蛍はいつも泣いている 8
立見たちが二人の警官に何やら話しかけ、公園にいた健を指さした。
二人の警官はゆっくりと健に近づく。二言、三言話を交わすと、突然片方の警官が健の肩を掴んだ。健は少し驚いたような表情を見せると警官を振りほどこうとしたが、がっちり掴まれていて振りほどけなかった。
「おとなしくしなさい」
警官の声が遠くで見ていた蛍の耳にも届いた。
「話を聞くだけだよ」
警官は言ったが、健はそれに強く反発した。
「話ってなんの話だよ」
「君があそこの女性の犬にひどいことをしたと聞いたから、なんでそんなことをしてしたのか話を聞きたいんだ」
「ひどいって、どんなことさ?」
「唐辛子か、何か刺激物をかけたんだろ?」
もう一人の警官も健を囲いこむように近づきながら言った。
「そんなことするもんか!」
そうだ、健がそんなことをしてするはずがない、と蛍は思った。
「でも、君が刺激物をかけていたのを見ていたのを見たと言う子たちがいるんだ」
警官たちが後ろを振り返る。その視線の先には瑠璃果たちがいた。その姿を見ると健は激昂した。
「くそっ!また、お前たち、適当な嘘をつきやがって!」
そのまま殴りかからんばかりの勢いで瑠璃果たちに駆け寄ろうとするが二人の警官に押さえ込まれてしまった。
「くそっ!放せよ!」
健は体をねじり、悔しそうに叫んだ。
蛍は全てを理解した。
瑠璃果たちがこの間の仕返しに、健に有らぬ濡れ衣を着せようとしているのだ。蛍は木の影から瑠璃果たちを睨み付けた。
瑠璃果たちは警官に押さえ込まれている健をにやにや楽しげに眺めていた。
蛍は悩んだ。飛び出していって、健はそんなことはしていないと叫びたかった。だけど、証拠がなかった。どうやって健がやっていないと証明すればいいんだろうと、蛍は躊躇した。
その時だ。
「その子はやっていないと思います!」
突然、公園に女の子の声が響いた。
警官も、瑠璃果たちも、そして蛍もその声に驚き、声の主へと顔を向けた。
そこには見知らぬ女の子がたっていた。胸に猫を抱いていた。
「誰よ、あの子……」
蛍は木の影に隠れたまま、呟く。
見知らぬ女の子は警官に近づいて行く。
「その子は私とずっと一緒にいました」
女の子は澄んだ声で堂々と健の無実を主張し始めた。警官の詰問にも微塵も動じる様子を見せない。
「本当です。ついさっきまで一緒いました」
女の子の自信満々の態度に突然、瑠璃果の横にいた少年、城崎一が大声を上げて逃げ出した。
蛍が考えていた通り、適当な言い掛かりだったのだろう。状況が変な方に転がり始めたので気の弱い一が真っ先にパニックに襲われて逃げ出したようだった。
一角でも崩れれば後は脆い。あっという間に瑠璃果たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまった。
痕に取り残され、梯子を外された格好の警官たちは困ったように顔を見合わしていたが結局、健を放免するしかなかった。
放免された健は憮然とした表情でその場を足早に立ち去る。
蛍は健を追いかけようとして思い止まった。
なんと、見知らぬ女の子も健を追いかけはじめたからだ。
「えっ?なんであの子は健を追いかけるのよ」
一体、あの子は健とどんな関係なんだろう?
その疑問は蛍の心臓をぎゅうっと締め付けた。
2019/10/13 初稿




