手でスカートの裾を掴み、軽く持ち上げながら僅かに頭を下げてメアが答える。


『ほう、お二人共貴い家のご出身であられましたか。言葉の節々に教養のあるご様子なので、予想はしておりましたが。』


 しまった…。以前メアに対して名乗った後も、俺が苗字持ちな理由を根掘り葉掘り聞かれて大変だったんだ。


 記憶喪失が原因で家柄や一般常識を忘れてると言い、誤魔化してことなきを得たが。


 未だに日本の常識という物差しで物事を考えてしまう。


 早く思考をこちらの世界へ切り替えなければ。


『私は記憶喪失気味で自分の家柄は疎か一般常識すら、禄に覚えておりません。不快なお思いになる態度をしてしまっていたら申し訳ないです』

 

『いえいえ、貴殿の振る舞いや言葉遣いは非常に謙虚で慎ましやかですよ。正直多少不自然な点やぎごちなさはありますが、文化的な違いと考えれば仕方の無いことと思われます』


 挨拶も済み、ニールベンの案内で教会へ向かう。 


 教会は地区ごとに必ず一ヶ所は設置されてるらしいが、俺達の案内されている教会は第2外壁の内側、つまりは上流階級用の居住区にあるようだ。


 ニールベンは領主に警備隊長を任命されているのに、何故関係の無さそうな教会の案内役をやらされているのだろう。


 普通城か役所にありそうな尋問室や監獄で取り調べやら拷問やらしそうなものだが。


 疑問に思い、道中で尋ねると


『現領主とは派閥が異なりますので、余り親しくはありませんよ。手短に話しますと、私は前領主の代から警備隊長を務めておりまして、領主の継承争いでは中立だったために何のお咎めも無かったのです。私が教会の案内役を仰せつかっているのは単純に教会派の人間だからですよ』


『世俗権力の中にも宗教界の影響はそれなりにあるのですか?』


『そうですね。教会派は数こそ多くはありませんが、有力な方々も加入されています』


 天使と相見える際、何らかの交渉をしても不利にならないよう、なるべく多くの情報を収集する。


 会話を続けていると、やがて貴族街への入り口が見えてきた。


 多くの衛兵を引き連れているのを見た通行人達が道を譲ってくれるので直ぐに到着した。


 貴族街はやはり一般市民の居住区とは異なり、大きな一軒家の屋敷ばかりだ。


 屋敷の外観も中世ヨーロッパや西洋ファンタジー世界にありそうな様式ばかりで、一般区画程の国際色は無い。


 それでも建物ごとにアーチの大理石造りだったり、双塔型の西正面を持つ建築だったりと特色があって面白い。


 また建物によって広々とした芝生や高く噴き上がる噴水、迷宮のように入り組んだ薔薇園なんかが付随しているので、一軒一軒の間がかなり空いているのも一般区画とは異なる。


 魔物が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するこの世界では、人類の可住面積は少ないはずだ。


 所有する土地のサイズが地球以上に富の象徴を表すのかもしれない。


 教会は大通りに面した立地の良い場所に聳え立っていた。


 遠目からでもよく目立つ2つの美しい塔が映える、壮厳なゴシック風建築だ。


 教会の入り口には2人の白い鎧を纏った兵士が直立していた。


『ニールベンだ。ミラル様にお客様をお連れしたと伝えて欲しい』


「glnvdvjlejmvtrkv。少々お待ちください」


 兵士の1人が教会へと入っていく。


 暫く待つと、奥から白髭を生やした老人が姿を現した。


 黒い修道服に丸い帽子を被っている。


『お待ちしておりました。ミラル様は謁見の準備が整っているとの事です』


『そうですか。私はこれから仕事がありますので、ここで失礼します』


 ニールベン卿とはお別れみたいだ。


 案内を引き継いだ老人に簡単に挨拶を済ませ、共に教会内部へ足を運ぶ。


 老人の名前はラース・アブハミトと言い、教会での地位は司祭らしい。


 この教会での儀式や天使の身の回りの世話が職務のようだ。


 教会の一階は天井の高い礼拝堂になっていて、神々や天使、聖者と思われる人物が描かれたステンドグラスで彩られている。


 奥の方は祭壇なのだろうか、長剣を掲げた半裸の人物の石像が中央に鎮座していた。


 教会自体はキリスト教っぽいのに偶像崇拝してるのは興味深い。


  いや、キリスト教でもマリア像が置いてあったりするか。


『市民の方は参拝されないのでしょうか?』


 人っ子1人居ない状況を疑問に思ったのか、メアがラースに尋ねた。


 先程よりも言葉遣いが更に丁寧になっている。


 敵国の本拠地とも言える場所だけに、緊張しているのかも知れない。


『普段は多くの方々が参拝されますよ。ですが本日は闇の日ですから。縁起が悪いので定休日となっているのです』


 この世界の曜日は雷火水風土光闇の7日間で1週間となっている。


 しかし1年365日で1ヶ月が約30日なのは変わらない。


 ラースは祭壇近くの壁に手を当てる。景観を損ねないようにしてあるのか、隠し扉になっていた。


 扉の先の階段へと登っていき、おそらく5階に来た所で長い廊下に入って行く。


 廊下を進んで行くと、銀色の獅子が描かれた両引き扉が現れた。


 いかにもラスボスが登場しそうな雰囲気を醸し出している。


 ラースは廊下の隅で佇んで動かない。これより先は俺たちだけ入れということらしい。


 ◇


 扉の先には1人の女性が椅子に座り、読書をしていた。


 金髪碧眼の中性的な顔立ちで白いローブを羽織っていて、更に特徴的な翼を生やしている。


 俺の蝙蝠のような漆黒の飛膜ではなく、平和の象徴である白い鳩のような鵬翼(ほうよく)だ。


『ケールスベルク教会へよくお越し頂きました。ミラル・ランバルドと申します。以後お見知り置きを』

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