蛍はいつも泣いている 7
ガチャン!
ガラスが割れるような音で蛍は目を覚ました。
「あなたが……だから……」
「うる……い、いちいち……、なんでも……」
壁越しに両親が言い争っている声が切れ切れに聞こえてくる。すごく悲しく嫌な気分になった。蛍は毛布を体にぐるぐる巻き付けながら壁から遠ざかった。
一体いつ頃から両親はあんなに仲が悪くなったのだろうか
切っ掛けがなんなのか分からない。一年くらい前から両親の様子がおかしいな、とは感じていたのだが、半年前に母親から父親と自分のどちらについてくるかと問われた。日曜の朝のことだ。
その日の夜は一睡も出来ず、次の日の学校で蛍は吐いた。
そして、いじめが始まった。
父さんと母さんは今、自分がいじめられていることを知っているのだろうか?
ぐるりと世界が回り始める。
蛍は慌てて頭を振り、ストレスを振り払う。
ストレスをかけてはダメだ。何か楽しいことを考えなくては、と蛍は思う。
しかし、最近では家でも学校でも楽しいことは本当に少なくなっていたから何も思いつかなかった。
ぐるり ぐるり
世界の回転が早くなる。
と、健の顔が闇の中に浮かび上がった。
なーんで、あいつの顔が思い浮かぶ!
思い浮かべた当の蛍も面食らった。
理由が分からない。
不意討ちだ。
意味もなく恥ずかしくなって体がカッカと熱くなった。
違う 違う 違う
蛍は懸命に頭の中から健の顔を振り払った。
「絶対、おかしーでしょ!」
蛍はミノムシのように毛布にくるまったままゴロゴロとベッドの中を転がる。
「絶対に違うから……」
うめくような蛍の言葉とは裏腹にいつの間にか世界は回転するのを止めていた。
□
ある休みの日のことだった。
角を曲がった蛍は慌てて体をもと来た道へと引っ込めた。遠目に瑠璃果の姿を認めたからだ。
少し間をおいてから、そっと顔を覗かせる。
瑠璃果は誰かを待っているようで明後日な方向を見ていた。
もしかしたら、私を探しているのだろうか、と少しドキドキしながら伺っていると立見たち、いつもの三人の取り巻きが、見知らぬ中年の女性を連れて現れた。
誰だろう、と首を傾げていると瑠璃果と三人の取り巻き、そして、謎の女性は一緒になって歩き始めた。
蛍は妙な胸騒ぎを覚え、こっそりついていくことにした。
やがて、一行は交番へと入っていった。
10分ほどすると一行は交番から出てきた。一行には警官が二人追加されていた。それを見て、蛍はますます胸騒ぎを覚え、一行の後を追いかけたる。
一行はやがて、公園にたどり着いた。
「健……」
公園には健がいた。一行は健に向かって一直線に進んでいった。
2019/10/06 初稿